東京ダンジョン物語

さきがけ

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第31話:ハイエンド・ギア

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同じ頃、悠真と美琴もまた、山手線で秋葉原へと向かっていた。新宿の喧騒を離れ、車窓から見える景色が次第に電気街のそれに変わっていく。

「……すごい金額だ」

悠真は、自分のスマートフォンの画面に表示された口座残高を見つめながら、改めて呟いた。ゼロがいくつも並んだその数字は、まるでゲームのスコアのように現実味がない。隣に座る美琴も、同じ画面を覗き込み、小さく頷いた。

「これで、装備も、当面の生活も、何も心配いりませんね」

「ああ。でも、金銭感覚がおかしくなりそうだ」

悠真は苦笑し、スマートフォンをスリープさせた。大金を手にしても、まだ実感が湧かない。とりあえず今は、目の前の目標に集中することにした。

午後1時5分前。秋葉原駅の電気街口改札を出ると、むっとするような熱気が二人を迎えた。アニメやゲームの巨大な広告看板が視界を埋め尽くし、様々な言語が飛び交う喧騒の中、探索者協会の本店ビルは、まるで周囲の混沌を睥睨するかのように、静かにそびえ立っていた。

ビルの正面入り口で待っていると、すぐに人混みの中から見慣れたツインテールの少女が姿を現した。

「悠真さん、美琴さん! お待たせしました」

白いブラウスに水色のスカートという爽やかな私服姿の紗夜が、駆け寄ってくる。その表情は、新しい装備への期待に満ち、キラキラと輝いていた。

「俺たちも今来たところだ」

「紗夜ちゃん、暑い中お疲れ様」

三人は挨拶を交わすと、早速ビルの中へと足を踏み入れた。目指すは3階、武器防具フロア。その中でも、特に上級探索者向けの装備が並ぶ一角だ。

エレベーターを降りた瞬間、三人は思わず息を呑んだ。そこは、これまでに見たどの装備店とも一線を画す、荘厳な空間だった。磨き上げられた床、間接照明に照らされた黒い壁。そして、ガラスケースの中に鎮座する武具の数々。ミスリル合金、強化鋼、魔獣の革。上級素材から作られた装備が、まるで美術品のように、静かな光を放っている。

「すごい……」

紗夜が感嘆の声を漏らした。その目は、憧れの品々を前にした子供のように、純粋な輝きに満ちている。

「いらっしゃいませ。本日はどのような装備をお探しでしょうか」

スーツを完璧に着こなした、物腰の柔らかい男性スタッフが、三人に声をかけてきた。その胸には「案内係」と書かれたプレートが付いている。

三人はそれぞれの戦闘スタイルと、上級階層での活動を想定していることを伝えた。スタッフは真剣な表情で耳を傾け、いくつかの質問を投げかけた後、的確なアドバイスと共に、いくつかの装備を提案し始めた。

まず、悠真の装備から選んでいく。攻守のバランスと機動性を重視するという彼の要望に対し、スタッフは二つの鎧を組み合わせることを提案した。

「こちらのミスリル製のチェインメイルは、軽量でありながら極めて高い防御力を誇ります。そして、その上から胸部や肩など、重要な部分を保護するために、こちらの竜革のブレストプレートを装着されてはいかがでしょう。竜革は魔法耐性も高く、ブレス攻撃などにも有効です」

悠真は実際に試着させてもらった。ミスリルの鎖帷子は、まるで絹のシャツのように体に馴染み、動きを全く阻害しない。その上から竜革の胸当てを着けると、確かな防御力と安心感が全身を包んだ。

「武器は、現在お使いのものを超える一振りとなりますと、こちらがお勧めです」

スタッフがガラスケースから取り出したのは、波紋のような模様が刀身に浮かぶ長剣だった。

「ダマスカス鋼のロングソードです。幾重にも折り重ねて鍛えられた刀身は、比類なき切れ味と耐久性を誇ります」

悠真が剣を手に取ると、ずっしりとした重みが腕に伝わってきた。しかし、不思議と振り抜きは軽く、重心のバランスが完璧に計算されていることが分かる。これならば、キマイラのような強敵とも互角以上に渡り合えるだろう。

次に、美琴の装備が選ばれた。後衛の魔法使いである彼女には、魔力の伝導率と詠唱速度が最も重要となる。

「杖であれば、こちらの古代樹の杖が最高峰の品となります。千年杉の枝から削り出されたこの杖は、術者の魔力を効率的に増幅させます。腕には、詠唱速度を補助するブレスレットを。そしてローブは、高い魔法耐性を持つ魔法繊維のローブがよろしいでしょう。特殊な魔法繊維で織られたこのローブは、あらゆる属性の魔法ダメージを軽減します」

美琴が杖を手にすると、杖の先端が、彼女の魔力に呼応するように淡い光を放った。魔法繊維のローブは、見た目の美しさだけでなく、羽のように軽い着心地で、魔法の発動に必要な繊細な動きを妨げない。

最後に、紗夜の装備だ。彼女の持ち味であるスピードをさらに活かすため、スタッフは軽量な革鎧を勧めた。

「こちらは『シルフィードレザーアーマー』。風の精霊の加護が宿ると言われ、着用者の俊敏性を向上させます。足元には、足音を消す効果のある『シャドウグリーブ』を。これで、より隠密な行動が可能になります」

紗夜がレザーアーマーに袖を通すと、まるで自分の体の一部になったかのように、ぴったりとフィットした。グリーブを履くと、歩いてもほとんど音がしない。これなら、敵に気づかれずに背後を取ることも容易だろう。

「剣も新調されるのでしたら、こちらのミスリル製の剣はいかがでしょう。驚くほど軽量でありながら、その切れ味は鋼を上回ります。スピードを活かした戦闘スタイルには最適の一振りです」

新しい剣を手にし、軽く素振りをしてみる。風を切る音が、以前の愛剣とは明らかに違っていた。

三人がそれぞれ装備一式を選び終え、会計カウンターに向かう。案内係が提示した合計金額に、三人は改めて息を呑んだ。

「合計で、2980万円になります」

約3000万円。普通の大学生や高校生には想像もつかない金額だ。しかし、悠真の口座には、まだその3倍以上の大金が残っている。改めて、マジックバッグというアイテムの異常な価値を、三人は実感せずにはいられなかった。
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