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第32話:最高の贅沢
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協会本店の1階にあるカフェテリアは、探索者たちの憩いの場として、常に賑わいを見せていた。三人は、購入したばかりの装備が入った専用ケースをテーブルの脇に置き、冷たいドリンクを飲みながら休憩を取っていた。先ほどまでの興奮がまだ冷めやらず、それぞれの新しい装備の性能について、熱っぽく語り合っている。
「ダマスカス鋼の剣、早く試してみたいな。どれくらい切れ味が違うんだろう」
「私の古代樹の杖も、魔力の増幅率がすごそうです。今までの魔法が、どれだけ強力になるか楽しみです」
「シルフィードレザーアーマー、本当に軽い! これなら、もっと速く動けるわ!」
一頻り盛り上がった後、悠真がふと真剣な表情になり、本題を切り出した。
「マジックバッグを売って得た金のことなんだが」
悠真は、自分のスマートフォンで口座残高の画面を二人に見せた。装備代を支払った後でも、約9000万円という数字がそこには表示されている。
「この残った金を、三人で三等分したいと思う」
その提案に、紗夜は弾かれたように顔を上げた。
「そ、そんな! ダメです! 私は、マジックバッグを手に入れるのに、何も貢献していませんから!」
彼女は激しく首を振り、固辞した。悠真と美琴がキマイラを倒せたからこそ手に入ったアイテムだ。自分は、ほとんど足手まといだったではないか。そんな自分が、大金を分け与えてもらう資格などない。紗夜は本気でそう思っていた。
そんな彼女の様子を見て、美琴が優しく諭すように言った。
「紗夜ちゃん。私たちは同じパーティーの仲間でしょう? 戦利品は平等に分けるのが当然よ。それに、紗夜ちゃんには妹さんの治療費だって必要なんだから」
「でも……」
なおも食い下がる紗夜に、今度は悠真が、少し呆れたような、それでいて優しい口調で言った。
「それに、忘れたのか? 俺には『無限複製』がある。正直、金なんて、これからいくらでも稼げるんだ。だから、これは気にするな。仲間として、当然のことだ」
悠真と美琴の、真っ直ぐな視線。彼らは、自分を対等な仲間として、心から受け入れてくれている。その事実が、紗夜の胸を熱くした。これ以上固辞するのは、逆に二人の心遣いを無下にしてしまうことになるだろう。
「……分かりました。ありがとうございます」
紗夜は、感謝の気持ちを込めて、深く頭を下げた。悠真は、その場でスマートフォンを操作し、それぞれの口座に3000万円ずつを送金した。すぐに着金の通知が届き、紗夜のスマートフォンが静かに震えた。
◇ ◇ ◇
突如として、三人は大金持ちになった。それぞれのスマートフォンに表示された、見たこともない桁数の預金残高。しばらくの間、三人はその画面を無言で見つめていた。現実感が、まだ追いついてこない。やがて、その奇妙な沈黙を破るように、悠真がわざと明るい声で言った。
「なあ、せっかくだから、何かものすごい贅沢をしようぜ!」
その言葉に、美琴と紗夜も目を輝かせる。
「いいですね! どんな贅沢がいいでしょう?」
「私、一日中高級スパでエステを受けてみたいです! 全身マッサージとか、泥パックとか!」
美琴が、普段の彼女からは想像もつかないような、大胆な提案をした。
「それ、いいですね! 私は、ヘリコプターをチャーターして、東京の夜景をクルーズしてみたい!」
紗夜も、夢見るような表情で続く。
「じゃあ俺は、高級ホテルのスイートルームを貸し切って、三人でパーティーだな! ルームサービス頼み放題で!」
高級スパ、夜景クルーズ、スイートルーム。高校生や大学生が思い描く「贅沢」のアイデアが、次々と飛び出す。しかし、どれもこれも現実味がなく、いまいちピンとこない。まるで、テレビドラマの世界の話をしているかのようだった。
議論が一周し、少しだけ冷静になった頃、悠真がふと、根本的な問いを投げかけた。
「結局のところ、俺たちが今、一番したいことって何なんだ?」
その問いに、三人は顔を見合わせ、そして、一斉にお腹のあたりに手をやった。ぐぅ、と誰かの腹の虫が鳴る音が、カフェテリアの喧騒にかき消されるように響いた。朝から動き回り、緊張と興奮を繰り返したせいで、三人とも腹がペコペコであることに、今更ながら気づいたのだ。
「とにかく、すごく美味しいものが食べたい……」
美琴が、心の底からといった様子で呟いた。その言葉に、悠真と紗夜も力強く頷く。高級スパも、夜景クルーズも、今の彼らにとっては、空腹を満たすこと以上に魅力的なものではなかった。
「決まりね!」
紗夜がスマートフォンを取り出し、素早く検索を始めた。指が画面の上を滑り、やがて、ある一つの検索結果を指し示して、得意げに笑った。
「『都内 最高級 ハンバーガー』。A5ランクの黒毛和牛を100%使用した、一個5000円のハンバーガーですって!」
一個5000円のハンバーガー。その響きは、途方もなく贅沢でありながら、どこか身近で、抗いがたい魅力に満ちていた。
「それだ!」
三人の意見が、完璧に一致した。彼らはカフェテリアを飛び出すと、大通りでタクシーを拾った。行き先は、銀座。日本で最も高級な街の一つに、そのハンバーガー店はあるという。
タクシーの車窓から流れる景色を眺めながら、三人は自分たちの選択に、可笑しさと満足感を覚えていた。大金を手にした結果、彼らが選んだ「最高の贅沢」は、一個5000円のハンバーガーだったのだ。
銀座の裏通りにひっそりと佇むその店は、高級レストランのような落ち着いた雰囲気を漂わせていた。店内に足を踏み入れると、香ばしい肉の焼ける匂いが、三人の空腹をさらに刺激する。
やがて、テーブルに運ばれてきたハンバーガーは、芸術品のように美しかった。艶のあるブリオッシュバンズに挟まれた、分厚いパティ。そこから溢れ出す肉汁が、チェダーチーズと絡み合い、キラキラと輝いている。
三人は、ほとんど無言で、その絶品のハンバーガーを頬張った。一口噛むごとに、和牛の濃厚な旨味が、口いっぱいに広がる。ふわふわのバンズ、シャキシャキの新鮮な野菜、そして主役であるジューシーなパティ。その全てが完璧なバランスで調和し、至福の味を生み出していた。
今日の成功を祝い、新しい装備での探索への期待を語り合う。そして、いつか必ず手に入れる『生命の花』と、千夏の未来について。
大金を手に入れても、彼らの関係性は何も変わらない。目の前のハンバーガーを心から美味しいと感じ、仲間との他愛ない会話に笑い合う。そんなささやかな幸せを、三人は肉汁と共に、じっくりと噛みしめていた。
「ダマスカス鋼の剣、早く試してみたいな。どれくらい切れ味が違うんだろう」
「私の古代樹の杖も、魔力の増幅率がすごそうです。今までの魔法が、どれだけ強力になるか楽しみです」
「シルフィードレザーアーマー、本当に軽い! これなら、もっと速く動けるわ!」
一頻り盛り上がった後、悠真がふと真剣な表情になり、本題を切り出した。
「マジックバッグを売って得た金のことなんだが」
悠真は、自分のスマートフォンで口座残高の画面を二人に見せた。装備代を支払った後でも、約9000万円という数字がそこには表示されている。
「この残った金を、三人で三等分したいと思う」
その提案に、紗夜は弾かれたように顔を上げた。
「そ、そんな! ダメです! 私は、マジックバッグを手に入れるのに、何も貢献していませんから!」
彼女は激しく首を振り、固辞した。悠真と美琴がキマイラを倒せたからこそ手に入ったアイテムだ。自分は、ほとんど足手まといだったではないか。そんな自分が、大金を分け与えてもらう資格などない。紗夜は本気でそう思っていた。
そんな彼女の様子を見て、美琴が優しく諭すように言った。
「紗夜ちゃん。私たちは同じパーティーの仲間でしょう? 戦利品は平等に分けるのが当然よ。それに、紗夜ちゃんには妹さんの治療費だって必要なんだから」
「でも……」
なおも食い下がる紗夜に、今度は悠真が、少し呆れたような、それでいて優しい口調で言った。
「それに、忘れたのか? 俺には『無限複製』がある。正直、金なんて、これからいくらでも稼げるんだ。だから、これは気にするな。仲間として、当然のことだ」
悠真と美琴の、真っ直ぐな視線。彼らは、自分を対等な仲間として、心から受け入れてくれている。その事実が、紗夜の胸を熱くした。これ以上固辞するのは、逆に二人の心遣いを無下にしてしまうことになるだろう。
「……分かりました。ありがとうございます」
紗夜は、感謝の気持ちを込めて、深く頭を下げた。悠真は、その場でスマートフォンを操作し、それぞれの口座に3000万円ずつを送金した。すぐに着金の通知が届き、紗夜のスマートフォンが静かに震えた。
◇ ◇ ◇
突如として、三人は大金持ちになった。それぞれのスマートフォンに表示された、見たこともない桁数の預金残高。しばらくの間、三人はその画面を無言で見つめていた。現実感が、まだ追いついてこない。やがて、その奇妙な沈黙を破るように、悠真がわざと明るい声で言った。
「なあ、せっかくだから、何かものすごい贅沢をしようぜ!」
その言葉に、美琴と紗夜も目を輝かせる。
「いいですね! どんな贅沢がいいでしょう?」
「私、一日中高級スパでエステを受けてみたいです! 全身マッサージとか、泥パックとか!」
美琴が、普段の彼女からは想像もつかないような、大胆な提案をした。
「それ、いいですね! 私は、ヘリコプターをチャーターして、東京の夜景をクルーズしてみたい!」
紗夜も、夢見るような表情で続く。
「じゃあ俺は、高級ホテルのスイートルームを貸し切って、三人でパーティーだな! ルームサービス頼み放題で!」
高級スパ、夜景クルーズ、スイートルーム。高校生や大学生が思い描く「贅沢」のアイデアが、次々と飛び出す。しかし、どれもこれも現実味がなく、いまいちピンとこない。まるで、テレビドラマの世界の話をしているかのようだった。
議論が一周し、少しだけ冷静になった頃、悠真がふと、根本的な問いを投げかけた。
「結局のところ、俺たちが今、一番したいことって何なんだ?」
その問いに、三人は顔を見合わせ、そして、一斉にお腹のあたりに手をやった。ぐぅ、と誰かの腹の虫が鳴る音が、カフェテリアの喧騒にかき消されるように響いた。朝から動き回り、緊張と興奮を繰り返したせいで、三人とも腹がペコペコであることに、今更ながら気づいたのだ。
「とにかく、すごく美味しいものが食べたい……」
美琴が、心の底からといった様子で呟いた。その言葉に、悠真と紗夜も力強く頷く。高級スパも、夜景クルーズも、今の彼らにとっては、空腹を満たすこと以上に魅力的なものではなかった。
「決まりね!」
紗夜がスマートフォンを取り出し、素早く検索を始めた。指が画面の上を滑り、やがて、ある一つの検索結果を指し示して、得意げに笑った。
「『都内 最高級 ハンバーガー』。A5ランクの黒毛和牛を100%使用した、一個5000円のハンバーガーですって!」
一個5000円のハンバーガー。その響きは、途方もなく贅沢でありながら、どこか身近で、抗いがたい魅力に満ちていた。
「それだ!」
三人の意見が、完璧に一致した。彼らはカフェテリアを飛び出すと、大通りでタクシーを拾った。行き先は、銀座。日本で最も高級な街の一つに、そのハンバーガー店はあるという。
タクシーの車窓から流れる景色を眺めながら、三人は自分たちの選択に、可笑しさと満足感を覚えていた。大金を手にした結果、彼らが選んだ「最高の贅沢」は、一個5000円のハンバーガーだったのだ。
銀座の裏通りにひっそりと佇むその店は、高級レストランのような落ち着いた雰囲気を漂わせていた。店内に足を踏み入れると、香ばしい肉の焼ける匂いが、三人の空腹をさらに刺激する。
やがて、テーブルに運ばれてきたハンバーガーは、芸術品のように美しかった。艶のあるブリオッシュバンズに挟まれた、分厚いパティ。そこから溢れ出す肉汁が、チェダーチーズと絡み合い、キラキラと輝いている。
三人は、ほとんど無言で、その絶品のハンバーガーを頬張った。一口噛むごとに、和牛の濃厚な旨味が、口いっぱいに広がる。ふわふわのバンズ、シャキシャキの新鮮な野菜、そして主役であるジューシーなパティ。その全てが完璧なバランスで調和し、至福の味を生み出していた。
今日の成功を祝い、新しい装備での探索への期待を語り合う。そして、いつか必ず手に入れる『生命の花』と、千夏の未来について。
大金を手に入れても、彼らの関係性は何も変わらない。目の前のハンバーガーを心から美味しいと感じ、仲間との他愛ない会話に笑い合う。そんなささやかな幸せを、三人は肉汁と共に、じっくりと噛みしめていた。
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