東京ダンジョン物語

さきがけ

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第34話:友情の連帯

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三人は警戒を怠らず、洞窟の奥へと進み始めた。水晶の通路を進む彼らの前に、最初の敵が姿を現す。

ゴゴゴゴ……。

地響きと共に、通路脇の巨大な水晶塊がその形を変え始めた。それは、人型のシルエットを形成し、やがて二つの光る眼窩を持つ「クリスタルゴーレム」となって立ち上がった。身長は3メートルを超え、その全身は極めて硬質な水晶で構成されている。

「俺が前に出る!」

悠真がダマスカス鋼の剣を構え、突進する。ゴーレムが振り下ろした水晶の腕を、剣で受け流した。ガキン、という甲高い金属音と共に火花が散る。以前の剣であれば、受け止めることすら困難だったであろう一撃だ。しかし、悠真はびくともしない。

「紗夜!」

「はい!」

悠真がゴーレムの注意を引きつけている隙に、紗夜が風のような速さでその背後に回り込む。シルフィードレザーアーマーの加護を受けた彼女の動きは、もはや目で追うことすら困難な領域に達していた。ミスリル製の剣が、ゴーレムの関節部、水晶の継ぎ目を的確に捉える。硬い装甲が、バターのように切り裂かれていった。

「ファイアボール!」

とどめは、美琴の魔法だった。古代樹の杖から放たれた巨大な火球が、ゴーレムの胸部を正確に直撃する。ゴーレムは断末魔の叫びを上げる間もなく、内側から眩い光を放ち、木っ端微塵に砕け散った。

その後も、三人の快進撃は続いた。影から影へと高速で飛び移り、鋭い爪で奇襲をかけてくる「シャドウパンサー」の群れも、彼らの敵ではなかった。

紗夜が持ち前のスピードでパンサーたちを翻弄し、その攻撃を一切寄せ付けない。彼女の剣閃が描く銀色の軌跡の中で、影の獣たちは次々とその姿を霧散させていく。

「サンダーストーム!」

美琴が放つ広範囲の雷撃魔法が、残敵を一掃する。洞窟内に轟音が響き渡り、稲妻が水晶の壁に複雑な影を落とした。

三人は、自分たちの成長をはっきりと実感していた。以前であれば一体一体に苦戦を強いられたであろう上級モンスターを、今や連携一つで、呼吸をするように屠っていく。確かな手応えが、彼らの自信をさらに強固なものにしていた。

やがて、洞窟の最深部、ひときわ巨大な水晶でできた両開きの扉の前にたどり着いた。扉の表面には古代のルーン文字のような紋様が刻まれ、内部から放たれる強大な魔力の波動で、扉全体が脈打つように明滅している。この先に、この階層の主がいる。三人の誰もが、それを直感で理解した。

悠真は二人の様子を見て、かすかに眉をひそめた。美琴の額には汗が滲み、紗夜の呼吸も普段より荒い。種シリーズで強化されているとはいえ、上級階層の連戦は確実に二人の体力を削っていた。

「ここまでよく頑張ったな、二人とも」

悠真が優しい声で言った。

「ちょっと中の様子を偵察してくる。二人はここで少し休んでいてくれ」

「でも、悠真さん一人では……」

美琴が心配そうに声を上げたが、悠真は軽く手を振った。

「偵察だけだ。ボスの配置と部屋の構造を確認したら、すぐ戻る。それに、二人が万全の状態じゃないと、ボス戦は厳しい。少しでも体力を回復させておいてくれ」

その言葉には、リーダーとしての冷静な判断と、仲間への思いやりが込められていた。美琴と紗夜は、悠真の配慮に気づき、素直に頷いた。悠真が一人、音もなく扉の隙間から内部へと侵入していくのを見送った。

 ◇ ◇ ◇

悠真の姿が扉の向こうに消え、洞窟には再び静寂が戻ってきた。水晶が放つ幻想的な光だけが、残された二人の少女を照らしている。

「少し、休みましょうか」

美琴が壁に背を預けながら言うと、紗夜も隣に腰を下ろした。マジックバッグから水筒を取り出し、喉を潤す。激しい戦闘の連続で、知らず知らずのうちに体力を消耗していた。

「本当に、ありがとうございます。美琴さん」

短い沈黙の後、紗夜がぽつりと呟いた。その声は、普段の快活さとは違う、静かで真摯な響きを持っていた。

「悠真さんはもちろんですが、美琴さんがいなかったら、私はとっくに心が折れていたと思います。妹のこと、パーティーに入れてくれたこと……感謝してもしきれません」

「そんなことないわ。紗夜ちゃんが頑張っているから、私たちも頑張れるのよ」

美琴は優しく微笑んだ。彼女の言葉は、いつも紗夜の心を温かく包んでくれる。

紗夜は、悠真が消えた扉を心配そうに見つめる美琴の横顔に、妹を想う自分と同じ種類の熱を見出した。だからこそ、確信に近い気持ちで、悪戯っぽく、しかし真剣な光を目に宿して尋ねた。

「美琴さんって、悠真さんのこと、好きなんですか?」

その問いは、あまりにも唐突で、直球だった。

「え……!?」

美琴の肩が、びくりと跳ねた。顔が、見る見るうちに熟れた林檎のように赤く染まっていく。彼女は慌てて視線を逸らし、言葉を探した。しかし、どんな言い訳も、紗夜の真っ直ぐな瞳の前では意味をなさないように思えた。

紗夜は、そんな美琴の動揺を咎めるでもなく、ただじっと、その答えを待っていた。やがて、観念したように美琴は顔を上げた。その頬はまだ赤いままだったが、彼女は紗夜の瞳をしっかりと見つめ返すと、隠さずに小さく、しかしはっきりと頷いた。

その肯定の仕草を見て、紗夜は「やっぱり!」と納得したように微笑んだ。その笑顔には、からかいの色など微塵もなく、ただただ純粋な納得と喜びが満ちていた。

「私、気づいてました。悠真さんを見る時の美琴さんの目、すっごく優しいんです」

そして、紗夜は自分の胸を力強く叩いた。

「私も美琴さんの恋を全力で応援します! 任せてください!」

その力強い宣言に、美琴は驚きと、そして込み上げてくる温かい感情で胸がいっぱいになった。この真っ直ぐで、太陽のような少女。彼女と出会えたことは、悠真と出会えたことと同じくらい、自分にとって幸運なことだったのかもしれない。

この短い会話を通して、二人の間には、単なる仲間以上の、女性同士の固い友情と連帯感が芽生えていた。それは、これから待ち受ける過酷な戦いを共に乗り越えていく上で、何よりも強い力となるはずだった。
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