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第11話 生還

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リリーを殺した俺は牢獄から脱出した。

途中、鍵のかかったドアやリリーの従者に遭遇したが、魔法で粉々に切り刻んだ。

俺も勇者パーティも今まで人を殺した事はなかった。

冒険者などは貴族や商人を護衛する時に盗賊を殺しても罪には問われない。

また、懸賞金をかけられた悪人は生死を問わないという国の判断があれば、殺しても罪に問われない。

冒険者にとって人殺しは決して禁忌では無い。

だが、勇者パーティの俺達は魔族や魔物を殺しても、人を殺す事は無い。

......初めての人殺し。

俺の心には少しチクチクするものがあったが、リリーを殺した時には、俺は確かに笑っていた。

俺はもう以前の俺では無いのだろう。

勇者エリアスの裏切り、婚約者アリシアの裏切り。妹の裏切り。

そして、烙印を押された奴隷の扱いに俺の心は闇に染まった。

もう、昔の俺はいなかった。

今、考えている事はこの場から生きて帰る事、そして俺を裏切った者達への復讐。

それだけが、ふらふらの俺を支えていた。

牢獄の建物からはかろうじて脱出出来た。

しかし、ここはまだ貴族の屋敷の中だ。果たして逃げきれるか?

俺はふらふらの体に鞭打って、何とか屋敷の玄関に向かった。

だか、すぐに屋敷の警護の冒険者達に包囲されてしまった。

彼らは覆面をしていない。おそらくまっとうな冒険者だろう。

もし、彼らを殺してしまえば、俺はただの殺人鬼になってしまう。まずい。

冒険者達に取り囲まれると、後ろから俺のことを買い取った貴族の男が現れた。リリーの父親だろう。

おそらく、娘の末路はもう知っているだろう。

リリーの父親は俺を買い求めた時と異なり、難しい顔をしていた。

父親は俺に話し始めた。

「......取り引きだ」

「取り引き?」

「ここは見逃してやる。だから、お前はこの屋敷で何も見なかった」

「いいのか、それで?」

「今、ここで騒ぎを起こされる事は少々面倒なのでな」

「俺が本当に喋らないと思うのか?」

「今日喋らなければいいだけだ。明日には問題無くなる」

「なるほどな」

この男はリリーの所業を隠蔽する気だ。

「牢獄の人達はどうするつもりだ?」

「君は他人の事を心配している場合かね? 少なくとも、今日中に何処かで治療を受けないと君の命は無いだろう?」

『違い無い。勇者パーティの頃なら考えもつかない冷酷な判断。俺は牢獄の人達を見殺しにする事にした』

どちらにしろ、俺には彼らを助ける力は無い。

それどころか、自分の命も風前の灯だ。

俺の腕と目の欠損は十分な治療を施されていない。

至急治療を受けなければ、多分、俺は死ぬだろう。

そして、俺には治療を受けるあては無い。

金は無い、知り合いもいない。

俺は取り引きに応じた。

おそらく今、この屋敷で騒ぎを起こされて、リリーの所業が発覚することを恐れているのだろう。

だから、俺を見逃すのだろう。それに、俺が多分、今日死ぬと思ってるのだろう。

「わかった。取り引きに応じる。」

「取引成立だな。みんな、この者を見逃してやれ。他言無用、代わりに今日の報酬は倍出そう」

冒険者達は不承不承道をあける。

俺はふらふらと彼らの横を抜けて屋敷の外へ出た。

俺はあても無く歩いた。俺は死ぬのだろうか?

だが、歩く事を止められなかった。

復讐心だけが、瀕死の俺を支えていた。

『エリアス、アリシア、ベアトリス、必ずお前達を殺す!』

俺は、そう心に言い聞かせながら、歩いた。

だが、だんだん意識が遠のいて、足取りがふらついていく。

俺は誰かの近くで倒れた。

「お、お前は? 勇者パーティのレオンか?」

俺は誰かの声を聞いた。聞いた事がある声だ。

あまり親しい人ではない筈だ。誰だか思い出せない。

幻聴か?

「やっぱりレオンか」

声ははっきり聞こえた。幻聴ではない様だ。

俺はそこで意識を失った。
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