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第58話 エリアスの処刑
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俺は確認したいことがあったので、聞いた。
「エリアス、一つ聞いておきたいことがある」
「なんだ? どうせ死ぬ身だ。知っていることなら教えてやる」
「お前が『魅了』の魔法を身に付けたのはいつからだ?」
俺は疑問に思っていたことを聞いた。エリアスは最低な人間だが、勇者パーティを結成する前はそんな人間には見えなかったし、『魅了』の犠牲者は勇者パーティ結成以前にはいなかった。
「ああ、勇者パーティ結成の命を受けた日の夜からだな。あの日、ステータスチェックしたら、だ」
「つまり、国王と謁見して、勇者パーティ結成を命じられた時からだな?」
「そう言えばそうだな」
やはりそうか。つまり国王が魔王だとすると、『魅了』の魔法を授けたのはおそらく。
「いや、ちょっと気になってな。勇者パーティ以前のお前に悪い噂はなかったからな」
俺は得心がいった。勇者エリアスに絶望を与え、『魅了』を授けてエリスそっくりなアリシアを傍に配したのは誰か?
「エリアスは今、どんな気持ちですか?」
エリスがエリアスに聞いた。
「死にたく無い、お前がいるなら、生きていたい、お前と話したい、さっきまでは、死んでもいいやって思ってたけど、今は!」
「エリアス、死んで構わないという人はいません。死にたく無くて当然です。エリアスは今、普通の人間に戻ったんです」
「俺は本当に馬鹿だな、こんな事になるなら、勇者のタレントなんて欲しくなかった」
「エリアス、人の運命は女神様が決めるものでも無いです。自身で決めるものです。エリアスは自身で選んでしまったんです」
「ああ、俺は自分で、自分とたくさんの人を不幸にした。俺のせいだ。だからこんな罰を受けるんだ! でもな、俺は死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない!」
「...エリアス」
エリスの顔がうなだれる。
「エリアス、お前のしたことは無かったことにはできない罪だ。...でも、お前を想ってくれる人がいることをいることを思い出せ!」
「エ、エルのことか?」
「そうだ」
エリスが首を縦に頷く。
「レ、レオン。すまなかった。すまなかった。すまなかった。今、ようやくわかったよ。マリアを失って、これから愛しいエルと永遠に会えないとわかって、お前や俺が虐げた人の気持ちがわかった。いや、思い出した...」
「エリアス、エリスはもうこれ以上エリアスを責めません」
「ありがとう ありがとう ああ、俺はなんで両親や妹を失った時のことを忘れてしまったんだろう?」
「エリアス、大切な人と二度と会えないということは...とても寂しくて、こんなにも辛いことなんです。エリスはエリアスと二度と会えないかと思うと、心が引き裂かれそうです。例え、さっきまでのエリアスが大嫌いだったとしても...」
「俺と二度と会えないと寂しい?」
「はい。寂しいです」
「お、俺なんかの為に?」
俺はエリスの言葉で察した。どんな咎人でもその人にとっては大切な人。
エリスのそれがエリアスだ。
「エリアス、エリス、この話はここまでだ。二人で積もる話でもするといい」
俺はエリスの考えがわかった。それは俺に代わってエリアスを痛めつける。俺はエリアスへの怒りをぶつける機会を失った。エリスは俺の為にエリアスを痛めつけたんだ。
そして、エリスのエリアスへの罰、それは幼馴染が故に最後の配慮。
『エリアスは死を賜っても、皮肉な笑いを浮かべていた』
エリアスは人としての心を無くしていた。彼への罰、それは人らしく、罪の意識を持って、死にたく無いという気持ちで死ぬ事。
自身の行いを後悔し、逝く事、それがエリスの考えだろう。
エリスのエリアスへの最後の配慮......。
「懐かしい、あの街の、あの頃の話をしましょう」
エリアスはエリスと話しを始めた。俺は口を挟まなかった。
二人の子供の頃の思い出に話が弾んだ。
エリアスの表情はこれまで見た事の無い表情だった。
マリアは言っていた、エリアスは本が好きな気弱な人物だったと。
今のエリアスはおそらく、昔のエリアスなのだろう。
そして、時間が来た。
「ありがとう、エリス、レオン、最後に残された時間を、有意義に過ごせた。マリアの事を教えてくれてありがとう。エリスと話しをさせてくれてありがとう。レオン、最後に謝らせてくれ。アリシア、ベアトリス、アリスにも謝りたい。『すまなかった』では赦されないことはわかっている。償いは......死ぬしかないよな? だけど、俺は今、心底死にたくない。死ぬのが怖い。ああ、俺の無様な処刑でも見て笑ってくれ。頼む。それで少しでもお前の心が慰さまれば」
エリアスは頭を下げた。
俺は無言で返した。赦す事は出来ない。
かといって、彼をこれ以上追求しても意味は無い。
彼はこの後、刑に処されるのだ。それに彼は実行犯に過ぎない。
アリシアとベアトリスを死に追いやった本当の犯人。
俺はそいつが心底憎い。
☆☆☆
エリアスは市中を引き回された。民から罵倒の声と石飛礫を投げつけられた。
裸足で枷をされ、掌に穴を穿たれ、縄を通され、引かれ、市中を......
掌からは血が流れ、裸足の足からも、石飛礫で出来た傷からも血が......
アリシアとベアトリスの時もこうだったんだろうか?
エリアスが刑に処せられる時、醜く叫び、命乞いをしたという。
あの白々しい笑顔では無かった。
俺とエリスはエリアスの処刑を見なかった。全部聞いたことだ。
エリアスの処刑を見て、心が晴れるものなら見ただろうが。
☆☆☆
俺はなんとも言えない感傷に浸った。
あれ程望んだ、勇者エリアスへの復讐、しかし、そこに爽快感はなかった。
俺は二人を信じてあげることができなかった。
二人を助けることができなかった。
ただ、それだけが悔やまれる。
二人はもう帰ってこないのだ。
だが、たとえ『魅了』の魔法にかかっていたとしても、俺はされた仕打ちは忘れられない。
特にあの日の夜の事は忘れらない。二人を見ると思い出してしまうだろう。
二人のことを思う一方、二人と接していくことは難しかっただろう。
それに今はエリスがいる。
俺はエリスと新しい人生を生きよう。
エリスなら、新しい人生を俺に与えてくれるだろう。
そうすべきなんだろう。
だが、その前にやることがある。
二人の本当の仇を討たないでおけようか?
「エリアス、一つ聞いておきたいことがある」
「なんだ? どうせ死ぬ身だ。知っていることなら教えてやる」
「お前が『魅了』の魔法を身に付けたのはいつからだ?」
俺は疑問に思っていたことを聞いた。エリアスは最低な人間だが、勇者パーティを結成する前はそんな人間には見えなかったし、『魅了』の犠牲者は勇者パーティ結成以前にはいなかった。
「ああ、勇者パーティ結成の命を受けた日の夜からだな。あの日、ステータスチェックしたら、だ」
「つまり、国王と謁見して、勇者パーティ結成を命じられた時からだな?」
「そう言えばそうだな」
やはりそうか。つまり国王が魔王だとすると、『魅了』の魔法を授けたのはおそらく。
「いや、ちょっと気になってな。勇者パーティ以前のお前に悪い噂はなかったからな」
俺は得心がいった。勇者エリアスに絶望を与え、『魅了』を授けてエリスそっくりなアリシアを傍に配したのは誰か?
「エリアスは今、どんな気持ちですか?」
エリスがエリアスに聞いた。
「死にたく無い、お前がいるなら、生きていたい、お前と話したい、さっきまでは、死んでもいいやって思ってたけど、今は!」
「エリアス、死んで構わないという人はいません。死にたく無くて当然です。エリアスは今、普通の人間に戻ったんです」
「俺は本当に馬鹿だな、こんな事になるなら、勇者のタレントなんて欲しくなかった」
「エリアス、人の運命は女神様が決めるものでも無いです。自身で決めるものです。エリアスは自身で選んでしまったんです」
「ああ、俺は自分で、自分とたくさんの人を不幸にした。俺のせいだ。だからこんな罰を受けるんだ! でもな、俺は死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない 死にたくない!」
「...エリアス」
エリスの顔がうなだれる。
「エリアス、お前のしたことは無かったことにはできない罪だ。...でも、お前を想ってくれる人がいることをいることを思い出せ!」
「エ、エルのことか?」
「そうだ」
エリスが首を縦に頷く。
「レ、レオン。すまなかった。すまなかった。すまなかった。今、ようやくわかったよ。マリアを失って、これから愛しいエルと永遠に会えないとわかって、お前や俺が虐げた人の気持ちがわかった。いや、思い出した...」
「エリアス、エリスはもうこれ以上エリアスを責めません」
「ありがとう ありがとう ああ、俺はなんで両親や妹を失った時のことを忘れてしまったんだろう?」
「エリアス、大切な人と二度と会えないということは...とても寂しくて、こんなにも辛いことなんです。エリスはエリアスと二度と会えないかと思うと、心が引き裂かれそうです。例え、さっきまでのエリアスが大嫌いだったとしても...」
「俺と二度と会えないと寂しい?」
「はい。寂しいです」
「お、俺なんかの為に?」
俺はエリスの言葉で察した。どんな咎人でもその人にとっては大切な人。
エリスのそれがエリアスだ。
「エリアス、エリス、この話はここまでだ。二人で積もる話でもするといい」
俺はエリスの考えがわかった。それは俺に代わってエリアスを痛めつける。俺はエリアスへの怒りをぶつける機会を失った。エリスは俺の為にエリアスを痛めつけたんだ。
そして、エリスのエリアスへの罰、それは幼馴染が故に最後の配慮。
『エリアスは死を賜っても、皮肉な笑いを浮かべていた』
エリアスは人としての心を無くしていた。彼への罰、それは人らしく、罪の意識を持って、死にたく無いという気持ちで死ぬ事。
自身の行いを後悔し、逝く事、それがエリスの考えだろう。
エリスのエリアスへの最後の配慮......。
「懐かしい、あの街の、あの頃の話をしましょう」
エリアスはエリスと話しを始めた。俺は口を挟まなかった。
二人の子供の頃の思い出に話が弾んだ。
エリアスの表情はこれまで見た事の無い表情だった。
マリアは言っていた、エリアスは本が好きな気弱な人物だったと。
今のエリアスはおそらく、昔のエリアスなのだろう。
そして、時間が来た。
「ありがとう、エリス、レオン、最後に残された時間を、有意義に過ごせた。マリアの事を教えてくれてありがとう。エリスと話しをさせてくれてありがとう。レオン、最後に謝らせてくれ。アリシア、ベアトリス、アリスにも謝りたい。『すまなかった』では赦されないことはわかっている。償いは......死ぬしかないよな? だけど、俺は今、心底死にたくない。死ぬのが怖い。ああ、俺の無様な処刑でも見て笑ってくれ。頼む。それで少しでもお前の心が慰さまれば」
エリアスは頭を下げた。
俺は無言で返した。赦す事は出来ない。
かといって、彼をこれ以上追求しても意味は無い。
彼はこの後、刑に処されるのだ。それに彼は実行犯に過ぎない。
アリシアとベアトリスを死に追いやった本当の犯人。
俺はそいつが心底憎い。
☆☆☆
エリアスは市中を引き回された。民から罵倒の声と石飛礫を投げつけられた。
裸足で枷をされ、掌に穴を穿たれ、縄を通され、引かれ、市中を......
掌からは血が流れ、裸足の足からも、石飛礫で出来た傷からも血が......
アリシアとベアトリスの時もこうだったんだろうか?
エリアスが刑に処せられる時、醜く叫び、命乞いをしたという。
あの白々しい笑顔では無かった。
俺とエリスはエリアスの処刑を見なかった。全部聞いたことだ。
エリアスの処刑を見て、心が晴れるものなら見ただろうが。
☆☆☆
俺はなんとも言えない感傷に浸った。
あれ程望んだ、勇者エリアスへの復讐、しかし、そこに爽快感はなかった。
俺は二人を信じてあげることができなかった。
二人を助けることができなかった。
ただ、それだけが悔やまれる。
二人はもう帰ってこないのだ。
だが、たとえ『魅了』の魔法にかかっていたとしても、俺はされた仕打ちは忘れられない。
特にあの日の夜の事は忘れらない。二人を見ると思い出してしまうだろう。
二人のことを思う一方、二人と接していくことは難しかっただろう。
それに今はエリスがいる。
俺はエリスと新しい人生を生きよう。
エリスなら、新しい人生を俺に与えてくれるだろう。
そうすべきなんだろう。
だが、その前にやることがある。
二人の本当の仇を討たないでおけようか?
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