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羅遠蘭武は、島にある役所に事務員として勤めている。朝の9時から午後の5時まで、きっちりと安定した勤務時間だ。
今日は金曜日、職場から直接家に帰る日だ。
それ以外の日は、勤務の後、島の小学校の体育館を借りて、子供達相手に古武術の指導にあたっている。土曜と日曜は、大人の部と子供の部とに分かれているが、両方とも指導にあたっているため、1日中武道に費やされる。
勤め以外、蘭武のやる事と言えば、古武術の事ばかりだ。
幼い頃から羅遠の家に生まれ、ずっと古武術と向き合ってきた。しかし、それが嫌になったことは一度も無い。むしろ、修練の最中、不甲斐ない己を感じた時が一番の苦であった。だから、普段から武術に関わる行事がないとしても、自主練は欠かさない。誰も居ない家の道場で、一人、自分と向き合う時間も蘭武は気に入っていた。
羅遠家のあるこの島は、大・中・小と三つの島が砂州で繋がる陸繋島だ。
蘭武の家や勤め先があるのは、中の島である帰来島だ。
九州本土からの船が多く港に出入りするのも、この帰来島が一番多い。それ故に、港付近が一番栄え、開発も軒並み進んでいるせいか、ホテルや店などが並んでいる。
夏には観光客も多く訪れる。海水浴や島から掘り出せる褐色の温泉が特に評判だ。お陰で最近は、島の者も、農家や漁業以外で懐を潤す事が出来るようになった。そのせいか、外から移住してくる者も増え、過疎化が進んでいる田舎町とは反対に帰来島の人口は僅かだが増加傾向にある。
蘭武の勤めている役所は港側だ。
そこから家まで5kmの距離にあたるが、毎日トレーニングをかねて歩いて通勤している。
勤務先から家までの丁度中間地点に差し掛かった頃だろうか。
夕日で朱に染まった道を、地に長い影を落とした人が手を振っている。
兄の紅砂だった。
片手に新聞紙で包んだ棍棒のようなものを持っている。訝しげに見つめながら、蘭武は歩を早め、兄のほうに近づいていった。
「こんな所で何してるんですか、兄さん?」
蘭武が話しかけると、紅砂は淡く微笑みを返した。
この微笑で一体、何人の女を虜にしているのだろう……?
蘭武は、そんな事を考えながら、紅砂のさらりとした髪の毛が風で頬にかかるのを見つめていた。
「丁度良い所で会った!お前、これから僕の代わりに港まで客人を迎えに行ってくれないか?」
「いいけど……、客人?」
蘭武は今日、家に客人が来るなんて話を全く聞いていなかった。だから思わず、不信な目で紅砂を見つめてしまった。
「龍一が探偵を雇ったらしい。6年前の神隠し事件を調べるそうだ」
「今更?!6年も経ってから探ったって、調べようがないだろうに……」
今日は金曜日、職場から直接家に帰る日だ。
それ以外の日は、勤務の後、島の小学校の体育館を借りて、子供達相手に古武術の指導にあたっている。土曜と日曜は、大人の部と子供の部とに分かれているが、両方とも指導にあたっているため、1日中武道に費やされる。
勤め以外、蘭武のやる事と言えば、古武術の事ばかりだ。
幼い頃から羅遠の家に生まれ、ずっと古武術と向き合ってきた。しかし、それが嫌になったことは一度も無い。むしろ、修練の最中、不甲斐ない己を感じた時が一番の苦であった。だから、普段から武術に関わる行事がないとしても、自主練は欠かさない。誰も居ない家の道場で、一人、自分と向き合う時間も蘭武は気に入っていた。
羅遠家のあるこの島は、大・中・小と三つの島が砂州で繋がる陸繋島だ。
蘭武の家や勤め先があるのは、中の島である帰来島だ。
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夏には観光客も多く訪れる。海水浴や島から掘り出せる褐色の温泉が特に評判だ。お陰で最近は、島の者も、農家や漁業以外で懐を潤す事が出来るようになった。そのせいか、外から移住してくる者も増え、過疎化が進んでいる田舎町とは反対に帰来島の人口は僅かだが増加傾向にある。
蘭武の勤めている役所は港側だ。
そこから家まで5kmの距離にあたるが、毎日トレーニングをかねて歩いて通勤している。
勤務先から家までの丁度中間地点に差し掛かった頃だろうか。
夕日で朱に染まった道を、地に長い影を落とした人が手を振っている。
兄の紅砂だった。
片手に新聞紙で包んだ棍棒のようなものを持っている。訝しげに見つめながら、蘭武は歩を早め、兄のほうに近づいていった。
「こんな所で何してるんですか、兄さん?」
蘭武が話しかけると、紅砂は淡く微笑みを返した。
この微笑で一体、何人の女を虜にしているのだろう……?
蘭武は、そんな事を考えながら、紅砂のさらりとした髪の毛が風で頬にかかるのを見つめていた。
「丁度良い所で会った!お前、これから僕の代わりに港まで客人を迎えに行ってくれないか?」
「いいけど……、客人?」
蘭武は今日、家に客人が来るなんて話を全く聞いていなかった。だから思わず、不信な目で紅砂を見つめてしまった。
「龍一が探偵を雇ったらしい。6年前の神隠し事件を調べるそうだ」
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