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家路島列島の一つ、帰来島へと向かうフェリーが最終便を間近に控え、港は多少なりともにぎわっていた。
夏の観光シーズンが過ぎ、陽の傾いた時刻に、島へ向かう者となると、島の人間か、温泉へ向かう定年退職した年配のグループだ。いずれにせよ、若者の姿は皆無に等しい。
のんびりとした島の風景と、孫の自慢話で華が咲いているご婦人方を、待合席に座ってのんびりと見つめながら、刈谷瀬菜は深く深く落胆の溜息をついた。
(じっさまと……、ばっさましか、いない……)
家路島列島――。
島の観光パンフを見た。
予想はしていたが、本当に地味な印象しかない。最近では、観光客も増え、島は賑わいを見せ始めているそうだが、それは瀬菜の期待する賑わいとは、遠くかけ離れたイメージだった。瀬菜のイメージする憧れの島は、ハワイとかグアムとかそういうものだ。それか、せめて沖縄。
『家路島列島――。小さな島を中央に、左右の大きな二つの島と繋がった、この列島は、その様相から家路に向かう親子を連想させ、家路島列島と呼ばれるようになった。なかでも母島と呼ばれる帰来島は、豊かな海産物と田園風景、古えより変らぬ石の外壁が連なり、私達を郷愁の旅へといざなうでしょう』
観光用パンフを朗読する度に、郷愁というより、枯れた地味さに瀬菜はうんざりする。だったら、読まなければいいのだが、フェリーが着くまでの間、暇つぶしになるものが何もない。仕方なく目を落とすのがこのパンフレットと言うわけだが、読んでは溜息、顔を上げ、周りの船客を見て溜息の繰り返しだ。
(私……、この島での仕事……、早く切り上げることにしよう……)
「ああ~、酒でも買ってくるかな~」
半ば焼けくそで、一つ伸びをし、立ち上がって待合ロビーの端にある土産物屋で焼酎を一本買う。
「御包み致しましょうか?」
と、にこやかに聞く店員のおばちゃんをさえぎって、
「いえ、箱も要らないんで、そこから出してください。今、ここで呑みますから……」
と、言って、おばちゃんを呆れさせた。
焼酎一本をすぐに開封し、瓶のまま口に付けて、ごくりとやった。
背後で土産物屋のおばちゃん達の声が聞こえる。
若い娘さんが……、世も末よね~、はしたない……、うちの嫁があんなんじゃなくて良かったわ~、と、好きなように話している。
(勝手にしろ!こっちだって、ごめんだ!!こんなクソ田舎!!)
どかどかと大股で、元の待合席に戻ろうとすると、いきなり別の座席からにゅ!と大きな男性用のブーツが行く手を遮った。
(結構、良いブーツを履いてるじゃないの?)
と、一瞬思ったが、なんて邪魔臭い足だ。
「ちょっとォ~、足が邪魔なんですけどォ~!!」
元々不機嫌だった瀬菜は、それも上乗せして、口をひん曲げ大声で言ってやった。
座席に長々と横たわっていた、黒い男は、んーーーー、と唸るような声を上げ、ゆっくりと起き上がった。
顔はサングラスで隠されているが、まだ若い。服装もーー、田舎の雰囲気に似合わぬ、素材の高そうな生地で作られた黒ずくめ。洗練された都会の雰囲気がにじみ出て、場違いさが際立つ。
男は瀬菜を見上げ、サングラスを僅かにずらした。
「悪かったな~。長い足で」
と此方も負けず劣らず、不機嫌な声で答えた。
夏の観光シーズンが過ぎ、陽の傾いた時刻に、島へ向かう者となると、島の人間か、温泉へ向かう定年退職した年配のグループだ。いずれにせよ、若者の姿は皆無に等しい。
のんびりとした島の風景と、孫の自慢話で華が咲いているご婦人方を、待合席に座ってのんびりと見つめながら、刈谷瀬菜は深く深く落胆の溜息をついた。
(じっさまと……、ばっさましか、いない……)
家路島列島――。
島の観光パンフを見た。
予想はしていたが、本当に地味な印象しかない。最近では、観光客も増え、島は賑わいを見せ始めているそうだが、それは瀬菜の期待する賑わいとは、遠くかけ離れたイメージだった。瀬菜のイメージする憧れの島は、ハワイとかグアムとかそういうものだ。それか、せめて沖縄。
『家路島列島――。小さな島を中央に、左右の大きな二つの島と繋がった、この列島は、その様相から家路に向かう親子を連想させ、家路島列島と呼ばれるようになった。なかでも母島と呼ばれる帰来島は、豊かな海産物と田園風景、古えより変らぬ石の外壁が連なり、私達を郷愁の旅へといざなうでしょう』
観光用パンフを朗読する度に、郷愁というより、枯れた地味さに瀬菜はうんざりする。だったら、読まなければいいのだが、フェリーが着くまでの間、暇つぶしになるものが何もない。仕方なく目を落とすのがこのパンフレットと言うわけだが、読んでは溜息、顔を上げ、周りの船客を見て溜息の繰り返しだ。
(私……、この島での仕事……、早く切り上げることにしよう……)
「ああ~、酒でも買ってくるかな~」
半ば焼けくそで、一つ伸びをし、立ち上がって待合ロビーの端にある土産物屋で焼酎を一本買う。
「御包み致しましょうか?」
と、にこやかに聞く店員のおばちゃんをさえぎって、
「いえ、箱も要らないんで、そこから出してください。今、ここで呑みますから……」
と、言って、おばちゃんを呆れさせた。
焼酎一本をすぐに開封し、瓶のまま口に付けて、ごくりとやった。
背後で土産物屋のおばちゃん達の声が聞こえる。
若い娘さんが……、世も末よね~、はしたない……、うちの嫁があんなんじゃなくて良かったわ~、と、好きなように話している。
(勝手にしろ!こっちだって、ごめんだ!!こんなクソ田舎!!)
どかどかと大股で、元の待合席に戻ろうとすると、いきなり別の座席からにゅ!と大きな男性用のブーツが行く手を遮った。
(結構、良いブーツを履いてるじゃないの?)
と、一瞬思ったが、なんて邪魔臭い足だ。
「ちょっとォ~、足が邪魔なんですけどォ~!!」
元々不機嫌だった瀬菜は、それも上乗せして、口をひん曲げ大声で言ってやった。
座席に長々と横たわっていた、黒い男は、んーーーー、と唸るような声を上げ、ゆっくりと起き上がった。
顔はサングラスで隠されているが、まだ若い。服装もーー、田舎の雰囲気に似合わぬ、素材の高そうな生地で作られた黒ずくめ。洗練された都会の雰囲気がにじみ出て、場違いさが際立つ。
男は瀬菜を見上げ、サングラスを僅かにずらした。
「悪かったな~。長い足で」
と此方も負けず劣らず、不機嫌な声で答えた。
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