奇夜に結ぶ鬼

蓮華空

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 いきり立つ瀬菜を尻目に、若者は落ち着き払ったような余裕の笑みを見せた。

「いや、モデル並に綺麗なお姉さんが、あの島に仕事を求めて行くってのが不自然でね~。その美しさを生かした仕事はなんだろうな~、と思ったけど、見当たらなくてさ。失礼致しました。改めて、仕事って何?」

 にこやかな美貌の主に、綺麗なお姉さんと言われ、瀬菜は気分が高揚した。さっきまでの怒りは一体どこへやら、頬を赤らめ体はくねり出す。そして、瀬菜の良くない癖が出掛かりそうになった。

 目前のRETSUGAはテレビなどで観るより、実物のほうが遥かにいい男だ。端正な美しい顔立ち、きらめく黒瞳、濡れた形のよい唇。

(さ……、触りたい……!!)

 瀬菜の悪い癖。

 自分が可愛いとか、カッコイイとか、美しいとか、思ったものはとことん触らないと気がすまない。それはもう、異常なほど、こねくりまわしたくなるのだ。ある意味、その対象となった者達の末路は、不幸としか思えなかった。

 そんな衝動が、今、瀬菜の体の中をふつふつと沸き上がっていた。 もう我慢できなかった。

「あ…あの……、触ってもいいですか?」

 身もだえしながら、唐突に意味不明な言葉を口にする。手は鍵状に曲げ、前方に突き出ている。自分でもかなり化け物じみた様相だったと思う。しかし、RETSUGAは気にした風も無い。驚いた事に、いいよ、と承諾した。

 この男もどうかしている……。

 瀬菜は、早速RETSUGAに飛びつくと、膝の上にまたがりRETSUGAの顔を隠す無粋なサングラスを取って、背後に放り投げた。

(やっぱり、いい顔してるわ~~)

 両手で彼の顔を挟んで間近で見る。

 肌のキメ、髪の毛の感触、どれも十分堪能するように、撫で回す。船の待合室で行うにしては異様な光景だ。案の定、二人は注目を浴びている。おばちゃん達のひそひそ声が、瀬菜の耳にも届いてくる。

「まったく、最近の若いもんときたら……、なんて破廉恥な……!」

(違います!若いからじゃなく、私はきっと年を食っても、これだけは変らないんです。癖なんです。仕方がないんです~!)

 と、心で言い訳を繰り返しながらも、手が休まることはない。

 なんていい感触……。

 思わず目には涙が溢れてくる。

 すると、 はははははは……、と、唐突にRETSUGAが笑い出す。 

「やっぱ、あんた、風俗関係者だろ~。そうとしか思えないな~、その手つき」

「違うの!これは癖なの!趣味なの!触るの好きなの!そういう性的なものとは違うの!」

 必死に弁解をしながらも、手の愛撫だけは止まらない。

「じゃあ、一体、仕事って何?」

「あたしはこう見えても私立探偵なのよ!依頼があったから島に向かうの。好きで行くんじゃないわよ!まあ……、依頼してくれた人は好きだけど~、いい男だったから~」

「その依頼人にもこんな事を?」

「いえ、その人の場合はもっといいこと……、って、あなたには関係ないでしょ!」

 プルルルルル……、とまもなく船が港に着くことを知られるベルが鳴り出した。

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