奇夜に結ぶ鬼

蓮華空

文字の大きさ
10 / 85

9 挿し絵入り

しおりを挟む
 待合室の人は、しだいに表へと出て行ってしまった。

 未だ、顔を愛撫されながらRETSUGAは、ちらりと横目で外を見、

「もうすぐ船がつくよ。俺も乗るから、そろそろ行かないか?」

 と、言った。

 瀬菜は、そうね……、と返事をし、膝から降りたが、ねちっこくRETSUGAの手を握ったまま離さない。

「船の中でも触らせて……」

 と、性懲りも無くお願いする。

 RETSUGAは、呆れながらも、はいはい、分かったよ、と答えた。

「あんたみたいな変態探偵があの島でする仕事ってなんなんだろうね~」

「あなたこそ、こんな時期に一人で帰省するって、どういうこと?仕事は?ひょっとしてスランプ?」

 瀬菜は先ほど買った焼酎をぐびぐびと飲みながら聞いた。瓶から口を離し、ぷは~、と一息つくと、RETSUGAが、俺にも……、と瓶を奪ってこちらもぐびぐびとやった。中々の呑みっぷりに、へぇ~、と瀬菜は声を漏らした。RETSUGAは、瓶を握った手でそのまま口元をぬぐって答えた。

「俺は、兄貴に呼ばれたから帰るだけさ。仕事のことは、元からどうでもいい」

「ふ~ん、なりたくてなった仕事じゃないんだ」

「……まあね」

「?」

(なんか、今、心なしか沈んでなかったか?)

「実は、帰るのが嫌?」

 ぎろり、とにらまれる。

(あ、やっぱ、嫌なんだ……)

「ところで、あなたが島にいたのは何年前?」

 少し話を変えてみた。

「そうだな……。6年は経つかな?」

「ナイス!ちょっと聞きたいんだけど、6年前に起きた神隠し事件の事、覚えてるかな~?」

「なんで今更そんな話を持ち出す!」

 声を荒げ、きつく睨まれた。

 少し気を紛らわすための世間話に……、と思ったが彼にはどうやら逆効果だったらしい。ちょっと失敗だったか……、と肩をすくめて

「一応、それが仕事なのよ」

 と、弁解をした。

 気まずいな~、と思ったが正直に話しておく。嘘や誤魔化しは、反って彼の怒りを増強しかねない。

「帰んな!」

 RETSUGAは、そう言って、瀬菜から離れ、突き飛ばした。

「今更、あの時のことをほじくるんじゃねぇ!どうせ、消えたものは戻ってこない……」

 RETSUGAは苦しげに顔を歪めた。

「……あなた……、その事件の関係者ね」

 この一言がまずかった。

 二人は丁度、フェリーの乗り合い通路の最後尾にいて、今、まさに乗り込もうと船と海との境に立っていた。

 瀬菜が最後に船に乗り込もうとしたとき、RETSUGAに強く突き飛ばされてしまった。

 その隙に船の乗り込み口が閉まる。

「あ、ちょっと!!」

 と、言っている間にも、船と港の距離は離れていく。

 瀬菜は慌てて、飛び乗ろうとしたが、そうはさせぬ……と、RETSUGAがものすごい形相で睨んでいた。今、飛び移っても、海に突き落とされそうだ……。

「帰れ!あの事件はもう終わった。あんたの出る幕などない!」

 有無など言わせぬ怒声。しかし、依頼人はRETSUGAではないのだ。関係者が拒否したところで、瀬菜は仕事を放棄するわけにはいかない。端から、こういう事態は想定済みだ。

 瀬菜は自分の腰に手を回し、ウエストポーチから何かを取り出した。ピシッと革を打つ音をさせ、瀬菜は走り出した。

「帰れと言われて、帰ったとあっちゃ~、私はおまんま食べていけないのよ、坊や!」

 船と陸との間は、すでに5メートル以上離れいる。

 焼酎の瓶は放り出し、後方で激しく割れる音がする。

 先程手にした物が、空を切って、唸りを上げた。

 ――鞭だ。

 瀬菜は鞭を船の手すりへと巻き付かせ、一気に跳躍した。鮮やかな半円を描き、瀬菜はRETSUGAの傍らへと滑らかに着地をする。

 RETSUGAと瀬菜の間に、海風だけが通り過ぎた。

 二人は無言で視線を交わす。

 彼の眉が微かにゆがみ、嫌悪感をあらわにした。

 瀬菜は余裕の表情で、髪をうなじから掬って、さらりと風になびかせた。

「私をそこらの”女”と同じように甘くみないことね」

 と、言って微笑んだ。
 
 RETSUGAの口元にも笑みがこぼれた。だが、目は笑ってなどいない。

「そのようだな……。だったら、次の手と行きますか?」

「……?!」

 その台詞と同時にRETSUGAは、瀬菜へと突進していた。女相手に本気の右フックだ。だが、瀬菜は僅かに後退して、余裕でそれをかわす。元から、かわされるのは計算済みか、間髪入れずに今度は左の後ろ回し蹴り。これもまた体を沈ませかわす。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...