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今度は瀬菜の体が元に戻ろうとする瞬間を狙って、RETSUGAは右のストレートを放つ。
RETSUGAは初めからこれが狙いだったのか、ヒットすれば確実に瀬菜の顔面へ入るはずであった。しかし、彼は戦慄した。
当たると確信した瞬間、瀬菜は左手で彼の手をはじきながら懐に入り込み、右足で彼の重心である左足を払いのけた。
RETSUGAはバランスを崩し、前のめりになったところを、瀬菜の右手が急所へと向かう。
「この動き……、羅遠流!」
RETSUGAは素早く左手で瀬菜の拳を防ぎ、横に飛びのいた。
「あら……、今の良くかわしたわね」
「お前……、その動きは、誰から教わった?」
「誰でもいいでしょ」
「羅遠龍一」
RETSUGAの言葉に、瀬菜は驚きを隠せなかった。僅かな立会いで、その名が出てくるとは。ただのロックアーティストではなさそうだ。
「あなたこそ、何故、彼の名を?」
「フッ……、知りたければ、その身で感じることだな!」
そう言って、RETSUGAはまた跳躍した。
さっきとはまるで違う俊敏な動きに瀬菜は動揺した。最初の立会いは、手を抜いていたのだ。
動揺は次の動きに弊害をもたらす。
RETSUGAの鋭敏な足裁きは、なんとかかわした。今度は余裕などない、必死だ。瀬菜に焦りがみえる。このままでは拉致があかない。此方からも攻撃を仕掛けなければ――!
羅遠流は元々自分から攻撃を仕掛けるような技はない。相手の攻撃の隙を突き、相手の重心を利用して、急所を突く。だが、RETSUGAに隙はない。羅遠流の攻撃方法を見出せぬまま、瀬菜はじりじりと攻め込まれていった。時間が経てば、いずれRETSUGAも疲れが見えるだろう。
その時がチャンスか?
瀬菜も次第に疲れが現れた。だが、目だけは一瞬の隙でも逃さんと、鋭く前方に向けられている。
RETSUGAの右からの上段が瀬菜の頬をかすめる。
今だ!!
体を回転させた瀬菜の貫き手がRETSUGAの肋骨の間を狙う。瞬間、瀬菜は凍りついた。
――しまった!これはチャンスではない、誘いだ!!
羅遠流では、しばし相手の攻撃を誘発して、利用する。瀬菜は、一瞬でも間違いに気づいて正解だった。僅かに体が後方に反ったお陰で、RETSUGAの拇指拳は髪の毛と微かに皮膚を裂くだけに留まった。
瀬菜の首筋に一本の血の筋が滴っていく。瀬菜は青ざめた。
(この男……、私を本気で殺す気?!)
まともに受けたら、頚動脈が切られ死に至ったであろう。
RETSUGAの放った技は、羅遠流でも、最も危険とされた門外不出の技だった。瀬菜がそれを知っているのは、羅遠家の直系、羅遠龍一が特別に瀬菜にだけ見せてくれたからだ。
羅遠の本流は正拳を使った攻撃ではない。指先を使う。
その昔、武術の盛んだった中国の福建省では、正拳を使った喧嘩では誰も仲裁に入らなかった。しかし、正拳から指先の喧嘩に変ると誰もが仲裁に入った。それだけ、正拳より鍛えられた指先のほうが危険なのだ。
RETSUGAの放った拇指拳は、貫き手の握りに近いが使うのは四本の指ではなく、手の平の中央で鋭角に曲げた親指だ。修練され鋭角に曲げた親指は、血管を切り、肉をそぎ取る凶器と化す。
瀬菜はその恐ろしさを知るあまり、しばし棒立ちとなった。
気づくとRETSUGAが間近に迫っていた。不思議と殺気は感じられなかった。優しく腰に腕を回し、ふんわりと抱きしめる。
「何、ぼさっとしてるの?」
顔を近づけ耳元で囁く。
「え?あ……」
先ほどまで、殺気だった連続攻撃からの、突然の甘い変貌ぶりに戸惑っていると、急に足が宙に浮いた。
「早く船、降りなよ」
「え?!」
ずるり!と手すりを越えて、瀬菜は海へと落とされてしまった。
「嘘でしょーー!!この殺人鬼ーー!!」
瀬菜の叫び声と共に水しぶきの音が大きく鳴り響いた。海はすでに、太陽の恵みから引き離され、黒々とした波間を見せている。闇色の海へと次第に沈み行く瀬菜は、今後の行く先が暗黒に包まれているかのような感覚に陥った。
漸く海から顔を出し、去り行く船を眺めながら、ここまでして自分を島に入れまいとするRETSGAと神隠し事件の関係について、瀬菜は気になり始めていた。
RETSUGAは初めからこれが狙いだったのか、ヒットすれば確実に瀬菜の顔面へ入るはずであった。しかし、彼は戦慄した。
当たると確信した瞬間、瀬菜は左手で彼の手をはじきながら懐に入り込み、右足で彼の重心である左足を払いのけた。
RETSUGAはバランスを崩し、前のめりになったところを、瀬菜の右手が急所へと向かう。
「この動き……、羅遠流!」
RETSUGAは素早く左手で瀬菜の拳を防ぎ、横に飛びのいた。
「あら……、今の良くかわしたわね」
「お前……、その動きは、誰から教わった?」
「誰でもいいでしょ」
「羅遠龍一」
RETSUGAの言葉に、瀬菜は驚きを隠せなかった。僅かな立会いで、その名が出てくるとは。ただのロックアーティストではなさそうだ。
「あなたこそ、何故、彼の名を?」
「フッ……、知りたければ、その身で感じることだな!」
そう言って、RETSUGAはまた跳躍した。
さっきとはまるで違う俊敏な動きに瀬菜は動揺した。最初の立会いは、手を抜いていたのだ。
動揺は次の動きに弊害をもたらす。
RETSUGAの鋭敏な足裁きは、なんとかかわした。今度は余裕などない、必死だ。瀬菜に焦りがみえる。このままでは拉致があかない。此方からも攻撃を仕掛けなければ――!
羅遠流は元々自分から攻撃を仕掛けるような技はない。相手の攻撃の隙を突き、相手の重心を利用して、急所を突く。だが、RETSUGAに隙はない。羅遠流の攻撃方法を見出せぬまま、瀬菜はじりじりと攻め込まれていった。時間が経てば、いずれRETSUGAも疲れが見えるだろう。
その時がチャンスか?
瀬菜も次第に疲れが現れた。だが、目だけは一瞬の隙でも逃さんと、鋭く前方に向けられている。
RETSUGAの右からの上段が瀬菜の頬をかすめる。
今だ!!
体を回転させた瀬菜の貫き手がRETSUGAの肋骨の間を狙う。瞬間、瀬菜は凍りついた。
――しまった!これはチャンスではない、誘いだ!!
羅遠流では、しばし相手の攻撃を誘発して、利用する。瀬菜は、一瞬でも間違いに気づいて正解だった。僅かに体が後方に反ったお陰で、RETSUGAの拇指拳は髪の毛と微かに皮膚を裂くだけに留まった。
瀬菜の首筋に一本の血の筋が滴っていく。瀬菜は青ざめた。
(この男……、私を本気で殺す気?!)
まともに受けたら、頚動脈が切られ死に至ったであろう。
RETSUGAの放った技は、羅遠流でも、最も危険とされた門外不出の技だった。瀬菜がそれを知っているのは、羅遠家の直系、羅遠龍一が特別に瀬菜にだけ見せてくれたからだ。
羅遠の本流は正拳を使った攻撃ではない。指先を使う。
その昔、武術の盛んだった中国の福建省では、正拳を使った喧嘩では誰も仲裁に入らなかった。しかし、正拳から指先の喧嘩に変ると誰もが仲裁に入った。それだけ、正拳より鍛えられた指先のほうが危険なのだ。
RETSUGAの放った拇指拳は、貫き手の握りに近いが使うのは四本の指ではなく、手の平の中央で鋭角に曲げた親指だ。修練され鋭角に曲げた親指は、血管を切り、肉をそぎ取る凶器と化す。
瀬菜はその恐ろしさを知るあまり、しばし棒立ちとなった。
気づくとRETSUGAが間近に迫っていた。不思議と殺気は感じられなかった。優しく腰に腕を回し、ふんわりと抱きしめる。
「何、ぼさっとしてるの?」
顔を近づけ耳元で囁く。
「え?あ……」
先ほどまで、殺気だった連続攻撃からの、突然の甘い変貌ぶりに戸惑っていると、急に足が宙に浮いた。
「早く船、降りなよ」
「え?!」
ずるり!と手すりを越えて、瀬菜は海へと落とされてしまった。
「嘘でしょーー!!この殺人鬼ーー!!」
瀬菜の叫び声と共に水しぶきの音が大きく鳴り響いた。海はすでに、太陽の恵みから引き離され、黒々とした波間を見せている。闇色の海へと次第に沈み行く瀬菜は、今後の行く先が暗黒に包まれているかのような感覚に陥った。
漸く海から顔を出し、去り行く船を眺めながら、ここまでして自分を島に入れまいとするRETSGAと神隠し事件の関係について、瀬菜は気になり始めていた。
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