奇夜に結ぶ鬼

蓮華空

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 荒い吐息がせわしなく室内に響いていた。

 舌を絡める濡れた音と、きしむベットの音が時折混じりあう。
 四鵬は少しずつ卯月の服に手をかけ脱がしていった。
 卯月も四鵬の着物に手を入れ、直接肌を求めていく。

 卯月の熱い吐息を四鵬の唇が吸い、手が肌を這う度に彼女は身をよじった。
 四鵬の手が卯月の下肢に触れ中央部に触れる。準備は当に血を吸われた時点で万全だ。
 想像以上に濡れた秘部に、四鵬は腹腔から熱いものが込み上げる。彼は卯月の下肢を肩に乗せ、自分のものを彼女にあてがい貫こうとした、その時。

「卯月~」

 ノックの音と共に蘭武の声がする。
 二人はそのまま硬直した。
 四鵬は脳裏で舌打ちをし、蘭武に返事を返した。

「何だ、蘭武、何のようだ?」

 そっと卯月の足を元に戻し、布団をかけ、自身の身も整える。

「なんだ四鵬……お前、まだそこにいたのか?開けるぞ」

「いや、ちょっ、ちょっと待て!」

 四鵬は慌ててそこら辺に放った卯月の服をベットの下へと押し込んだ。と、同時にドアが開く。

「な、何の用だ、蘭武!」

「いや、こいつだよ。卯月の飼ってる蛇だろ、これ?」

 蘭武の右手に白い蛇が握られていた。

「おう!そうだ。さっき逃げちゃったやつ、有難うな、蘭武」

 四鵬は、だからさっさと出て行け、と言わんばかりに蛇を引ったくって元の水槽に戻した。
 卯月はさっきからベットの上で布団にくるまったまま壁側を見つめている。

「卯月……、具合悪いのか?」

「そ…、そうらしい。だから、お前はさっさと出て行け」

 卯月は答えず四鵬が、しっしっ!しながら言った。その態度に蘭武は不機嫌になる。

「だったら、お前もさっさと出て行くんだろぉ~が!」

 そう言って、四鵬の右耳を掴み引きずっていった。
 四鵬は、いててて……やめろ~!と、もがきながら部屋から出た。

「アホは回収していくから、大事にな~、卯月~」

 ドアが静かに閉じられていく。
 卯月は布団の中で、一人、燻り続ける欲情に耐えていた。



「いててて……、いい加減に離せよ!」

 四鵬は蘭武に文句を言った。二人は廊下を道場に向かって歩いていた。

「いいから、このまま道場に来い。どうにも、こうにも体を動かしたくて仕方がねぇ。付き合え」

「いいぞ~、お前のせいで俺はむしゃくしゃしている、好都合だ」

 四鵬は、あともう少しで卯月と……、という所で蘭武に邪魔された事に立腹していた。蘭武があのタイミングで入って来なかったら今頃は……。想像する度に体中が熱を帯びてくる。それ以上に、海綿体に血液が送られ硬くなっていく。先ほどから、こちらのほうが納まりが付かなくて困っていた。耳を引っ張られ屈みながら歩くせいか、蘭武には気づかれていないようだ。

(しかし、このままでは、いられないな~)

「ちょっと待て、その前に俺、トイレ」

「逃げるなよ」

 と、蘭武が声をかける。

「誰が逃げるか!後から行く」




 白閻は羅遠家の上空500mから下界を見下ろしていた。

 上空の風は強い。そして、その表情は決して穏やかなものではなかった。
 猛禽類のそれと同じように鋭い目を光らせ下界を凝視している。獲物を探す目とは違う。寧ろ、狙った獲物に逃げられ悔しがっている様子に近い。事実、白閻は苛立っていた。

 6年間――。四鵬と共に、この島を離れている間、白閻は羅遠家への侵入が不可能になっていた。

 何故だか分からない――。

 自分を阻む何かがあることを知った白閻は、内心不気味さを感じながら怒りにわなないていた。

 先ほどまで、羅遠家の内部では、四鵬と卯月が交わろうとしていた。白閻にとってそれは自分が成長する千載一遇のチャンスであった。

 しかし、6年の間に羅遠家の様相が変化していた。羅遠家の内部は手に取るように分かる。だが、中に入ることが出来ないのだ。しかも、卯月の甘い血の香も、よくよく注意をしないと分からないほどに弱まっている。お陰で、卯月の所在地が以前より察知しにくくなっている。それに加えて、羅遠家の敷地内でどうしても内部が見えない場所も幾つかある。

 あの部分には一体、何が――?
 どう考えても、何者かの意図によるものだ。

(一体、誰がこんな真似を……)

 白閻は、羅遠家を凝視し続けた。
 廊下を知らない二人が歩いている。

(一人は、四鵬の異母兄と言ったか……?もう一人は、誰だ?奴らのどちらかが、自分の侵入を阻んだ者か?いずれにせよ、腹の立つ)

「おのれ~」

 腹の中から沸き立つ怒りに、白閻はぶつける相手を求めた。だが、羅遠家には一切手が出せない。ぶつけようのない怒りは、他方へ向かった。

 白閻は羅遠家を去り、島の中枢である町の方へと飛んでいった。

 何者か知らないが自分より強い力を感じる。自身も、今より力を得るため白閻は人間という獲物を漁りに行った。




 道場では、蘭武と四鵬が向き合っていた。
 二人とも道着に着替えての6年ぶりの立会い。
 6年前は蘭武に敵わなかったが今度は違う。
 四鵬には自信があった。

「いつでもいいぜ~、かかってきな」

 だから余裕でこんなことを言う。
 6年前は悔しくて歯を食いしばりながらやってたっけ。

「それは、こっちの台詞だ!」

 蘭武は自分に御馴染みの台詞を奪われ立腹していた。

「なら、いくぞ!」

 そうは言っても、二人とも微動だにしなかった。
 隙が無いのだから仕方がない。しかし、四鵬は余裕だった。
 何故なら白閻によって、通常の人間よりダメージが軽くなったからだ。以前、真っ黒な服装のまま深夜にコンビニに向かう途中、酔っ払い運転の車に轢かれそうな子猫を救い、自分が車に轢かれてしまったがまったく怪我をしなかった。不思議に思いその他にも色々なことを試してみた。ナイフで腕を刺したり、手を火であぶったりした。痛みはあるが、それでも回復が異常に早い。特に自分自身の傷を舐めるとさらに回復が早かった。だから、例え蘭武が禁じられた秘拳を使おうが、四鵬のダメージはほとんど無いだろう。
 四鵬はニヤリと笑った。

(今まで、俺が受けた屈辱を、ここで晴らしてやる……)

 四鵬の余裕の笑みに蘭武は眉を寄せ苛立ちを覚えた。だが、ここで感情に任せて踏み込んでも無駄だ。
 蘭武は気を落ち着けた。

(蘭武の奴、動かないつもりか……。なら、こっちからいくか!)

 四鵬は踏み込んだ。
 最初の前蹴りの一線は、十字に固めた両腕で阻止された。尽かさず右の手刀、これも素早く両腕を左にスライドさせ防ぐ。蘭武の両腕が左に向かった隙をついて次に右に左の手刀を放つ。
 今度は右手一本で払われた。まったく重心のぶれもない、見事な動きだった。

(流石だな……)

 今度は蘭武から低い位置での左の突きが飛ぶ。
 予想は出来たが、ここはわざと当たってやる。

 ――そして、勝負は次だ!

 蘭武は突きが当たったからといって手を休めることは無い。尽かさず身を翻し、四鵬のアキレス腱を狙う。

(きた――!)

 蘭武がアキレス腱を掴み、四鵬がバランスを崩したところ膝に肘を打つ。

 四鵬は、そのタイミングを逃さなかった――。

 ぐぉぉん、とうねりを上げ四鵬は左足を蘭武の顔面へと狙った。

 ――ガシン!!

 ちっ!四鵬が舌打ちする。
 蘭武は右へと吹っ飛んだが、当たる寸前右手でブロックされた。

(手加減しすぎたか?)

 蘭武は驚いた顔で起き上がり、

「随分、腕を上げたんだな~、いつ稽古してたんだ?」

「それなりにね~。言っとくが俺は今手加減してやったんだぜ~、今度はそうはいかねぇぞ」

 腕を組み、得意満々で言ってやった。
 蘭武の歯軋りが聞こえてきそうだ。

(爽快だな~!)

 
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