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瀬菜を見送った後、紅砂は庭の倉庫に入って行った。
今朝、瀬菜の血を吸い、交わった場所から、更に仕切られたカーテンの奥に鍵の架かった扉がある。
紅砂はその扉に手を触れ、鍵を開けると中に入って声をかけた。
「奏閻、居るんでしょ?」
紅砂が声をかけると、奥でもぞもぞと小さな影が動いた。
「なんのようだ?」
小さな影は幼くたどたどしい声で答えた。
それもそのはず、奏閻のほっぺはまだ福福として、全体的にもっちりとしている。どうみても3歳くらいの幼児の姿であった。
「頼みたい事があります。今すぐにでも、フランスに飛んで、龍一の助けになってください」
「なんで、おでが?人まえに出るな、といつもいってるのはおまえだどー」
舌ったらずの声で、小さな唇を尖らせた。
「それはあなたが僕の隠し子だと言い張るから」
「いいでねーか!それだって!!おでを こんな倉庫に押し込んで、拾ったのらねこのような あつかいしやがるとは!なんつーやつだ!」
「まあまあ、倉庫とは言っても優雅な生活を満喫してるじゃないですか」
紅砂は取り繕うように言った。
確かに、倉庫の中にあるこの部屋は、倉庫の中とは思えないほど煌びやかな洋室であった。窓こそはないが、内装は豪華絢爛。ベットは天蓋付のクィーンサイズに、テレビの前にはゆったり寛げるソファー、パソコン、冷蔵庫、ワイン棚まであり、そこには世界でも有数の極上ワインが並べられていた。
「まあ、けっこう、満足してるがな……」
ワイングラスを小さな手で揺らしながら、奏閻は、豪華なソファーに座りワインを口にしたかと思うと、DVDプレイヤーのスイッチを押す。テレビ画面からは、あ、あ、あ、あ、と言う、熱い女の吐息と白い肢体が前後に揺れている。
紅砂はその様子を軽蔑したように見つめた。
「僕の隠し子でしたら、そんな生活はさせられませんよ。厳しく躾けて子供らしくしてもらいます」
と、言った。奏閻は、フン、と鼻で笑った。
「おめーに、そんなことされたくねー」
そして、紅砂の方をちらりと見ると、何かを思いついたように身を乗り出し、子供とは思えない下卑た視線を紅砂に注いだ。
「そういや、おめー、今朝のあではなんだ?え?そこで何やってた?こんな映像じゃなく、生で 濡れ場が見れたのは、めっけもんだったがな」
紅砂は、来たな……、という表情をした。
「お子様はまだ寝てるかと思いましたが……」
「おでが、いやらしいおねーちゃんの喘ぎ声を聞いて、のんびり寝てると思ったか?ん?」
「やっぱり、覗いてましたね」
「覗いてた……だあ~!ばかやろうぉ!見える所でやるんじゃねえ!おめえばっかりいいな~、おねえちゃんに囲まれてよぉ~、対して、おでは一人寂しく、倉庫暮らし……。この姿になるとさぁ~、体だけじゃなく、心も子供に戻るんだよ、人のぬくもりがほしいんだよ~、寂しくなるんだよぉ~、そんな子をさ~、ひとり倉庫に押し込むなんて、あんまりじゃねぇか……こりゃ~、ひでー虐待だよ~、かわいそうすぎて、泣けるねぇ~」
奏閻が涙混じりに鼻を啜り上げた。紅砂は無視して、奏閻と同じソファーに座ると、傍らにあったエロ本をつまみ上げる。
「あまり、孤独で寂しそうな人の暮らしぶりとは思えませんが……」
奏閻が尽かさず、紅砂が摘んでいるエロ本を指差し叫んだ。
「それだぁぁぁーー!その本が、寂しさをあらわしているだろう!!本やDVDで心を癒してんだぞ、おではぁーーー!!」
紅砂が軽蔑したような視線で
「あなたの場合は孤独というより、性欲の間違いでしょ」
と、呆れた。奏閻は紅砂の言うことなど聞く耳持たず、
「大体、隠し子じゃなくとも、親戚の子とかいって、おでを卯月のねぇーちゃんに紹介してくれてもいいだろう~。同種の女に触れるのなんか、今だけのチャンス!ママ~とかいって、あのおっぱいにすりすりしてみたいもんだあ」
奏閻は目の前に卯月がいるかの如く、抱きつくように手を広げ、顔をふるふると左右に振りながら酔いしれている。
紅砂は溜息を付き、奏閻を見た。
「それだから、人前に出せないってこと、自覚してます?」
「幼い姿だからこそ、許されるものってのがあるだろう!おではそれを満喫したい!!」
「ダメですよ、いくら幼児の姿でも、下心が見え見えで、こっちが恥ずかしい。それに、卯月に触れるのはご法度です」
紅砂がそう言うと、奏閻は立ち上がった。立ち上がってやっと座っている紅砂と同じ目線になる。そして、真面目な顔して忠告した。
「それをいうなら、お前が一番あぶない!9年前だったかに、お前は、一度、卯月のねーちゃんの血を口にしただろ!以来、お前の体からプンプン雌の匂いがする」
「それはあなたの鼻が特別なだけで、普通は気づきませんよ、この程度なら……」
「そうかの?大体、あの時だって、な~んで、血ぃー吸わなくちゃいかんかったのだ!おでは昔から、再三言っていただろ~?雌には近づくなって!1000年前もそうだけど、お前にはいつもその禁だけは破る。おでたちのような低位の結鬼は、同種のたった一人の雌より、人間の雌を追っかけてた方が、安全性且つ、色々お試しできて、お得なんだぞ~!いいか、たった一人より、無限に広がる女に集中せよ!!それが、おでたち、低位結鬼の本能!生きる証!!」
紅砂が深く長い溜息をこぼす。
「僕まであなたの性欲中心の考え方に嵌めないで下さい。いずれもそれなりの理由がありますでしょう」
「なんでー、性欲以外の生きる理由ってなんだ?」
こいつは本当に性欲でしか物事を考えられないのか?という目で紅砂は見つめた。
「9年前、森で彼女の血を口にしたのは、彼女がケガをしていたからですよ」
「ケガならほっとけ!いずれ治る」
「まあ……そうですけど、出血している……ということが何よりまずい。彼女の血は、僕達、男を惹き付ける。以前のような事態は極力避けたい。だから、早く止めたほうがいい。僕は止血の意味で口にしたんです」
奏閻がにやりと笑う。
「そういや昨晩、あの小僧が卯月のねーちゃんの血を口にしたな~、けけけ……血は争そえんな、確かに卯月のねーちゃんの血は、おでたち、男を芳醇な香りでもって惹き付ける。そして、その血を直接口にすると、ど~なるか?」
奏閻は紅砂の鼻先まで顔を近づけ、卑しい顔で問い詰める。
「嫌な訊き方しないで下さい」
紅砂が顔を避け、その先は聞きたくないとでもいうように目を伏せた。
奏閻は紅砂の気持ちを察しながらも意地悪く結論を言った。
「ねーちゃんの女としての発情を、早める月刊になる、つまり、なんだかんだいっても、血を口にしたら、どのみち位の高い男どもがわんさかあらわれるのさ、意味ねぇ~よ!大体、9年前のお前で、あのねーちゃん、発情促進されただろ?え?」
「それはどうでしょう。所詮、低位の結鬼が相手では大したことないと思いますけど……」
「まあ、通常はそうなんだけどよぉ~、お前もまだまだ女に疎いよのぉ~」
紅砂がギロリと奏閻を睨む。
「何を言ってるのですか?」
奏閻は、きしし……と意地悪く笑うと、
「あれは絶対、欲情しとる」
「まさか!あの時卯月はまだ9歳ですよ。それに……僕は1000年前も同じ結鬼の女性の血を口にしたから分かるけど、僕程度の者では、そんな感覚を与えることは出来ませんよ」
「1000年前と今とじゃ違うべよぉ~。おでの見立てでは、ありゃ完全に欲情を知った女の顔だ!」
そう言い切る奏閻を横目で小莫迦にしたように見つめ紅砂は、
「そんな訳ないでしょう。9歳の女の子が……」
と、こちらも言い切った。
「んにゃ……あれは確実におめぇ~が発情を促したぜ~!……まあ、確かにいくらなんでも9歳じゃあ~、はえ~な~。しかし、お前が吸血したことで、9歳の子とはいえ、おでの見る限り、確実に快楽を味わったはずだ。以来、あの子は自分の中で燻る欲情と戦ってるだろ~、可哀想に」
奏閻は卯月が発情しているものとして話を続けた。紅砂の意見など、端から耳になど入れない。 紅砂は横目で奏閻を眺めながら溜息を付いている。
「ついでに言えば、一緒に居たあの小僧、あいつも可哀想だぞ~。お前が卯月のねぇ~ちゃんの発情促進したものだから、とばっちりで発情してんじゃねーか!それを、なんだぁ~、おまえ~、昨夜はあの小僧のモンを蘭武ねぇちゃん、かばうついでに、つかえないよう細工しただろ~。ひっで~野郎だ」
紅砂は返す言葉もない。
「だから四鵬については、一週間の期間限定にしてやってます。何も一生不能にするつもりはありませんよ」
そう弁解して、紅砂は力を抜いた。奏閻は、
「一週間!!おでだったら、耐えられんーーー!!そんなんだったら、死んだほうがましだーーー!!」
と叫んだ。
紅砂は心の中で、あんたは死なんだろ!と突っ込みを入れながら、この男の性欲に関心する。それと同時に、この男と一緒にいるだけで、何やら自分の精気を取られているような気だるさが増す。
「いずれにせよ、お前が、あの二人の発情を早めてるんだからな!この分だと通常より早くに高位の結鬼が上陸してもおかしくないぞ、どうするんだ?早すぎる発情は反って悲惨な結末が待ってるぞ。特に前回の繁殖は悲惨だったな。お前も見ただろう。今回の卯月のねーちゃんは、どうなるのかな~?」
奏閻の言葉に、紅砂の胸中が掻き乱される。そして、遂に頭を抱えて、その場に蹲ってしまった。この倉庫を出た世界で、紅砂のこんな姿を見た人は、きっといつもの彼との違いに驚くだろう。
紅砂は暫くじっとしていたが、両手で髪の毛をかき上げると、
「あー、嫌だ!本当にあなたは僕の嫌なところを突いてきますよね」
「はっはっは!!まあな~、なにせ、おではお前の『ち・ち・お・や』だからな。そもそも、お前が産まれたばかりの頃は……」
「分かりました!もう、分かりましたから!!それ以上は止めて下さい!」
もうそれ以上は聞きたくないと大きな声で奏閻の話を遮った。そして、奏閻の口が止まったのを見計らって、
「分かったから、フランスに行ってください」
と、真剣に頼んだ。
「なんで、おでがフランスに行かにゃ~ならんのだ?」
奏閻は不服そうにふくよかで小さな唇を尖らせた。
「あちらで、高位の結鬼が胎児の状態で産まれてしまったらしい……」
「ほっとけ!高位ともなると、ほっといても育つ」
「母体である人間がその胎児を大事にしているようです」
奏閻の眉が上がり、興味をそそったようだ。
「しかし、他の結鬼に狙われてもいるので、龍一と共に、潜伏しているのですが、龍一はストイックなタイプですし、母体である女性の手助けにも限界があります」
「だから、高位なら隠れていればいいだけだ」
「母体は子供の早い成長を望んでいます。早く成長させるとしたら、母乳は欠かせない栄養源です。しかし、彼女の母乳はほとんど出ないそうです」
奏閻はそれを聞くと、むむむ……と言って眉を寄せた。
「それでは、おっぱいマッサージが必要だな」
「そうです!母体は17歳の娘で金髪碧眼のモデルのような美貌の持ち主だそうです」
紅砂がそう言うと、奏閻の目が光った!
「それは、まさしく、おでの出番!!」
「その通りです!」
紅砂が手を叩きながら頷く。
「フランスに行って、あなたのその……なんとかフィンガー」
「ごぉるでん ふぃんがぁーだ!!」
「そう、それ!それを大いに奮う時がやってきたのです!」
「おう!それは、いい事だ!最近は、哺乳瓶などという無粋なもので子供を育てるやからが多い。あれは、けしからん!おでのごおるでん ふぃんがぁーにかかれば、一発でシャーシャーと母乳が出るのだ!子供はやはり可能な限り、母乳で育てなければあかん!そもそも、最近の男共は、乳の出させ方ひとつ知らんから情けない!よし!おでが行ってやる!!」
「そうです、その通りです!母乳が一番です!思う存分、腕を振るって来てください!金髪美女があなたを待っています!」
紅砂が拍手で奏閻を盛り上げる。
「おう!それじゃあ、行ってくるぜぃ!!あばよ~、羅閻。久々の 生ぱいぱいがおでを待ってるぜぃ~!」
その言葉を残し、奏閻は倉庫を飛び出して行った。
後に残った紅砂が肩を落とし、大きく大きく溜息をつく。
「はぁ……、取り敢えず何とか行ったか……。それにしても、自分の親と接するときが一番精神的に疲れる……。子は親を選べないというが、永遠にあの親が生きていると思うと何より気が重い。いい加減、誰か食ってくれないかなあ」
この上なく親不孝な事を言うと、紅砂は奏閻の居なくなった豪華な洋室の倉庫で、長々と身を横たえた。
しかし、奏閻なきあと、テレビから聞こえてくる女の喘ぎ声が耳につくと、紅砂は気だるげに起き上がりDVDプレイヤーのスイッチを消した。棚にある奏閻の丸秘エ○DVDコレクションを見て、またもや深い溜息をついた。
「……これ……処分しないと、誰かに発見されたとき、僕の趣味と思われるよなあ。あの人は、子供の振りしてとんずらするだけだし、かといって、これを捨てると、また買わされるしなあ。本当に、早く誰か食ってくれないかなあ」
と、一人、ごちて、その場に崩れた。体がどうしようもなくだるい。
今朝、瀬菜の血を吸い、交わった場所から、更に仕切られたカーテンの奥に鍵の架かった扉がある。
紅砂はその扉に手を触れ、鍵を開けると中に入って声をかけた。
「奏閻、居るんでしょ?」
紅砂が声をかけると、奥でもぞもぞと小さな影が動いた。
「なんのようだ?」
小さな影は幼くたどたどしい声で答えた。
それもそのはず、奏閻のほっぺはまだ福福として、全体的にもっちりとしている。どうみても3歳くらいの幼児の姿であった。
「頼みたい事があります。今すぐにでも、フランスに飛んで、龍一の助けになってください」
「なんで、おでが?人まえに出るな、といつもいってるのはおまえだどー」
舌ったらずの声で、小さな唇を尖らせた。
「それはあなたが僕の隠し子だと言い張るから」
「いいでねーか!それだって!!おでを こんな倉庫に押し込んで、拾ったのらねこのような あつかいしやがるとは!なんつーやつだ!」
「まあまあ、倉庫とは言っても優雅な生活を満喫してるじゃないですか」
紅砂は取り繕うように言った。
確かに、倉庫の中にあるこの部屋は、倉庫の中とは思えないほど煌びやかな洋室であった。窓こそはないが、内装は豪華絢爛。ベットは天蓋付のクィーンサイズに、テレビの前にはゆったり寛げるソファー、パソコン、冷蔵庫、ワイン棚まであり、そこには世界でも有数の極上ワインが並べられていた。
「まあ、けっこう、満足してるがな……」
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紅砂はその様子を軽蔑したように見つめた。
「僕の隠し子でしたら、そんな生活はさせられませんよ。厳しく躾けて子供らしくしてもらいます」
と、言った。奏閻は、フン、と鼻で笑った。
「おめーに、そんなことされたくねー」
そして、紅砂の方をちらりと見ると、何かを思いついたように身を乗り出し、子供とは思えない下卑た視線を紅砂に注いだ。
「そういや、おめー、今朝のあではなんだ?え?そこで何やってた?こんな映像じゃなく、生で 濡れ場が見れたのは、めっけもんだったがな」
紅砂は、来たな……、という表情をした。
「お子様はまだ寝てるかと思いましたが……」
「おでが、いやらしいおねーちゃんの喘ぎ声を聞いて、のんびり寝てると思ったか?ん?」
「やっぱり、覗いてましたね」
「覗いてた……だあ~!ばかやろうぉ!見える所でやるんじゃねえ!おめえばっかりいいな~、おねえちゃんに囲まれてよぉ~、対して、おでは一人寂しく、倉庫暮らし……。この姿になるとさぁ~、体だけじゃなく、心も子供に戻るんだよ、人のぬくもりがほしいんだよ~、寂しくなるんだよぉ~、そんな子をさ~、ひとり倉庫に押し込むなんて、あんまりじゃねぇか……こりゃ~、ひでー虐待だよ~、かわいそうすぎて、泣けるねぇ~」
奏閻が涙混じりに鼻を啜り上げた。紅砂は無視して、奏閻と同じソファーに座ると、傍らにあったエロ本をつまみ上げる。
「あまり、孤独で寂しそうな人の暮らしぶりとは思えませんが……」
奏閻が尽かさず、紅砂が摘んでいるエロ本を指差し叫んだ。
「それだぁぁぁーー!その本が、寂しさをあらわしているだろう!!本やDVDで心を癒してんだぞ、おではぁーーー!!」
紅砂が軽蔑したような視線で
「あなたの場合は孤独というより、性欲の間違いでしょ」
と、呆れた。奏閻は紅砂の言うことなど聞く耳持たず、
「大体、隠し子じゃなくとも、親戚の子とかいって、おでを卯月のねぇーちゃんに紹介してくれてもいいだろう~。同種の女に触れるのなんか、今だけのチャンス!ママ~とかいって、あのおっぱいにすりすりしてみたいもんだあ」
奏閻は目の前に卯月がいるかの如く、抱きつくように手を広げ、顔をふるふると左右に振りながら酔いしれている。
紅砂は溜息を付き、奏閻を見た。
「それだから、人前に出せないってこと、自覚してます?」
「幼い姿だからこそ、許されるものってのがあるだろう!おではそれを満喫したい!!」
「ダメですよ、いくら幼児の姿でも、下心が見え見えで、こっちが恥ずかしい。それに、卯月に触れるのはご法度です」
紅砂がそう言うと、奏閻は立ち上がった。立ち上がってやっと座っている紅砂と同じ目線になる。そして、真面目な顔して忠告した。
「それをいうなら、お前が一番あぶない!9年前だったかに、お前は、一度、卯月のねーちゃんの血を口にしただろ!以来、お前の体からプンプン雌の匂いがする」
「それはあなたの鼻が特別なだけで、普通は気づきませんよ、この程度なら……」
「そうかの?大体、あの時だって、な~んで、血ぃー吸わなくちゃいかんかったのだ!おでは昔から、再三言っていただろ~?雌には近づくなって!1000年前もそうだけど、お前にはいつもその禁だけは破る。おでたちのような低位の結鬼は、同種のたった一人の雌より、人間の雌を追っかけてた方が、安全性且つ、色々お試しできて、お得なんだぞ~!いいか、たった一人より、無限に広がる女に集中せよ!!それが、おでたち、低位結鬼の本能!生きる証!!」
紅砂が深く長い溜息をこぼす。
「僕まであなたの性欲中心の考え方に嵌めないで下さい。いずれもそれなりの理由がありますでしょう」
「なんでー、性欲以外の生きる理由ってなんだ?」
こいつは本当に性欲でしか物事を考えられないのか?という目で紅砂は見つめた。
「9年前、森で彼女の血を口にしたのは、彼女がケガをしていたからですよ」
「ケガならほっとけ!いずれ治る」
「まあ……そうですけど、出血している……ということが何よりまずい。彼女の血は、僕達、男を惹き付ける。以前のような事態は極力避けたい。だから、早く止めたほうがいい。僕は止血の意味で口にしたんです」
奏閻がにやりと笑う。
「そういや昨晩、あの小僧が卯月のねーちゃんの血を口にしたな~、けけけ……血は争そえんな、確かに卯月のねーちゃんの血は、おでたち、男を芳醇な香りでもって惹き付ける。そして、その血を直接口にすると、ど~なるか?」
奏閻は紅砂の鼻先まで顔を近づけ、卑しい顔で問い詰める。
「嫌な訊き方しないで下さい」
紅砂が顔を避け、その先は聞きたくないとでもいうように目を伏せた。
奏閻は紅砂の気持ちを察しながらも意地悪く結論を言った。
「ねーちゃんの女としての発情を、早める月刊になる、つまり、なんだかんだいっても、血を口にしたら、どのみち位の高い男どもがわんさかあらわれるのさ、意味ねぇ~よ!大体、9年前のお前で、あのねーちゃん、発情促進されただろ?え?」
「それはどうでしょう。所詮、低位の結鬼が相手では大したことないと思いますけど……」
「まあ、通常はそうなんだけどよぉ~、お前もまだまだ女に疎いよのぉ~」
紅砂がギロリと奏閻を睨む。
「何を言ってるのですか?」
奏閻は、きしし……と意地悪く笑うと、
「あれは絶対、欲情しとる」
「まさか!あの時卯月はまだ9歳ですよ。それに……僕は1000年前も同じ結鬼の女性の血を口にしたから分かるけど、僕程度の者では、そんな感覚を与えることは出来ませんよ」
「1000年前と今とじゃ違うべよぉ~。おでの見立てでは、ありゃ完全に欲情を知った女の顔だ!」
そう言い切る奏閻を横目で小莫迦にしたように見つめ紅砂は、
「そんな訳ないでしょう。9歳の女の子が……」
と、こちらも言い切った。
「んにゃ……あれは確実におめぇ~が発情を促したぜ~!……まあ、確かにいくらなんでも9歳じゃあ~、はえ~な~。しかし、お前が吸血したことで、9歳の子とはいえ、おでの見る限り、確実に快楽を味わったはずだ。以来、あの子は自分の中で燻る欲情と戦ってるだろ~、可哀想に」
奏閻は卯月が発情しているものとして話を続けた。紅砂の意見など、端から耳になど入れない。 紅砂は横目で奏閻を眺めながら溜息を付いている。
「ついでに言えば、一緒に居たあの小僧、あいつも可哀想だぞ~。お前が卯月のねぇ~ちゃんの発情促進したものだから、とばっちりで発情してんじゃねーか!それを、なんだぁ~、おまえ~、昨夜はあの小僧のモンを蘭武ねぇちゃん、かばうついでに、つかえないよう細工しただろ~。ひっで~野郎だ」
紅砂は返す言葉もない。
「だから四鵬については、一週間の期間限定にしてやってます。何も一生不能にするつもりはありませんよ」
そう弁解して、紅砂は力を抜いた。奏閻は、
「一週間!!おでだったら、耐えられんーーー!!そんなんだったら、死んだほうがましだーーー!!」
と叫んだ。
紅砂は心の中で、あんたは死なんだろ!と突っ込みを入れながら、この男の性欲に関心する。それと同時に、この男と一緒にいるだけで、何やら自分の精気を取られているような気だるさが増す。
「いずれにせよ、お前が、あの二人の発情を早めてるんだからな!この分だと通常より早くに高位の結鬼が上陸してもおかしくないぞ、どうするんだ?早すぎる発情は反って悲惨な結末が待ってるぞ。特に前回の繁殖は悲惨だったな。お前も見ただろう。今回の卯月のねーちゃんは、どうなるのかな~?」
奏閻の言葉に、紅砂の胸中が掻き乱される。そして、遂に頭を抱えて、その場に蹲ってしまった。この倉庫を出た世界で、紅砂のこんな姿を見た人は、きっといつもの彼との違いに驚くだろう。
紅砂は暫くじっとしていたが、両手で髪の毛をかき上げると、
「あー、嫌だ!本当にあなたは僕の嫌なところを突いてきますよね」
「はっはっは!!まあな~、なにせ、おではお前の『ち・ち・お・や』だからな。そもそも、お前が産まれたばかりの頃は……」
「分かりました!もう、分かりましたから!!それ以上は止めて下さい!」
もうそれ以上は聞きたくないと大きな声で奏閻の話を遮った。そして、奏閻の口が止まったのを見計らって、
「分かったから、フランスに行ってください」
と、真剣に頼んだ。
「なんで、おでがフランスに行かにゃ~ならんのだ?」
奏閻は不服そうにふくよかで小さな唇を尖らせた。
「あちらで、高位の結鬼が胎児の状態で産まれてしまったらしい……」
「ほっとけ!高位ともなると、ほっといても育つ」
「母体である人間がその胎児を大事にしているようです」
奏閻の眉が上がり、興味をそそったようだ。
「しかし、他の結鬼に狙われてもいるので、龍一と共に、潜伏しているのですが、龍一はストイックなタイプですし、母体である女性の手助けにも限界があります」
「だから、高位なら隠れていればいいだけだ」
「母体は子供の早い成長を望んでいます。早く成長させるとしたら、母乳は欠かせない栄養源です。しかし、彼女の母乳はほとんど出ないそうです」
奏閻はそれを聞くと、むむむ……と言って眉を寄せた。
「それでは、おっぱいマッサージが必要だな」
「そうです!母体は17歳の娘で金髪碧眼のモデルのような美貌の持ち主だそうです」
紅砂がそう言うと、奏閻の目が光った!
「それは、まさしく、おでの出番!!」
「その通りです!」
紅砂が手を叩きながら頷く。
「フランスに行って、あなたのその……なんとかフィンガー」
「ごぉるでん ふぃんがぁーだ!!」
「そう、それ!それを大いに奮う時がやってきたのです!」
「おう!それは、いい事だ!最近は、哺乳瓶などという無粋なもので子供を育てるやからが多い。あれは、けしからん!おでのごおるでん ふぃんがぁーにかかれば、一発でシャーシャーと母乳が出るのだ!子供はやはり可能な限り、母乳で育てなければあかん!そもそも、最近の男共は、乳の出させ方ひとつ知らんから情けない!よし!おでが行ってやる!!」
「そうです、その通りです!母乳が一番です!思う存分、腕を振るって来てください!金髪美女があなたを待っています!」
紅砂が拍手で奏閻を盛り上げる。
「おう!それじゃあ、行ってくるぜぃ!!あばよ~、羅閻。久々の 生ぱいぱいがおでを待ってるぜぃ~!」
その言葉を残し、奏閻は倉庫を飛び出して行った。
後に残った紅砂が肩を落とし、大きく大きく溜息をつく。
「はぁ……、取り敢えず何とか行ったか……。それにしても、自分の親と接するときが一番精神的に疲れる……。子は親を選べないというが、永遠にあの親が生きていると思うと何より気が重い。いい加減、誰か食ってくれないかなあ」
この上なく親不孝な事を言うと、紅砂は奏閻の居なくなった豪華な洋室の倉庫で、長々と身を横たえた。
しかし、奏閻なきあと、テレビから聞こえてくる女の喘ぎ声が耳につくと、紅砂は気だるげに起き上がりDVDプレイヤーのスイッチを消した。棚にある奏閻の丸秘エ○DVDコレクションを見て、またもや深い溜息をついた。
「……これ……処分しないと、誰かに発見されたとき、僕の趣味と思われるよなあ。あの人は、子供の振りしてとんずらするだけだし、かといって、これを捨てると、また買わされるしなあ。本当に、早く誰か食ってくれないかなあ」
と、一人、ごちて、その場に崩れた。体がどうしようもなくだるい。
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彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
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