どこまでも近くて遠い君

蓮華空

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摩矢episode1

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 文化祭後という、愛だの恋だので浮き足立った馬鹿共が、最も馬鹿騒ぎし出す嫌な時間帯にそれは起こった。

 行事から全くの治外封建と化していた俺は、一人呑気に非常階段の踊場で昼寝にしけこんでいた。

 茜色に染まり始めた空には雲が放射状に広がり、上空を飛ぶ白鷺の声がノスタルジックに秋の風情を醸し出していた。

 そんな長閑な雰囲気の人気のない校舎裏に、一組の男女が楽しそうにやって来た。

「木下さんはさー。もっと自信を持った方がいいよ。実行委員になって思ったけど、木下さんの気配りで俺は本当に助かった。有り難う」

 俺は非常階段の下から聞きこえてくる幼馴染みの声に耳を済ませた。どうやら桜木の野郎がまた女子に調子のいいこと言っているようだ。イケメンなんだから相手の勘違いを誘わぬよう、人と人との距離には気を付けろと再三忠告しているのに、奴は全然それを改めない。

「ううん、そんなことないよ。私の方こそ桜木君のお陰で今年の文化祭はすごく楽しかった。有り難う」

 女子生徒の甘く蕩けるような可愛らしい声を聞いて、俺の心はざわめいた。
 この声だけでも女に縁のないおっさんだったら軽く昇天してしまいそうだ。そんなとんでもない武器を携えた女が桜木に近付いている。
 俺は危機感を感じて、踊り場から身を乗り出し、下に居る二人の様子を覗きこんだ。

「そういえば、木下さんって、長く片想いしている相手がいるって聞いたけど、大丈夫じゃない?もっと積極的になってみな。女子力高いんだし、片想いなんて勿体ねーぞ」
「……本当にそう思う?」
「思う、思う!木下さんは可愛いし、男からしたら良い事ばかりだと思うけどなー。だから、自信を持ちな」

 女は桜木を見つめ返した。
 その長い沈黙と熱い視線に俺は唇を噛み締めた。このままではやばいと直感的に感じたのだ。

「──ねえ、それって、あたしが告白したら断る男は先ず居ないって解釈でいいのかな?」

 女は桜木の様子を意味深な目で見つめている。

(──おいおい、調子に乗るなよこの糞女!!男がそう言う時は大抵社交辞令と決まってるだろうがっ!)

 だが、恋に目が眩んでいる女にはそれが分からない。勿論、桜木の馬鹿にもそんな女の状態なんか到底分かりゃしないからいつもまずい事になる。

「うん。木下さんだったら断る奴なんて居ないよ!告られた方はすっげー嬉しいと思う!」

 案の定、桜木は満面の笑顔で答えた。

(やっぱこいつは何も考えてねえ!)

「じゃあさ、……あたしと付き合ってって言ったら、桜木くん付き合ってくれる?」
「──はっ!俺?!」

 今さらそこで驚くのかよ。


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