暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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陶也side1

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 イザヤは道路から田んぼに勢いよく飛び降りると、刈り取りのすんだ、干からびた土を蹴り上げ、母親に向かって跳び蹴りをかました。

 母親はそれを顔面に喰らい、鼻血を吹きながら後ろに倒れ込んだが、彼女は自分の鼻血を確認すると、田んぼの土の上で、のたうつように腹を抱えて笑い出した。

 イザヤの蹴りは、途中、後部座席から這い出してきた男が、邪魔をしたせいで、威力が緩和していたようだ。

 鼻血を出すだけですんだ母親は、何が可笑しいのか、血塗れになりながら、ずっと一人で笑い転げてる。

 そして、他の男達は、一斉にイザヤに飛び付き、乱闘を始めた。

 陶也はその異常な光景をただ呆然と見つめるしか出来なかった。

 ──何が起きてるの?

 ──何なの、これ?

 横転した車の横で、イザヤは男達と三対一の闘いに扮している。

 その横で、顔面を血の赤で染めながら、腹を抱えて笑い続ける女。

 この異常な状況に陶也は成す術もない。ただ、立ち尽くすしかなかった。

 やがて高笑いが収まると、母親はゆっくりと立ち上がった。

 ひび割れた大地に、イザヤに殴られ、伸びている男が一人、転がっていた。

 だが、今では他の二人によって、イザヤの動きは封じられていた。

「随分、強くなったじゃねぇか、糞餓鬼。ターナーを一発で伸すとは、成長したな」

 黒髪オールバックの男がイザヤを羽交い締めにしながら、耳元で囁いた。

「マシュー。てめぇは、まだあの糞女とつるんでるのか、どうしようもねぇ馬鹿だと思ったが、本当に救いようもない馬鹿だったんだな!」

「相変わらず口の減らねえ餓鬼だな。また後ろから可愛がってやろうか?え?」

 オールバックがイザヤの耳朶を舐める。

 イザヤは、「気持ち悪い真似するな!」と言って、羽交い締めにされたまま、後頭部で後ろのオールバックに頭突きを当てようともがく。

 それを止めようと、栗毛の男がイザヤの顔面を殴りにきた。

 透かさずイザヤが前蹴りでそれを防ぐ。

「お前たち、もういい!そこを動くな!」

 母親の声に、全員の視線が集中した。

「相変わらずだね~、イザヤ。真っ直ぐあたしを殺しに来てくれて、嬉しいよ。でも、もうこのゲームは終わり」

 母親はそう言って、懐に手を入れた。
 手には黒光りした銃が握られている。

「調教できるまで、暫く身動きできないよう、足を撃ち抜く。しっかり押さえてろよ、お前たち」

 ──そんな!イザヤ!!

 陶也は慌てて自転車を手にし、大きく振りかぶって、母親に向かって投げつけた。

 陶也の存在に全く注意を向けていなかった母親は、あっさり自転車にぶつかり、きゃあ、と悲鳴を上げ倒れ込んだ。

「陶也!!」

 と叫ぶイザヤの声が聴こえた。

 陶也は直ぐ様、トラックに向かって走った。

 途中、振り返るって見ると、今のどさくさで男達の気も逸れたのか、イザヤが男達の手を振り切り、母親が落とした銃を手にしてるのが見えた。

 陶也はトラックの運転席に乗り込むと、直ぐに発進させた。

「イザヤ!乗って!!!」

 田んぼギリギリにトラックを付ける。

 慌てて銃を取り出した男達に向かって、イザヤは銃を撃った。

 パン、パン、と銃声がすると、彼らは地面に伏せた。

 その隙にイザヤは素早く軽トラックの荷台に跳び乗った。

 陶也はイザヤが乗った事をバックミラーで確認すると、アクセル全開で踏み込んだ。

 後ろから何度か銃声が響いていたが、陶也はただ前を向くことだけに集中した。

 ──イザヤをあいつらから遠ざけなくては!

 その想いだけで、陶也はアクセルペダルを踏みこんだ。
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