暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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陶也side1

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 イザヤが憎くて憎くて堪らなかった。

「何で?……何で、あんな真似したの?僕の事……一瞬でも考えてくれた?……僕は、目の前に居たのに……イザヤの……目の前に、居たのにっ!!」

 陶也はイザヤの足元に崩れ落ちた。

 涙が急に溢れ出す。

 そして、思い出した。


 母に──、

 初めて、自分の力の存在を口にして、母を責めた日の事を──。


 『僕はいらない子だ!──それなのに、何故、産んだ!』


 あの時も、陶也は母に『怒り』を込めて、言ったのだ。

 そしたら、母は発狂して、陶也を打った。

 悲しかった。

 何度も何度も打たれ、そして、母は泣き崩れた。

 陶也は泣き崩れる母を見て思った。 

『怒り』は人をこんなにも傷付ける。

 自分も母も、お互い傷付くばかりで、想いがあっても繋がれない。

 それは、一緒に居てもこの上なく孤独だった。

 そして、あの日から陶也は、『怒り』の感情を封印したのだ。




 そして、その感情が、──今、戻ってきた!!




 陶也の生きる道に、『怒り』が、しっかりと入ったのを感じた。

「うわああああああ━━━━━!!!!」

 陶也は泣き崩れた。母によって抑圧されていた感情が殻を破って一気に解放される。

「陶也!悪かった!本当に、俺が悪かった!!」

 イザヤが陶也をしっかりと抱き、謝った。

 陶也は、イザヤにしがみつき、声を上げて泣いた。

 自分で、自分の泣き声を、産声のようだと思った。新しい自分が、今、産まれた気がした。


 この人に会わなければ、ずっと解らないままだった。

 陶也にとって、怒りの感情は、孤独とセットだったのだ。

 だから、自分は『怒り』を抑圧した。

 イザヤに初めて会った時もそうだった。何故、腹を立てない?とイザヤは訊いたのだ。

 イザヤと初めて一緒に外食した時もそうだ。本当は神田や蒔田さん達に、怒りを感じていたのに、陶也は怯えるばかりだった。だから、イザヤにはっきりしろと怒られた。何故、怯えたのか?それは自分の腹の底に巣食う怒りを感じていたからだ。その怒りの念が、表に出る事をいつも恐れていたのだ。

 だから、神田達に自分の力を開示した時も、力の事に関しては、いくらでも誤魔化せるのに、陶也はこの世の終わりのように怯えた。あんなに怯えた理由は、怒りを表面に出したからだ。

 怒りを表面に出す事は、陶也にとって孤独に近づく事だったのだ。

 愛する母に向けた、たった一回の怒りが、母との別れになった。母との繋がりが切れた要因になったのだ。だから、陶也にとって怒りは禁忌だったのだ。
 
 それを、今、陶也は、しっかりと理解した。

 陶也が最も恐れていたのは、自分の内側から生じる怒りの表出だったのだ。

 神田達の記憶を見た時、女子中学生を拐かす彼らの姿に、陶也の奥底では怒りが沸いていた。だが、陶也はその記憶を忘れようとした。それを忘れて、怒りを無かった事にしたかったのだ。陶也が本当に無かった事にしたかったのは、力ではなく、怒りの感情だったのだ。

 『求道』とは、その道に心が入ることだ──。そう言った精神科医の言葉が身に染みた。

 自分の中に沸く『怒り』の感情を認識しようとしなかっただけで、人の行動が──、選択が、その後の人生が大きく変わってしまうのだ。

 もしも神田の記憶を一番始めに見た時、しっかりと陶也が怒りを感じていたなら、きっと陶也の行動は自然と違う道を辿っていたのではないか?
そうしたら、あの女の子を何とか助けられたかもしれない。

 自分の人生だけじゃない。これは他人の人生にまで響く事なんだ。




 
 イザヤがそれを教えてくれた。

 イザヤに出会わなければ、

 陶也がそれに、気付く事はなかった──。

 きっと、ずっと気付かずに、怒りの表出に怯え、ずっと抑圧した生涯を生きていただろう。

 だから、それを知る瞬間がやって来た事に、こんな苦しみを与えられても、陶也は心からイザヤに感謝した。



「イザヤ、イザヤ、イザヤ」

 何度もイザヤの名を呼んだ。そして、イザヤにしがみついた。

 イザヤが憎くて憎くて憎くて、愛しかった。

 愛しくて、愛しくて、愛しくて、憎かった。

 ──本当に、この人は

 陶也にとって、特別な存在だ。

 陶也は人を愛する事の意味を知った。


 人は人を愛する事で、その執着により、様々な感情に揺さぶられる。


『愛憎恩怨喜怒哀楽』 


 それが人の生きる道なんだ。

 その時、その時、しっかり心を入れて、しっかりと見つめること。

 それが、人の生きる道なのだ。

 愛する事で、人はそれを知るのだ。


 しっかりと心を、自分の道に通して、初めて人は人を理解できるようになるのだ。

 人は皆、等しく孤独なのだ。

 孤独を恐れているのだ。

 だからこそ、愛という執着が生まれる。

 拠り所を求める。

 求めれば、あらゆる感情に襲われるのだ。

 だが、人間は負の感情を嫌う。

 それ故に、負の感情を避けようとする。

 すると、歪むのだ。

 避けようとしながらも、それに囚われてしまうのだ。

 その、歪みが、その囚われた心が、人が人を、理解出来なくさせるのだ。

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