暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

文字の大きさ
95 / 116
イザヤside2

93

しおりを挟む
 部屋に入るなり、直ぐ様、イザヤは陶也にしがみついた。そして、そのままベッドに押し倒すと、ただひたすら陶也をぎゅうぎゅうと抱き締めた。

「イザヤ……、ちょっと待って、苦しい」

 苦しいと言われても、中々緩めることが出来ない。

 自分が今まで生きてきた中で、陶也に出会えた事が、どれほどの喜びか!どれほどの光か!

 あの地獄のような日々でさえ、この温もりと光に出会うためだったのなら、全てに感謝したい気持ちだった。

 イザヤは陶也に頬を刷り寄せ、その耳元に囁いた。

「好きだ」

 びくりっと陶也の体が、イザヤの腕の中で震え、硬直する。そして、何度も何度もその言葉を繰り返した。

「好きだ、好きだ、好きだ、好きだ……」

 呪文のように何度も唱えながら、陶也の頬や首筋、額や瞼に次々とキスを落とす。

 そして、ふと見ると、陶也が真っ赤な顔で、黒瞳を潤ませながら、「ちょっと待って下さい」と言った。

 その表情がとても可愛い。愛しい。

 それ以外に、何があるだろう?

「待てない」

 と言って、その唇に唇を重ねた。

 ──甘い。

 そして、また唇を至るところに這わせながら、繰り返し呪文を唱えた。

「好きだ、好きだ、好きだ、好きだ」

 何度も何度もキスをした。すると、次第に陶也の目が涙で滲んできたかと思うと、突然声を上げて泣き出した。イザヤは狼狽えた。

「え?お、おい、どうした?」

 イザヤは陶也の目に浮かんだ涙を拭いながら、大層、慌てた。

「だって、イザヤ……。今までそんな事、一言も言ってくれなかったから、嬉しくて……ずっと片思いな気分でいたから……」

「はあ?!何でそうなる?!」

 イザヤは一瞬、驚いたが、自分で言ってから、気付いた。思い起こすと確かに返事らしい、返事を陶也に返していない?!
 
 これも無意識か?

 ずっと何処かで、この関係はそう長くないと思っていたから、自分には愛だの恋だのは、不相応で……、でも、欲望ばかりが猛って……。

 なんてこった!──体の繋がりだけだったか……?!

「あ、あの……陶也、その……、口では、はっきりと言ってなかったけど、俺は……」

 陶也は頷いた。

「はい。何となく、好きでいてくれてるのかな?なんて思ったけど、でも、イザヤは人肌が好きだって言ってたから、時折、それだけかな?なんて、気持ちが揺れる時もあって……、落ち込む時もあったから……」

 ──なんだって?!!!!!

 落 ち 込 む 時 も あっ た?!

 俺はこんなにも可愛くて、優しくて、美しい恋人に、辛い思いをさせていたかと思うと、自分自身に憤りを感じた。

「馬鹿野郎!そういう事はちゃんと言え!!」

 いや、違う!陶也にそんな事を言わせてどうする?違うだろ!俺が全面的に悪い。イザヤは自分自身に舌打ちした。

「……だって、その頃のイザヤに言っても、イザヤは罪人だって意識があったから、僕の望む言葉は、イザヤを困らせるだけだと思って、それは嫌だったから……、ただ、側に居てくれれば、それだけでいいと思っていた……」

「こっの……馬鹿野郎……っ!」

 陶也のその告白に、胸が締め付けられる。

 そうなのだ!こいつは俺の記憶が見えるのだ!見ていたのだ!俺のクソひでー記憶を見るだけでも、キツイのに、こいつはそれを見ながらも、いつでも俺の気持ちを慮っていたのかと思うと、その健気さに胸が苦しくなる。

「お前……何で俺の事、嫌にならなかった?俺のどうしようもない記憶なんか見えて……、お前も苦しんでいたよな」

 脱衣所では、涙を流しながら怯え、渓流では、その瞳に何も写さなくなった陶也を思い出す。あれは、俺だ。俺がレイプされた時の──、兄弟達を失った時の──、俺の姿だ。

 薄暗くなっていく渓流の砂利の上で、膝を抱えながら、じっと痛みと孤独に、耐えていた陶也の姿を思い出すと、イザヤの瞳からまたじわりと涙が溢れてくる。

「あんな思いして、何で?何で、俺の事を好きになるんだ?お前にとっての好きってなんだ?お前からしたら、俺と居ることは、苦しみばかりだっただろう?」

 俺はこいつに、沢山の温もりや癒し、光をもらっていたのに、俺はこいつに、一体、何を与えた?何も与えてはいないだろう?痛みと苦労ばかりを与えていたような気がする。

 しかし、陶也は首を振った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...