暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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イザヤside2

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「ど……どういうことだ?なんでそうなる??」

 イザヤは目を剥いて、陶也の黒瞳を見つめた。その瞳が哀しげに揺れている。

「お母さんはお爺ちゃんが好きだったんだ。でも、それを素直に表現できなかった。愛されたいと思う人に、自分は絶対に愛されなくて、最も自分が憎く思う人のものだとしたら、お母さんの中の『悪魔』は何をすると思う?」

 イザヤは身震いした。

「マジかよ……」

 サラの境遇には同情する。けれども……そこまでいくのは……。

 それだけ、サラの絶望は深かったということか?

「お母さんは薬を使って、謂わば逆レイプに及んだんだ。流石に、お爺ちゃんもそれには耐えられなかった。苦悩の挙げ句、家を出ることにしたんだ。自分がそんな目に遭わされたこともショックだったが、何より、自分が居ると娘が狂ってしまう。そう思ってお爺ちゃんは姿を消した。だけど、それはお母さんにとって、やはり『自分は愛されない』という証明となり、やがてイザヤがお腹の中に居る事を知ると、自分の母親に対しては、完全なる勝利宣言に変わった。そうして、母と娘の立場は逆転し、お母さんの悪の顔は確立された。でも、イザヤが産まれると、お母さんはまた変化したんだ」

「変化?」

「うん。初めはお爺ちゃんの子供を身籠った事で、母親に対する優位性を誇示し、気分がよくなっている程度だった。けど、産まれたイザヤは、一心に自分を求め追いかけてくる。しかも、自分が密かに想いを寄せた、お爺ちゃんの子供だ。愛されないと思い込んでいたお母さんにとって、それは初めて感じる幸せだ。だから、少しずつ悪の顔もなりを潜め、人生をやり直そうとした。そして、男性と付き合うようになり、今度はリサを身籠った。イザヤの子育ては順調だったから、お母さんは次も大丈夫だと思っていたんだ。だけど、産まれて来た子は女の子だった。しかも、活発で利発なリサの成長は早く、イザヤよりもお母さんの手を煩わせた。次第にイライラし始めたお母さんは付き合っていた男性と衝突することが増え、結果、別れた。失意の底で二人の子供を抱え、働いたが、自分が居ない間に、兄妹二人が仲良くなっていくのが、段々と許せなくなったんだ。イザヤだけは、お母さんにとって、特別な存在だったから……」

 イザヤの脳裏で、サラの歌う子守唄がまた木霊した。

 イザヤが産まれた時、サラはまだ16歳だった。

 誰にも愛されないと思っている、孤独な16歳の少女が、小さな命にすがり付くように、一生懸命子育てをしている姿を、イザヤは思い浮かべた。

 そう思うと、無性に切なかった。

「お母さんはそれでも何とかして、自分を建て直そうと、イザヤが産まれて来たときのような幸福感を求めて子供を産んだ。次こそ大丈夫。次こそは……。でも、思うようにはいかなかった。子供が大きくなれば、なるほど、子供は勝手になる。すると、またやって来てしまうんだ。『自分は誰からも愛されない』って感覚が……。苛立ちは、日毎に増し、お母さんはまた悪の顔を呼び覚ましていった。結果、遂に殴る蹴るなどの虐待に転じた。そして、お母さんは遂に見付けたんだ。自分がもっとも満足する愛の形を──」

 イザヤが両目を覆い、深い吐息をこぼした。緩んだ涙腺から、涙がまた滲んできそうで、イザヤは必死で唇を噛み締め、こらえた。

 10年経っても変わらず憎んでいてくれた、と喜ぶサラの姿が脳裏を過る。

「あのっ……バカ女!」

 あの時は、頭がイカれてるとしか思えなかった。だが、今ではその姿を思い出すと、胸が痛かった。

『あたしはあんたの言う通り、ずっと前からおかしいのよ!』

『あんたを産んだ時、あたしがいくつだと思ってるのよ!16よ!16!純粋で可憐な美少女だったの』

 どの台詞も悲しみとは無縁そうな態度で言い放っていたが、サラの奥底では、自分と同じように、ひとりで泣いている幼いあいつが居ると思うと、今までの憎しみは一気に霧散していった。

 そして、代わりに訪れたのは──。

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