暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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イザヤside2

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 今度はイザヤが運転席に座り、奴等の居る別荘へと向かった。

 隣では陶也がスマホのアプリを開きながら、奴等の状況を監視していた。

「まだ彼らに動きはないですね。諦めたかな?」

「あいつが俺に殴られて大人しくしてる訳がねぇよ。そのうち動き出すさ」

 逃げる寸前、サラを思いっきり殴ったから、ひょっとしたら、それが結構なダメージなのかもしれない。

 目を覚ましたサラが、今頃どれだけ怒りに震えているか、イザヤは想像した。

 あいつと会った所で話なんて出来ないかもしれないが、試してみたかった。陶也が一緒に居るとなると、余計にあいつがどう出るのかわからない。けれども、それを恐れて何もしないでいるのは嫌だった。

 あいつを変える、突破口はあるのだろうか?

 そう思った瞬間、何故だか次から次に頭の中に湧いて来たものがあった。それは、10年の間、イザヤに送られてきた爺さんからの手紙だった。

 元気にしてるか?から始まり、何事も一人で背負い込むな、と何度も念を押していた。

 あの頃は、「何を言ってるんだ?このうるせえじじいは?」程度にしか思わなかった。しかし、今なら解る。

 一人で問題を背負い込んでいるつもりなんてなかった。ただ、負けたくねぇという思いに縛られていた。それは、自分の弱さを認めたくなかったから、弱さを認めたら悲しみが溢れて、自分が押し潰されそうだったから……。

 憎しみで弱さを塗りつぶした。
 結果、憎しみによって今日まで生かされた。

 何だかんだいって、俺はサラへの愛で生きてきたようなもんだ。

 サラも同じなんだろう。俺がサラに向けて憎しみを燃やせば、あいつにはそれが生きる支えになっていたんだ。そうでなければ、わざわざ日本にまで来て俺を取り戻しにくる訳がない。

 けれども、こんな歪な依存をいつまでも続ける訳にはいかない。この形は周囲を巻き込み皆を不幸にさせていく。

『母親を自分の中だけで殺せ!』と爺さんは言った。

 そうすることで、俺達の歪な依存関係を終わりにさせろと、あの人は言いたかったのだろう。

 今頃になって、あの人の──。

 いや、父親の言葉の重みが響いてきた。


 
 天にまします我らが父よ──。



 そして、今頃になって、イザヤは自然と祈りの言葉を頭の中で唱えていた。

 祈ることに何の意味があるのか、昔のイザヤにはわからなかった。しかし、今なら、この歪な母親との関係を、囚われた心を切り離すのに必要な気がした。

 すると、刑務所に入っている間、父が毎日欠かさず送ってくれた手紙の内容が、芋づる式に脳裏を駆け巡った。


──怒りの元を辿れ、そして、自分の真実を語れるようになれ。

──母親の過失ばかりを見つめるな。恨むことばかりに囚われてはいけない。自分の過失を見つめろ。そして、自分の心を知るんだ。

──自分の心が、自分の生きる世界を作っていく。だから、怒りは捨てておけ。

──怒りはやがて、自分を傷付けてしまうぞ。

──自分を傷付けているものは、自分の中から生まれてくるのだ。お前がその事に気付く事を願う

──この世に絶対などあり得ない。その事をしっかり頭に入れ、自分の行いを見つめ、生きていってほしい。

──お前が兄弟達に与えた、慈しみの心を、誰だろうと与えられる時に与え続けろ。私と同じ失敗はしないでほしい。


 父はずっと、イザヤのために祈ってくれたのだ。イザヤは父親の深い愛情を今更ながらに感じた。

 初めて日本に来て、父であるあの人に会った時。あの人が自分にも前科があると言ったのは、イザヤが犯した罪の一端を背負ってくれていたからではないのか?イザヤの苦しみの元は、自分が撒いた種だと思い、あの人もそれを罪の意識に思って、ずっと苦しんでいたのではないか?
 だから、毎日欠かさず手紙をくれた。

『お前が産まれて来てくれて良かった』

 そう言って、最後にイザヤの右手を握り締めたあの人の温もりを思い出す。

 あの人が死んで、随分経ってしまったが、あの人がいない悲しみを今更ながらに知った。

 
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