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勝負
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何がなんだか分からないうちに雷亜は放課後、フィールドの上に立たされていた。
その正面に立つのは黒光りした前髪が隆々と盛り上るジョージ・ヤングとその取り巻き。
対する雷亜の両サイドに居るのは宇辰と仏頂面の達也だった。
達也が何故、雷亜側に居るのかというと、シャノンが同じ日本人のよしみで味方についてやらないか、と達也に言ったからだ。
雷亜としては達也が何と言うのか、戦々恐々とした面持ちでシャノンとのやり取りを聞いていたが、周囲に良い顔をしていたい達也は笑顔で「いいよ」と答えた。
さぞかし不本意な返事をしたんだろう。時折、達也と目が合うと物凄い形相でこっちを見ている。
この分だときっと家に帰ったあと、散々嫌味を言われそうだ。
雷亜がうんざりと溜め息を付いた丁度その時、シャノンがアメフトボールを持って中央に立った。
「では、この勝負のルールを説明しようか」
勝負という単語を聞いただけで、雷亜の身が縮み上がる。
そもそも勝負っていうのは一体なんなんだ?
誰のために、何のためにするのか?
この勝負にしたって、勝てばジョージや達也が気に食わないだろうし、負けたら負けたで宇辰やシャノンが納得しないだろう。
勝負とは、大抵、片方が喜び、片方が悔しがる。
どちらも円満な気分の名勝負なんて滅多にないんだから、最初からやらない方がいい。もう正直この世界からはすっぱり足を洗いたかった。
雷亜はうんざりしながら正面に立つジョージに視線を移した。
自信満々の笑みを唇に称え、いつの間にか集まってきた野次馬たちの声援に答えている。
もしも、この勝負でジョージに勝ってしまったら、ジョージだけでなく、この声援を送る人たちからも物凄く恨まれそうで雷亜は身震いした。
(みんなの期待通りに雷亜が負ければ──。そうすればきっと何も問題はない。
──この勝負、絶対に負けよう!)
そう雷亜が心の中で誓った時、シャノンに突然腕を引かれ、周りに聞こえないよう耳元で囁かれた。
『──いいか。間違っても対人関係を意識して勝敗をコントロールするなよ』
雷亜は勢いよくシャノンを振り仰いだ。
紫の瞳は全てを見透かし、雷亜を睨み付ける。
「あの……でも……」
「所詮、ゲームだ。心配せずとも勝て」
雷亜の頭を軽く叩いて、シャノンはそのままゲームの説明に入った。
勝負は3対3で先に点数を10点取った方が勝ち。ロングパスは禁止で、ただひたすらランだけで点数を入れる。タックルされたり、ボールを落とした時点で攻守は交代する。
それを聞いて雷亜は身体を強張らせた。
ロングパスが禁止だというのなら、まさにそれはフィールドの格闘技。走り抜けようとする者を力ずくで潰すということだ。
雷亜は自分がサバンナに住むインパラになった気分で身震いした。
だが、よくよく考えてみたらインパラ方がまだましだった。
動物の世界は逃げ切れば助かるのだ。しかし、残念ながら雷亜達は人間。人間にはプライドがある。そのプライドをへし折られた人間は恐ろしい執着で相手を恨む事がある。
雷亜はそれが何よりも恐ろしい。
人間の場合、そのプライドのせいで命を落とす場合もあるのだ。
最後の勝負に負けた父の後ろ姿が脳裏を過り雷亜は不安になった。
「では、どちらが先行になるか、コインを投げるぞ。表だったら、ジョージが先行。裏だったら雷亜だ」
シャノンが親指でコインを天高く弾いた。そして、右の手の甲でキャッチし、コインを確認する。
「裏だ。雷亜が先行」
雷亜は身を固めた。
これでいよいよ逃げたくても逃げられない勝負が始まる。
その正面に立つのは黒光りした前髪が隆々と盛り上るジョージ・ヤングとその取り巻き。
対する雷亜の両サイドに居るのは宇辰と仏頂面の達也だった。
達也が何故、雷亜側に居るのかというと、シャノンが同じ日本人のよしみで味方についてやらないか、と達也に言ったからだ。
雷亜としては達也が何と言うのか、戦々恐々とした面持ちでシャノンとのやり取りを聞いていたが、周囲に良い顔をしていたい達也は笑顔で「いいよ」と答えた。
さぞかし不本意な返事をしたんだろう。時折、達也と目が合うと物凄い形相でこっちを見ている。
この分だときっと家に帰ったあと、散々嫌味を言われそうだ。
雷亜がうんざりと溜め息を付いた丁度その時、シャノンがアメフトボールを持って中央に立った。
「では、この勝負のルールを説明しようか」
勝負という単語を聞いただけで、雷亜の身が縮み上がる。
そもそも勝負っていうのは一体なんなんだ?
誰のために、何のためにするのか?
この勝負にしたって、勝てばジョージや達也が気に食わないだろうし、負けたら負けたで宇辰やシャノンが納得しないだろう。
勝負とは、大抵、片方が喜び、片方が悔しがる。
どちらも円満な気分の名勝負なんて滅多にないんだから、最初からやらない方がいい。もう正直この世界からはすっぱり足を洗いたかった。
雷亜はうんざりしながら正面に立つジョージに視線を移した。
自信満々の笑みを唇に称え、いつの間にか集まってきた野次馬たちの声援に答えている。
もしも、この勝負でジョージに勝ってしまったら、ジョージだけでなく、この声援を送る人たちからも物凄く恨まれそうで雷亜は身震いした。
(みんなの期待通りに雷亜が負ければ──。そうすればきっと何も問題はない。
──この勝負、絶対に負けよう!)
そう雷亜が心の中で誓った時、シャノンに突然腕を引かれ、周りに聞こえないよう耳元で囁かれた。
『──いいか。間違っても対人関係を意識して勝敗をコントロールするなよ』
雷亜は勢いよくシャノンを振り仰いだ。
紫の瞳は全てを見透かし、雷亜を睨み付ける。
「あの……でも……」
「所詮、ゲームだ。心配せずとも勝て」
雷亜の頭を軽く叩いて、シャノンはそのままゲームの説明に入った。
勝負は3対3で先に点数を10点取った方が勝ち。ロングパスは禁止で、ただひたすらランだけで点数を入れる。タックルされたり、ボールを落とした時点で攻守は交代する。
それを聞いて雷亜は身体を強張らせた。
ロングパスが禁止だというのなら、まさにそれはフィールドの格闘技。走り抜けようとする者を力ずくで潰すということだ。
雷亜は自分がサバンナに住むインパラになった気分で身震いした。
だが、よくよく考えてみたらインパラ方がまだましだった。
動物の世界は逃げ切れば助かるのだ。しかし、残念ながら雷亜達は人間。人間にはプライドがある。そのプライドをへし折られた人間は恐ろしい執着で相手を恨む事がある。
雷亜はそれが何よりも恐ろしい。
人間の場合、そのプライドのせいで命を落とす場合もあるのだ。
最後の勝負に負けた父の後ろ姿が脳裏を過り雷亜は不安になった。
「では、どちらが先行になるか、コインを投げるぞ。表だったら、ジョージが先行。裏だったら雷亜だ」
シャノンが親指でコインを天高く弾いた。そして、右の手の甲でキャッチし、コインを確認する。
「裏だ。雷亜が先行」
雷亜は身を固めた。
これでいよいよ逃げたくても逃げられない勝負が始まる。
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