異世界で婚約破棄されましたが隣国の獣人殿下に溺愛されました~もふもふ殿下と幸せ子育てパラダイス~

mochizuki_akio

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8.初夜

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 気疲れする宮殿を後にし、マルベーはティメオの領地に移動した。城の使用人達に出迎えられて、私室に案内されるまで、マルベーは車内で船を漕いでいた。移動はいつだって疲れる。目を擦りながら、部屋を案内された。壁にはコンラディン家の先祖なのか、肖像画などがかけられており、いたってふつーの部屋だった。

「~~~~っかれた!」

 女中がいなくなった途端、マルベーはベッドに倒れ込む。天蓋付きのベッドも、垂れ下がったレース模様などを見ると、流行が一昔前。家具などもよく見ると、古めかしいものばかりだった。ティメオはきっと懐古主義なのだな、と納得した。

「ど~ぞ~」

 ノックして入ってきたのは、ラファイエットだった。「お疲れ」と声をかけられ、ガバリと頭を起こす。

「まーじで疲れた」
「まだ残ってるぞ……夜」

 ぼそっと付け加えられた単語に、再び顔を枕に埋める。

「面倒くさい……来ないっしょ」
「なんで」
「ん~~、なんとなく」

(なんとなくだけど、来ない気がする。なんか女っ気無い感じだったし、多分だけど童貞だから日和って来ない気がする)

 最低限、王族としてのマナーなどは学んでいるらしいが、夜伽とか受けていないのだろう。今ならあの無骨な手紙の返信も納得できる。

「なんとなくってなぁ……ティメオ殿下の機嫌取るんじゃないのか」
「わぁかってるよ~……で、お前は聞いといてくれたの?」

 マルベーがノルマ(結婚式)を済ませている間、ラファイエットには聞き込みをお願いしていた。
 忠実な騎士は、卓上にいくつか新聞を並べる。どれも醜聞(ゴシップ)記事だった。無料で読めるウェブの週刊記事が好きだった前世時代。変わらずマルベーはちょっと元気になって、手に取った。

「あー……現お后様が、実の息子である弟殿下を推薦されているのは事実らしい。弟のユーグ殿下は慈善事業などに熱心だけど――」
「民は兄のティメオ殿下に同情的なのかー」

 いくつか記事を読んでいくと、陛下の前妻であるティメオの母親について、『疑惑の死』などと書かれていた。
 貧窮に陥っていたアルテナードを立て直したのが、当時財務大臣であった現宰相。辣腕を認められ宰相になるが、その頃から陛下の腹心として、親密な関係になる。
 ちょうどその頃、ティメオの母親の実家は汚職などが発覚し、お取り潰し。后も関与の疑いがあると、幽倫塔に軟禁される――

(幽倫塔って、王族用の刑務所じゃん……)

「腹黒い宰相が娘を后にするため、ティメオ殿下の母親を嵌めた?」
「と、一般的には信じられていて、何かと北の国境にやられるティメオ殿下に同情的。いまいちユーグ殿下は人気が無い」
「母親に言われてやってんだろ? そりゃ~(人気)でないよなぁ」

 幽倫塔に軟禁されたお后様は心労がたたって病死、と締め括られている。宰相が派手に動きすぎたのか、ここまで一般記事に浸透していれば、名誉を挽回するのも難しいだろう。やはり隣国では、手に入る情報に限りがある。オルデム国にいた時は、ティメオの悪い噂しか入ってこなかった。
 それがアルテナードに入国して意外だったのが、ティメオの人気が高かったことだ。

「ティメオ殿下自身、国王になろうと野心は無いらしい。だから弟殿下よりも質素な式になさったのだろう」
「うーん……国民は納得するんかね」

(でも結局ティメオは宮殿を粛正して、自分が国王になる。多分、何かきっかけがあるはずなんだけど……)

 ここまでティメオと神子が出会う過去編になるので、詳しく語られていない。ナレーションにも無かった。
 悪妻の死から怒濤の血祭りが起き、狂ったように隣国へ侵略するようになるまで――

「じゃ~、良妻賢母作戦で!」
「は?」
「これだこれだ、これで死亡フラグ回避よっ!」

 どんな悪妻だったか知らない(キセハナで語られてないので)が、とにかく反対のことをすれば良いのだ。

「俺は夫に尽くすよ、これで俺たち死なずに済むからな!」
「……ぉ、おう」

 困惑する騎士を置いて、新聞を片付ける。今日来ないかもしれないが、もしかしたら来るかもしれない。
「今晩、俺はたっぷり奉仕するから。奉仕して奉仕して、殿下を俺の絶技でイかせてやるよん」
「……できたら兄弟のシモの話は聞きたくない」
「じゃ、さっさとお前は寝ろ!  おやすみ、ラフィー!」

 兄弟と挨拶をして、浴槽に向かった。
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