8 / 47
8.初夜
しおりを挟む気疲れする宮殿を後にし、マルベーはティメオの領地に移動した。城の使用人達に出迎えられて、私室に案内されるまで、マルベーは車内で船を漕いでいた。移動はいつだって疲れる。目を擦りながら、部屋を案内された。壁にはコンラディン家の先祖なのか、肖像画などがかけられており、いたってふつーの部屋だった。
「~~~~っかれた!」
女中がいなくなった途端、マルベーはベッドに倒れ込む。天蓋付きのベッドも、垂れ下がったレース模様などを見ると、流行が一昔前。家具などもよく見ると、古めかしいものばかりだった。ティメオはきっと懐古主義なのだな、と納得した。
「ど~ぞ~」
ノックして入ってきたのは、ラファイエットだった。「お疲れ」と声をかけられ、ガバリと頭を起こす。
「まーじで疲れた」
「まだ残ってるぞ……夜」
ぼそっと付け加えられた単語に、再び顔を枕に埋める。
「面倒くさい……来ないっしょ」
「なんで」
「ん~~、なんとなく」
(なんとなくだけど、来ない気がする。なんか女っ気無い感じだったし、多分だけど童貞だから日和って来ない気がする)
最低限、王族としてのマナーなどは学んでいるらしいが、夜伽とか受けていないのだろう。今ならあの無骨な手紙の返信も納得できる。
「なんとなくってなぁ……ティメオ殿下の機嫌取るんじゃないのか」
「わぁかってるよ~……で、お前は聞いといてくれたの?」
マルベーがノルマ(結婚式)を済ませている間、ラファイエットには聞き込みをお願いしていた。
忠実な騎士は、卓上にいくつか新聞を並べる。どれも醜聞(ゴシップ)記事だった。無料で読めるウェブの週刊記事が好きだった前世時代。変わらずマルベーはちょっと元気になって、手に取った。
「あー……現お后様が、実の息子である弟殿下を推薦されているのは事実らしい。弟のユーグ殿下は慈善事業などに熱心だけど――」
「民は兄のティメオ殿下に同情的なのかー」
いくつか記事を読んでいくと、陛下の前妻であるティメオの母親について、『疑惑の死』などと書かれていた。
貧窮に陥っていたアルテナードを立て直したのが、当時財務大臣であった現宰相。辣腕を認められ宰相になるが、その頃から陛下の腹心として、親密な関係になる。
ちょうどその頃、ティメオの母親の実家は汚職などが発覚し、お取り潰し。后も関与の疑いがあると、幽倫塔に軟禁される――
(幽倫塔って、王族用の刑務所じゃん……)
「腹黒い宰相が娘を后にするため、ティメオ殿下の母親を嵌めた?」
「と、一般的には信じられていて、何かと北の国境にやられるティメオ殿下に同情的。いまいちユーグ殿下は人気が無い」
「母親に言われてやってんだろ? そりゃ~(人気)でないよなぁ」
幽倫塔に軟禁されたお后様は心労がたたって病死、と締め括られている。宰相が派手に動きすぎたのか、ここまで一般記事に浸透していれば、名誉を挽回するのも難しいだろう。やはり隣国では、手に入る情報に限りがある。オルデム国にいた時は、ティメオの悪い噂しか入ってこなかった。
それがアルテナードに入国して意外だったのが、ティメオの人気が高かったことだ。
「ティメオ殿下自身、国王になろうと野心は無いらしい。だから弟殿下よりも質素な式になさったのだろう」
「うーん……国民は納得するんかね」
(でも結局ティメオは宮殿を粛正して、自分が国王になる。多分、何かきっかけがあるはずなんだけど……)
ここまでティメオと神子が出会う過去編になるので、詳しく語られていない。ナレーションにも無かった。
悪妻の死から怒濤の血祭りが起き、狂ったように隣国へ侵略するようになるまで――
「じゃ~、良妻賢母作戦で!」
「は?」
「これだこれだ、これで死亡フラグ回避よっ!」
どんな悪妻だったか知らない(キセハナで語られてないので)が、とにかく反対のことをすれば良いのだ。
「俺は夫に尽くすよ、これで俺たち死なずに済むからな!」
「……ぉ、おう」
困惑する騎士を置いて、新聞を片付ける。今日来ないかもしれないが、もしかしたら来るかもしれない。
「今晩、俺はたっぷり奉仕するから。奉仕して奉仕して、殿下を俺の絶技でイかせてやるよん」
「……できたら兄弟のシモの話は聞きたくない」
「じゃ、さっさとお前は寝ろ! おやすみ、ラフィー!」
兄弟と挨拶をして、浴槽に向かった。
23
あなたにおすすめの小説
転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される
こたま
BL
北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜
れると
BL
【第3部完結!】
第4部誠意執筆中。平日なるべく毎日更新を目標にしてますが、戦闘シーンとか魔物シーンとかかなり四苦八苦してますのでぶっちゃけ不定期更新です!いつも読みに来てくださってありがとうございます!いいね、エール励みになります!
↓↓あらすじ(?)
僕はツミという種族の立派な猛禽類だ!世界一小さくたって猛禽類なんだ!
僕にあの婚約者は勿体ないって?消えてしまえだって?いいよ、消えてあげる。だって僕の夢は冒険者なんだから!
家には兄上が居るから跡継ぎは問題ないし、母様のお腹の中には双子の赤ちゃんだって居るんだ。僕が居なくなっても問題無いはず、きっと大丈夫。
1人でだって立派に冒険者やってみせる!
父上、母上、兄上、これから産まれてくる弟達、それから婚約者様。勝手に居なくなる僕をお許し下さい。僕は家に帰るつもりはございません。
立派な冒険者になってみせます!
第1部 完結!兄や婚約者から見たエイル
第2部エイルが冒険者になるまで①
第3部エイルが冒険者になるまで②
第4部エイル、旅をする!
第5部隠れタイトル パンイチで戦う元子爵令息(までいけるかな?)
・
・
・
の予定です。
不定期更新になります、すみません。
家庭の都合上で土日祝日は更新できません。
※BLシーンは物語の大分後です。タイトル後に※を付ける予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる