14 / 47
13.気持ちの変化
しおりを挟むティメオとぐっすり眠った夜、マルべーは爽快な朝を迎えた。相変わらず一線を越えられていないが、なんとなくティメオの不器用な愛情は伝わっていた。
「でもこのままじゃな~」
「なにが」
朝食を食べて、ラファイエットとぷらぷら庭を散歩した。
「童貞だから、守りが固すぎるんだよ」
「……それはお前が、どうにかするべきだろ」
「うーん……」
何百坪あるのか分からない壮大な庭は、常に数百人の使用人達が動き回る。今日はあまり人気の無い、畑などが作られている裏庭を歩いていた。
「俺さぁ、モテなかったじゃん。相手いつも玄人だったから、こんな時どうすればいいのか、分かんないんだよね」
隣を歩く騎士が、ため息をついた。マルべーと違って、普通の恋愛経験を済ませてきたラファイエットに、助言を仰いだ。
「素人で童貞だろ。どうしよ~」
「でもそこそこ上手くいってるんだろ」
聞くと城ではティメオとマルベーの、夫夫仲が噂になっているらしい。ティメオ殿下の雰囲気が最近柔らかくなった、仲睦まじい様子。子どもももうすぐできるんじゃないか……
「いや、全然そんな気配ないよ」
(ストーリー展開でも、死んだ悪妻との間に子どもがいたとか、ナレーションも無かったし)
「じゃあ、そこはどうにかしないとな」
「もう発情期の時、こっちから押し倒すかぁ」
(あの堅物王子も、フェロモンでイチコロだな)
ティメオが気に入っていた、あの半透け寝間着を用意しておこう。死亡フラグ回避!と意気込んでいたら、畑に人影があった。
「お、つかれさま―!」
「……奥様」
ラファイエットに足を蹴られたが、無視する。使用人達に、気軽に話しかけるのは、親しみやすさアピールだった。
畑にいたのは料理人長だった。確か勤務年数が長く、マルべーよりも城の内情に詳しい人物だが、わざわざ畑の作物を取る立場ではない。珍しいなと思い「なにしてんの~?」と話しかけた。
「はい、殿下に安眠袋を……作ろうと思いまして、薬草を摘んでおりました」
マルべーは咄嗟に、ラファイエットに目配せをする。料理長の手元を見ると、薬草が集められていた。マルべーは薬草に詳しくない。なんとく、摘まれた葉っぱの形状などを記憶するよう意識した。
「あぁ~。そうだった、そうだった……ティメオ様も大変だったしなぁ……頑張ってね~」
「ありがとうございます」
60過ぎの、白髪交じりの料理長が頭を下げる。畑から数百メートル離れたところで、騎士に話しかけた。
「知ってた? 殿下が不眠症って」
「いや……俺も薬草には詳しくないからなんとも言えないが……料理長はここに勤めて長いだろう。本当の話なんじゃないのか」
「えー……」
(眠れないってあいつが? 俺の部屋ではよく寝てるよ)
「あー、だから目の下のクマ、酷かったのか」
「そう言えば……」
ラファイエットも納得したように頷いた。長年の戦場暮らしから、睡眠不足にでもなっているのかもしれない。
(睡眠は大事だよ。肌の調子も悪くなるし……)
ふと、将来起こる皆殺しと関係が……首を捻った。マルべーと一緒にいるティメオは、身内をぶっ殺すようには見えない。何がきっかけになったのか、決定的な原因を見つけられないでいた。
(まだ皆殺しは起きないけど、多分どっかに原因というか、予兆みたいなのはあると思うんだよなぁ)
最初は自分とラファイエット、それに自国が滅びなければ、他はどうでも良かった。ティメオの頭がおかしくなろうが、それに神子とか言うチート主人公はちょっとぐらい――痛い目にあったら良いのになと、思っていた。
(でも頭がイかれないで済むなら、その方が良いよな)
将来、狂王となる人物を思い浮かべる。昨日も部屋に来たが、相変わらずマルべーとは距離を取ってくる。その癖、尻尾だけは雄弁で、腰に絡みついてきた。
美しい彫像のような顔を真っ赤にして、部屋をうろうろする大男。可愛いなと、胸が疼いた。
(いや、なんで俺がキュンとしてんの)
キュンとさせないといけない。それが将来の死亡フラグ回避のため――また胸が痛んだ。死にたくないのは本当。でももっと、心の底から望んでいるものが、ある気がした。
33
あなたにおすすめの小説
転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される
こたま
BL
北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜
れると
BL
【第3部完結!】
第4部誠意執筆中。平日なるべく毎日更新を目標にしてますが、戦闘シーンとか魔物シーンとかかなり四苦八苦してますのでぶっちゃけ不定期更新です!いつも読みに来てくださってありがとうございます!いいね、エール励みになります!
↓↓あらすじ(?)
僕はツミという種族の立派な猛禽類だ!世界一小さくたって猛禽類なんだ!
僕にあの婚約者は勿体ないって?消えてしまえだって?いいよ、消えてあげる。だって僕の夢は冒険者なんだから!
家には兄上が居るから跡継ぎは問題ないし、母様のお腹の中には双子の赤ちゃんだって居るんだ。僕が居なくなっても問題無いはず、きっと大丈夫。
1人でだって立派に冒険者やってみせる!
父上、母上、兄上、これから産まれてくる弟達、それから婚約者様。勝手に居なくなる僕をお許し下さい。僕は家に帰るつもりはございません。
立派な冒険者になってみせます!
第1部 完結!兄や婚約者から見たエイル
第2部エイルが冒険者になるまで①
第3部エイルが冒険者になるまで②
第4部エイル、旅をする!
第5部隠れタイトル パンイチで戦う元子爵令息(までいけるかな?)
・
・
・
の予定です。
不定期更新になります、すみません。
家庭の都合上で土日祝日は更新できません。
※BLシーンは物語の大分後です。タイトル後に※を付ける予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる