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14.肩に小鳥
しおりを挟む「?……ティメオ様は?」
「大変申し訳ありません……まだ、お庭にいらっしゃるようでして……」
昼食は一緒に取ろうと言われて、食堂に来た。壁にずらっと並ぶ使用人達と、マルベー、そして城の主人は……昼食の時間になっても現れなかった。
「うーん……なんか、軽食にしてくれる? 俺が持っていくから、みんなありがとね。持ち場に戻って」
使用人達に声をかけ、バケット片手に庭に出る。薔薇園の近くと言っていた。行くと、薔薇に囲まれた大理石のアーチに、ティメオが腰掛けていた。
(絵になるな~)
色とりどりの薔薇に囲まれた様子は、映画のワンシーンのようだった。冷たい大理石に反射する黄金の髪が美しい。
息が止まるような美貌だった
(おまけに若くてスタイルも良いから、どこからどう見ても百点満点)
「ティメオ様~」
ぶんぶん手を振るが、静かに頷かれた。いつもだったらはにかむような笑顔を見せてくれるのに。今日は神妙な顔をしていた。
(?)
近づいていくと、ティメオの肩に何かが止まっている。藍色の小鳥が二匹――
(わぁ、メルヘン)
「じゃねぇわ、交尾してるじゃん」
マルベーの呟きに動揺したのか、ティメオの目が見開く。大きな肩に止まった小鳥達は、激しく体を揺り動かしていた。
どうやら鳥の交尾で、ティメオは動けなかったらしい。
「こ、いえ、戯れているのですよ」
「交尾じゃん。激しいな」
カクカクと一方が乗り上げて、腰を振っている。下になった鳥もゆさゆさと揺れていた。ティメオの顔がまた赤くなってしまった。
(王子様の肩に乗って交尾か~。鳥は良いな~)
「俺も子どもが欲しいな~」
「え?!?!!」
マルべーのジャブに、ティメオが激しく動揺した。肩が大きく動いて、鳥達がずり落ちてしまった。
「ぁ……」
ティメオは慌てて鳥を掬い上げたが、遅かった。盛り上がり真っ只中で、中断されたのだ。乗られていた方は興がそがれたのか、飛び立ってしまった。
「隣に座っても?」
「……どうぞ……」
消え入りそうな声だったが、ティメオはマルべーを拒絶しない。太ももで拳を作った手を、ぎゅっと握った。
「ティメオ様~、昼食持ってきましたよ!」
「ありがとう……」
「ティメオ様、子どもってどうやってできるか知ってます?」
馬鹿にしたのではない。本気で聞いた。美男子の顔が、ますます赤くなった。
「な、わ、わかって、分かっておりますっ!」
「そうですかぁ」
握った手が熱い。ごつごつとしていて、骨張っていた。マルべーの倍はある手を握り、そっと指を絡ませた。
(熱いなぁ……)
手が異様に熱い。指が絡むと、腰にも尻尾が巻き付いてきた。ぎゅっと腰を抱かれて、マルべーは追及した。
「殿下は? 子ども欲しくないですか?」
「……子ができれば、王位継承権などで」
「いや、違いますよ。あんなのは関係無く、俺との子は欲しくないですか……嫌い?」
ティメオと目を合わせる。きらきらした瞳が反射して、マルべーの姿が映し出された。顔色を見ると、目の下のクマもだいぶ薄くなっていて、目立たなくなっていた。
「……欲しい」
小さな声。視線に耐えきれなかったのか、囁くような声だった。マルベーはその返事だけで――胸がいっぱいになった。
「じゃ、まずはキスしましょう……ほら、鳥もやってるし」
「……」
先ほどの小鳥達が、嘴でお互いをついばむように戯れていた。一回失敗したのに、再チャレンジ。マルべーは鳥の情熱を見習おうと決めた。
「でん……ティメオ」
「……はい」
高い頬骨に触れる。柔らかくて、手と同じくらい熱かった。頬に手を沿い、側頭部にまで手を伸ばす。
(頭蓋骨の形も良いな)
美形は骨まで整っている。もしかしたら細胞レベルまで美しいかもしれない。マルベーは硬直した体をそっと押した。
「キスしたいです……良いですか?」
「……はい」
額を合わせて、鼻先がちょんと当たる。ティメオは唇を押し当てた。
(すげー柔らかい)
整いすぎて、硬質な印象のある美貌だった。吐息が混じり合ったところで、ティメオの欲を、マルべーは感じ取った。
「……っ」
ふにふにした唇を舐める。驚いたのか、ぎゅっと固く結んだ唇がちょっと開いた。すかさず舌を入れると、キスが深くなった。
「っ……ま、マル、」
「ん……っ」
両頬をがっちり掴む。ティメオは息継ぎが上手くないのか、苦しそうな顔をしていた――口内で、積極的に舌を絡ませてきた。
「っ……ぅん」
柔らかい。濡れた舌先で絡めるようにすると、ティメオの体に震えが走る。力強く、背中に腕を回された。
「ぉわっ……ティ、メオッ」
大きな手が、マルベーの後頭部を支える。視界が反転して、気がついた時には大理石に押し倒されていた。
「マルベー様っ」
見上げると、透き通るような瞳があった。綺麗だなと――瞳孔が開いて、異様な光がある。今までの娼婦(夫)達とは違う、情欲の滲んだ目だった。
ティメオの荒ぶった気配を感じて、マルベーは腰が引けた。落ち着かせようと、肩を軽く押し返したら――きつく抱きしめられていた。
「っ……」
勢いよくキスをされて、歯が当たる。マルベーは痛みを堪えた。唇を貪る王子は無我夢中で、気がついていない。分厚い舌が、マルベーの口内で暴れていた。
「ふ、んぅ……」
水音が響く頃、ティメオはますます腕に力を込めた。マルべーを押し倒して、のしかかるようになっていた。腕の中に拘束された妻は、閉じ込めるような、その力強さが心地良かった。
マルベーは美しい髪をくしゃくしゃにしながら、何度も口づけていた。
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