19 / 47
18.招待
しおりを挟む「……マルー?」
「!!……はーい♡ちょっと待ってぇ」
大急ぎでゴシップ誌をキャビネに突っ込む。閉めようとしたら、何か引っかかって閉じない。
醜聞紙なんて、ティメオが見たらなんて言うだろう。俗世と無縁そうな雰囲気が漂う男から隠したかった。
(あ、これ……)
図書室から借りてきた、薬草学の本だった。侍女を使いに出さず、マルベー自身が借りたものだった。新聞を綺麗にたたんで、キャビネを閉じた。
「いらっしゃーい」
ドアを開けると、制服姿のティメオだった。うっきうきで抱きつくと、すぐにキスをされた。立派な体躯に、しなだれかかるよう甘える。ティメオは嬉しそうに、マルベーを抱き抱えた。
「ベッドまで連れてって♡」
「……まだ、日が高いですから」
「じゃー、昼寝。昼寝しようー?」
頬を擦り合わせて、額にキスをする。ティメオは照れながら、ベッドまで運んでくれた。寝具に降ろされるのかと思ったら、そのまま膝に乗る形になった。
至近距離で見つめ合う。どちらからともなく、キスをしていた。庭にいた小鳥みたいに、じゃれ合うようなキスを続ける。
べたべたして、やっと気が済んだところで「実は……」とティメオが切り出した。
「どうしたー?こんな時間に珍しいじゃん」
「舞踏会の誘いがありまして」
(げぇっ! 最悪!)
「行く行くー♡」
笑顔で即答する。ティメオはほっとしたように、微笑んだ。
「ありがとうございます。再来月、王都で行われるものでして……隣国の要人も出席されるということで、私達も出席を求められました」
日にちを聞くと、ちょうど発情期には被っていない。しょうがないので、笑顔で頷いた。
「楽しみだなー。舞踏会―。正装はティメオとお揃いにしたいな♡ 宝石の色、一緒にしたい♡」
「良いですね」
「やったー」
長くてしっかりした首に巻き付いて、鎖骨辺りにキスをした。時々動く喉仏とか、血管の見える太い腕。全てが理想的で、どこか野性味まである。
(最高~。あとはやらせてくれたら完璧~)
喉仏にキスをすると、肩が揺れた。
「大好き♡」
「……」
静かになったので、顔を上げる。気遣うような表情に「どした?」と聞いた。
(やりたくなったとか?)
まだ日は高いが、いける気がする。制服がぱっつんぱっつんの股間に手を伸ばした。
「なんか体が熱く――」
「ラファイエット殿もいらっしゃらないので……不安になられてはいないか、心配でした」
「え、全然」
(神子がいないのは気になるけど……)
手を止めた。さりげなく背中を撫でて、首筋の匂いを嗅ぐ。清潔で清楚な感じがする匂いを思いっきり吸い込んだ。
ティメオを見ると、心配だと言いながら、彼の方が不安げな顔をしていた。
「ラフィーはちょっと頼みごとしててさ……騎士として優秀だって分かるだろ? 心配ないよ」
「……そうですね」
(なんだ? なんだ?……あ!)
マルベーは体を支える尻尾に触れる。不安そうに垂れているのを、元気付けようとキスをした。フワフワしていて気持ちが良い。
頬に押しつけながら「大丈夫だよー」と、笑った。
「なにも心配しなくていーよ。うざい継母と父親なんて、気にしなくて良いから」
「……」
「貴方は周囲に認められてる。堂々としていれば良い」
「……私は良いのです……もう今更何を言われても……貴方に何か言ってくるのではと……」
「俺が何か言われて気にするように見えるの?」
(気にしてたら娼館遊びもやってないし、ギャンブルもやってない。散財もしない、真面目で誠実な息子になってるよ)
さきほど読んでいたゴシップ誌を思い出し、マルベーは噴き出した。だけどティメオは沈んだままだった。こうやって離れていても、ティメオは親の呪縛から逃れられない。幼い頃から宮殿で虐げられてきたトラウマだろう。
元気付けるように肩を叩いたが、夫の表情は暗いままだった。本当に舞踏会に行きたくないのは、こちらの方だったのだ。
(俺と家族になったのに、どうして親のことなんか気にすんだろ)
マルベーは子を粗末に扱う人間が分からない。だからティメオの痛みにはどこまでも鈍感で――それが救いになっていた。
「ティメオ」
「……はい」
「何か言われたら、俺に言えよ。俺が(虚言で)貴方を守ってやるから」
抱きしめて、キスをした。頬を重ねると、ぐっと抱きしめられて、腕の力に息苦しくなる。
「苦しいって」
「っ……」
腕の力はますます強くなる。頬が濡れていたが、マルベーは気にしなかった。
23
あなたにおすすめの小説
転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される
こたま
BL
北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜
れると
BL
【第3部完結!】
第4部誠意執筆中。平日なるべく毎日更新を目標にしてますが、戦闘シーンとか魔物シーンとかかなり四苦八苦してますのでぶっちゃけ不定期更新です!いつも読みに来てくださってありがとうございます!いいね、エール励みになります!
↓↓あらすじ(?)
僕はツミという種族の立派な猛禽類だ!世界一小さくたって猛禽類なんだ!
僕にあの婚約者は勿体ないって?消えてしまえだって?いいよ、消えてあげる。だって僕の夢は冒険者なんだから!
家には兄上が居るから跡継ぎは問題ないし、母様のお腹の中には双子の赤ちゃんだって居るんだ。僕が居なくなっても問題無いはず、きっと大丈夫。
1人でだって立派に冒険者やってみせる!
父上、母上、兄上、これから産まれてくる弟達、それから婚約者様。勝手に居なくなる僕をお許し下さい。僕は家に帰るつもりはございません。
立派な冒険者になってみせます!
第1部 完結!兄や婚約者から見たエイル
第2部エイルが冒険者になるまで①
第3部エイルが冒険者になるまで②
第4部エイル、旅をする!
第5部隠れタイトル パンイチで戦う元子爵令息(までいけるかな?)
・
・
・
の予定です。
不定期更新になります、すみません。
家庭の都合上で土日祝日は更新できません。
※BLシーンは物語の大分後です。タイトル後に※を付ける予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる