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39.子育て編1
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~ティメオが陛下になって数年後~
「ルイーズ!」
ぽかぽかと天気の良い昼下がり、石造りの殿堂に腰掛けていたマルベーは、顔を上げた。庭を見ると、走り回るルイーズをティメオが追いかけていた。
「待ちなさいっ! そんなに走ったら転んでしまうよっ!」
「だいじょーぶ!!」
子ども用のドレスをたくし上げて走るルイーズは逞しい。オロオロと後ろを走る父親を面白がっているようだった。
「おー、元気元気」
マルベーも思わず笑い声を上げると、腕の中から小さな泣き声がした。さっき眠ったばかりのリュカ――生まれたばかりの長男が、顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
「あー、ごめんごめん、起きちゃったね~」
笑いながらあやしていると、庭から悲鳴が上がる。ティメオの声だった。
「ルイ! 怪我は?!」
ルイーズが芝生の上で転んでいた。従者や侍女達も駆け寄るが――マルベーは長女の性格を理解していた。
リュカを抱いて、庭に出る。お転婆でティメオの容姿そっくりな娘が、がばりと顔を上げた。
「おかーさまっ!!」
「小さなお姫様、怪我はないですか~?」
「怪我してない! 元気っ!」
ケラケラと笑いながら、マルベーに突進するように抱きついてくる。足下にぎゅっとしがみついた娘は、目を輝かせていた。
「ねぇ! あのね! さっきね! 見てた? かけっこをね! おとーさまとかけっこしてたの! おとーさま、ルイに追いつけないの!」
「うんうん、見てたよ~。凄いねぇ」
「あとね、さっきね、じじょたちとね」
(ルイーズはティメオと俺の良いとこどりだな~)
三歳になった長女は、ティメオの容姿そっくりの金髪が美しい、饒舌な姫に育っていた。よく動き、よく喋る。母親とお喋りができない時など、そこら辺を歩く侍女を捕まえて、お喋りをしていた。
「マー……」
「ありがとう。リュカ~、パパですよ~」
げっそりと精神的に消耗した様子のティメオがやってくる。マルベーがリュカを任せると、そっと慎重に赤子を腕に抱いた。
ちっともじっとしていない娘を、マルベーは長所だと捉えているが、ティメオは心配が尽きないらしい。家族団らんの時間、ティメオはずっと子ども達を心配そうに見つめている。
「……おとうさん、ですよ」
腕の中にすっぽり収まる赤子に、ティメオが目を細める。ルイーズの時と同じく、ティメオはリュカが生まれた時も号泣しながら小さいと繰り返していた。
「いいな~! ルイにもリュカを抱かせてください! おとーさま!」
「……ル、ルイっ、今ね、リュカは眠ろうとしているからね……」
やんわりと断られてふくれっ面をする娘を、マルベーが抱き上げる。途端に機嫌がよくなったのか、嬉しそうに頬を擦りつけられた。
子どもは体温が高い。走り回って、前髪が汗で張り付いていた。
「可愛いお姫様」
ティメオと同じ色の髪を指で梳くと、ルイーズがお返しのように、頬にキスをした。
リュカを乳母に預け、ルイーズが眠ると夫夫の時間になった。二人で寝台に寝そべると、いつものようにティメオが腕枕をする。太く、血管の浮いた腕に頭を預けて、マルベーは本を読んでいた。
「今日もルイは元気だったな~。活発だし社交性もある。最高だね~」
「……心配です。向こう見ずなところがあります……」
「そこは授業とかでさ、なんとなく落ち着いてくるよ」
(ルイーズは子どもの頃の俺そっくりだからな~)
花瓶を割ったとか、家庭教師の授業中に窓をぼんやり見てるとか、報告があるたびに娘が可愛くなる。
(子どもの頃なんて、元気だったらそれで良いよ)
「ですが……最近は馬に乗りたいなどと言い始めているのです……心配です」
「あ~……」
ティメオは先が思いやられる……といった表情だった。初めて生まれた娘が可愛くてしょうがないのだろう。ぎゅっと眉根を寄せて、苦悩していた。
(ルイーズが馬に乗りたい理由なんて)
「お父様が馬に乗るお姿を見て、憧れてるんだよ~」
「え……」
知らなかったらしい。目を丸くするティメオにキスをすると、耳たぶを弄られる。二人でベタベタしながら、肖像画を見つめていた娘を思い出して、顔がにやけた。
「旦那様が馬に乗ってる肖像画、食堂に飾ってるでしょ? ルイはいつもあれみて、馬に乗りたくなってるんだよ」
「……」
ぽっとティメオの頬が赤くなる。嬉しさと娘を心配する表情が混じり、なんとも複雑な顔になっていた。
「ルイは……そうだったのですね……でも私も馬に乗ったのは騎士団で十を過ぎた頃でした。もうちょっと大きくならないと」
「その時教えてあげてね♡ パパ♡」
本を放り投げ、どちらからともなく足を絡ませる。髪を梳いたり、耳を弄ったりすると、ティメオが顔中にキスをする。
子どもも出来て、以前とは違う落ち着いた時間だった。
「旦那様は接吻が好きだね」
「……違います。貴方にするのが、好きなのです」
「ふふ」
(あ~、三人は子ども欲しいなぁ)
リュカが少し、手が離れてきたら三人目を作りたい。マルベーも末っ子で、家族に愛されてきた。ルイーズやリュカと変わらず可愛い子が生まれ来るだろう。
夜もふける中、二人は穏やかな時間を過ごしていた。
「ルイーズ!」
ぽかぽかと天気の良い昼下がり、石造りの殿堂に腰掛けていたマルベーは、顔を上げた。庭を見ると、走り回るルイーズをティメオが追いかけていた。
「待ちなさいっ! そんなに走ったら転んでしまうよっ!」
「だいじょーぶ!!」
子ども用のドレスをたくし上げて走るルイーズは逞しい。オロオロと後ろを走る父親を面白がっているようだった。
「おー、元気元気」
マルベーも思わず笑い声を上げると、腕の中から小さな泣き声がした。さっき眠ったばかりのリュカ――生まれたばかりの長男が、顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
「あー、ごめんごめん、起きちゃったね~」
笑いながらあやしていると、庭から悲鳴が上がる。ティメオの声だった。
「ルイ! 怪我は?!」
ルイーズが芝生の上で転んでいた。従者や侍女達も駆け寄るが――マルベーは長女の性格を理解していた。
リュカを抱いて、庭に出る。お転婆でティメオの容姿そっくりな娘が、がばりと顔を上げた。
「おかーさまっ!!」
「小さなお姫様、怪我はないですか~?」
「怪我してない! 元気っ!」
ケラケラと笑いながら、マルベーに突進するように抱きついてくる。足下にぎゅっとしがみついた娘は、目を輝かせていた。
「ねぇ! あのね! さっきね! 見てた? かけっこをね! おとーさまとかけっこしてたの! おとーさま、ルイに追いつけないの!」
「うんうん、見てたよ~。凄いねぇ」
「あとね、さっきね、じじょたちとね」
(ルイーズはティメオと俺の良いとこどりだな~)
三歳になった長女は、ティメオの容姿そっくりの金髪が美しい、饒舌な姫に育っていた。よく動き、よく喋る。母親とお喋りができない時など、そこら辺を歩く侍女を捕まえて、お喋りをしていた。
「マー……」
「ありがとう。リュカ~、パパですよ~」
げっそりと精神的に消耗した様子のティメオがやってくる。マルベーがリュカを任せると、そっと慎重に赤子を腕に抱いた。
ちっともじっとしていない娘を、マルベーは長所だと捉えているが、ティメオは心配が尽きないらしい。家族団らんの時間、ティメオはずっと子ども達を心配そうに見つめている。
「……おとうさん、ですよ」
腕の中にすっぽり収まる赤子に、ティメオが目を細める。ルイーズの時と同じく、ティメオはリュカが生まれた時も号泣しながら小さいと繰り返していた。
「いいな~! ルイにもリュカを抱かせてください! おとーさま!」
「……ル、ルイっ、今ね、リュカは眠ろうとしているからね……」
やんわりと断られてふくれっ面をする娘を、マルベーが抱き上げる。途端に機嫌がよくなったのか、嬉しそうに頬を擦りつけられた。
子どもは体温が高い。走り回って、前髪が汗で張り付いていた。
「可愛いお姫様」
ティメオと同じ色の髪を指で梳くと、ルイーズがお返しのように、頬にキスをした。
リュカを乳母に預け、ルイーズが眠ると夫夫の時間になった。二人で寝台に寝そべると、いつものようにティメオが腕枕をする。太く、血管の浮いた腕に頭を預けて、マルベーは本を読んでいた。
「今日もルイは元気だったな~。活発だし社交性もある。最高だね~」
「……心配です。向こう見ずなところがあります……」
「そこは授業とかでさ、なんとなく落ち着いてくるよ」
(ルイーズは子どもの頃の俺そっくりだからな~)
花瓶を割ったとか、家庭教師の授業中に窓をぼんやり見てるとか、報告があるたびに娘が可愛くなる。
(子どもの頃なんて、元気だったらそれで良いよ)
「ですが……最近は馬に乗りたいなどと言い始めているのです……心配です」
「あ~……」
ティメオは先が思いやられる……といった表情だった。初めて生まれた娘が可愛くてしょうがないのだろう。ぎゅっと眉根を寄せて、苦悩していた。
(ルイーズが馬に乗りたい理由なんて)
「お父様が馬に乗るお姿を見て、憧れてるんだよ~」
「え……」
知らなかったらしい。目を丸くするティメオにキスをすると、耳たぶを弄られる。二人でベタベタしながら、肖像画を見つめていた娘を思い出して、顔がにやけた。
「旦那様が馬に乗ってる肖像画、食堂に飾ってるでしょ? ルイはいつもあれみて、馬に乗りたくなってるんだよ」
「……」
ぽっとティメオの頬が赤くなる。嬉しさと娘を心配する表情が混じり、なんとも複雑な顔になっていた。
「ルイは……そうだったのですね……でも私も馬に乗ったのは騎士団で十を過ぎた頃でした。もうちょっと大きくならないと」
「その時教えてあげてね♡ パパ♡」
本を放り投げ、どちらからともなく足を絡ませる。髪を梳いたり、耳を弄ったりすると、ティメオが顔中にキスをする。
子どもも出来て、以前とは違う落ち着いた時間だった。
「旦那様は接吻が好きだね」
「……違います。貴方にするのが、好きなのです」
「ふふ」
(あ~、三人は子ども欲しいなぁ)
リュカが少し、手が離れてきたら三人目を作りたい。マルベーも末っ子で、家族に愛されてきた。ルイーズやリュカと変わらず可愛い子が生まれ来るだろう。
夜もふける中、二人は穏やかな時間を過ごしていた。
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