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40.子育て編2
しおりを挟むマルベーがいつものように手紙のチェックをしていると、慣れ親しんだ紋章の封蝋を見つけた。
「お、元気にやってんだな~」
送り主はラファイエットだった。両親の手紙は片手で開けながら、文に目を通す。ラーナを連れて、実家に帰ったラファイエットだったが、マルベーの様子も気にかかるのか、オルデム国とアルテナードを行き来していた。
こうやって実家に戻った時は、欠かさず手紙を出すのが習慣化していた。親愛なる兄弟へ と書き出しから、マルベーやティメオ、子ども達を気遣う長々とした文章が終わると「前、聞いてきたことだけど」とあり、マルベーはすぐに何のことか分かった。
(前、ラーナ様のどこ好きになったの? って聞いたんだった)
「おかぁーさま」
「おー、お姫様~」
手紙を読んでいたら、ルイーズが部屋に入ってきた。付き添っていた侍女は頭を下げ、ドアを閉める。マルべーは愛娘を抱き上げると、頬にキスをした。
「授業は何してたの? ルイーズ姫」
「ダンス! 楽しかった!」
「そっかそっか、じゃあ今度おかあさまも見に行くね」
「うん! 」
娘をあやしながら、手紙を読んで行く。どんな風に仲を深めていったのかと気になっていたが、意外なことが書かれていた。
一緒に城を抜け出す時、イタチの姿で抱き上げられて……お前はあんまり分からないと思うけど、獣の姿を見せるのは家族か、よほど親しい間柄だけなんだ。それなのにいきなり、イタチの姿を見せてしまって……あの方が可愛いと……
「へぇ!!」
「? どうしたのー?」
「ああ~、なんでもないよ~。そうそう、ラフィーおじさんとね、じいじとばあばが遊びに来るよ~」
「やったー!」
ラファイエットの手紙を横目に、両親の手紙をざっと読むと、再来月アルテナードに来るそうだ。孫のプレゼントをこれでもかと贈ってくる両親だが、また訪問の時は何台も荷馬車を引き連れてくるだろう。
喜ぶ娘の頭を撫でながら、マルベーは夫のことを考えた。
(俺も抱っこしてみよっかな~)
イタチの姿で抱っこされて、可愛いと言われたから好きになった……あまり納得できなかったが、人を好きになる理由は色々あるのだろう。もしかしたらティメオにも効くかもしれない。
「お外行こっか」
「うん!」
マルベーはルイーズを抱いて、部屋を出た。
「旦那様♡ はい、ここに頭乗せて!」
「どうしたのです……いきなり」
夜、部屋を訪れたティメオに早速、マルベーは自分の膝を叩いた。ソファに座った夫は、困惑しながらも妻の太ももに頭を乗せる。波打つような金髪が広がり、美しかった。
「今日もお仕事お疲れ様~♡」
髪を梳いて、耳を撫でたりキスを繰り返す。ティメオの顔がほころんで、尻尾がマルベーの体に巻き付いた。
(俺じゃティメオを抱っこできないからな~。体格差あるし)
代わりの膝枕だったが、ティメオはいつもと変わらず嬉しそうだった。頭だけでも、とぎゅっと抱き締めると「どうしたの」と楽しそうな声がした。
「ラフィーがさ~」
手紙の話をすると、ティメオは興味深そうな表情をしていた。
「抱き上げられて好意を持ったと」
「他にもあるとは思うけど、それがきっかけみたい。面白いよな~」
「……だから、こうしてるんですか?」
「そうだよ~。俺じゃ旦那様抱っこできないから、頭だけね♡」
頭を撫でると、ティメオの目が輝いていた。どうしたんだろうと頭を傾げると、背中に腕を回される。
「おわっ」
体が反転して、いつの間にかティメオの腕の中に収まっていた。逞しい胸板に頭を預けて見上げる格好になる。夫が微笑んでいた。
「ならば私も、貴方に好きになって欲しいから」
「え~、俺が好きになって欲しいのに」
「もう私は十分です。貴方に好きになって欲しいです」
「俺も十分だよ~」
抱き締められて、髪を梳かれる。夫のような輝きはないが、いつもティメオは褒めてくれる。今日も懲りずに「美しい髪、美しい人」と真顔でマルベーを褒めていた。
ふざけた調子で軽く言ってくれたら良いのに。ティメオはいつだって真剣な顔で「愛しています」とか言ってくるので、こそばゆくなる。
戯れに、口説き文句を言ってきたマルベーには無い、誠実さに溢れていた。耐えきれず、マルベーは顔を埋めた。
「旦那様~、もっと軽く言ってよ」
「軽くとは?」
「今日も可愛いね♡ 最高だよ♡ とかさ」
「今日も貴方は美しいです。可愛らしくて、愛らしい人です。私だけのマー」
「……ふふ」
髪を梳きながら、ティメオがキスの雨を降らせる。キスもセックスも、マルベーが教えてきたことを愚直に取り込んできた年下の夫は、いつだって真剣だった。
嬉しさと恥ずかしさで、マルべーは胸がいっぱいになっていた。
「今日は俺が旦那様に好きになって貰いたかったのにな~」
「私もです。貴方に、私を好きになって欲しい」
「いや、俺の愛を受け取ってよ~」
「私のを受け取ってください」
口を塞がれてしまったので、ふざけることができない。大人しくマルベーも手を伸ばして、金髪に触れる。いつも通りの夜だった。
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