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42.子育て編4

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 両親の馬車が到着して三日後、ラファイエットとラーナが城にやってきた。ルイーズが立って歩けるようになった頃に一度会っているが、記憶がぼんやりしているのか、城にきた男女を珍しそうに見つめていた。

「ほら、ルイ。いつもお手紙をくれるラファイエットおじ様。ラーナ様はおじ様の奥方様だよ」
「……ラフィーおじ様!」

 マルベーの後ろに隠れるようにしていたルイーズが飛び出す。頬が緩みきったラファイエットが、姪っ子同然の姫を抱き上げた。

「ルイーズ様、お元気でしたか?」
「うん、元気!手紙ありがとう!あのね、この前手紙に書いていた~」

 ラファイエットに一生懸命話しかける姫をラーナが目を細めて見つめる。流星のようにきらめく銀髪と紫色の瞳は生き生きとしていた。ユーグに虐げられていた時は頬がこけていたが、今は体全体もふっくらしていた。

(健康的だな~)

 ウエストを絞るようなデザインではなく、ナチュラルなドレスに、マルベーはほっとしていた。ラーナ本来の趣味とか、好みとかが出ている服装が彼女の現状を表している。
 ラーナと目が合い、自然と微笑みあった。

「ルイーズ様はお可愛らしゅうございます」
「あはは、そうなんだよ~。俺と旦那様の良いとこどりなんだよ。ね、ティメオ」
「はい」

 静かに寄り添っていたティメオが恥ずかしそうに微笑む。そんな二人を見て、ラーナは目を輝かせた。

「リュカ様にもお会いできますか?」
「もちろん!今日はゆっくりしていってよ~」

 ルイーズに手を引かれたラファイエット、ラーナ、マルべー夫夫で晩餐を予定していた(マルべー両親は街に出ている)。夕飯の時間まで、ティメオは書斎に籠もり、マルベーはラファイエット夫妻と最近の近況を話し合っていた。

 侍女達が庭にテーブルを用意し、乳母がリュカを連れてくる。ラーナは特に子どもが好きなのか、ラファイエットと共にルイーズの遊び相手になってくれた。
 マルベーは腕の中にリュカを抱きながら、大理石の殿堂からルイーズがはしゃぎ回る様子を眺める。ルイーズが笑い声を上げると、ラファイエットとルイーズも笑顔になる。

(ティメオ寂しがってそう……)

 仕事で書斎に行ってしまったが、ルイーズの声が聞こえているだろう。(あと書斎からは中庭の様子が見れる)。いつもルイーズを心配そうに見つめている父親も、本当は娘と触れ合う時間を大切にしているのだ。

「ふふ……後でパパに会いに行こうね~」

 目が覚めたのか、腕の中の息子が小さなあくびをする。赤ん坊でまだ歯も生えそろえていないのに、欠伸は人間らしくて面白い。話しかけるとリュカが泣き出した。

「よしよし」

 テーブルに並べられた菓子を食べながら、リュカをあやしていると「マー!」と庭から声がした。見ると汗だくになったラファイエットが、殿堂に入ってきた。
 庭を見ると、ルイーズがラーナのドレスを引っ張って、指を差していた。多分だけどお気に入りの庭を案内したいのだろう。侍女達をぞろぞろと従え、庭の探検に行ってしまった。

「姫は本当にお転婆だな」
「そう、一日じっとしてるの寝てる時だけなんだよ。あ、寝てる時も寝相が凄いから……」

 ルイーズがじっとしている時間は無いかもしれない。自然と笑みがこぼれると、ラファイエットがまじまじと自分を見ていることに気がついた。

「どした?」
「いや……親になったんだなって……」

 マルベーは先に到着した親の顔が脳裏に浮かび、思い出し笑いをした。マルべーの親は厄介払いするように息子を隣国の王族に嫁がせたが、本音は寂しかったのだ。あの時の、なんとも言えない複雑な顔をラファイエットもしていた。

「親とおんなじ顔してるよ、きょうだい」
「そりゃなるだろ……立派になってさ……」
「そんな取り残されたような顔しないでよ~。お前んとこだって、そろそろ子どもって話出てるんじゃないの?」
「そうだけどさ……」

 聞くとラーナは子どもを早く望んでいるようだが、ラファイエットは彼女の体を心配していた。かつての夫に虐げられたことを知っているラファイエットは、とにかく彼女の健康を気遣っていた。

「まだ時間はあるんだし……一緒にいる時間を大切にしたいんだ」
「いーじゃん。でもラファーのその気持ちが伝わってなかったらすれ違っちゃうから……じっくり話しなよー」
「……」

 隣で「お前に助言を受けるなんて……」とぼそりと声がする。マルべーはリュカをあやしながら笑いをかみ殺した。いつもマルべーを支えてくれて、よき理解者となってくれたラファイエット。それぞれ家庭を持つようになっても、家族としての絆がますます深まっていた。

「子ども生まれたら、連れてきてよ。あ、留学させるのもいいなぁ。ルイーズもリュカも、他国で学んで欲しいしね」
「気が早いだろ」
「いや、あっという間だよ~。ルイーズなんて、この前歩けるようになったかと思ったら走り回るようになったから」
「……そうだな」

 マルベーは王妃として、基本アルテナードの外に出ることはない。でも生まれたばかりの子どもにはいくらでも未来と選択肢があるのだ。むずがるリュカをあやしながら、この先の明るい未来に思いを馳せた。
 
 
 
 
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