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45.子育て編7
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※マルベーとティメオがそれぞ眠っていた時のお互いの反応
ティメオの場合
一日の公務が終わると真っ先に向かうのは妻の部屋だ。ティメオが陛下となって年月が経ったが、愛妾一人作らず、ただ一人の妻を想う陛下を使用人達は微笑ましく見守っていた。
(早く会いたい)
いつだってティメオの足は早歩きだった。毎日同じベッドで夜を過ごし、おはようからおやすみのキスまで一緒の夫をいつでも抱きしめておきたい。結婚当初の熱い情熱は穏やかな凪のようになっていても、愛情は変わらなかった。
アルテナードの国王夫夫は大陸でも評判になっている。政略結婚をした二人だったが仲睦まじく、市井の人々は国王の愛夫家を舞台や劇にしては二人の幸福が続くよう祈っていた。
「........マー?」
妻の部屋をノックする。いつもだったら明るい返事が聞こえるのに、無音が返ってきた。再度「マルー? マルベー?」と呼びかけるが、静かなままだった。通りかかった侍女に聞くが、妻は私室にいるはずだと言われ、もう一度ノックする。やっぱり物音すら聞こえない中、ティメオは不安にかられた。
(マー? 倒れてる?)
そっとドアを開けて、足を踏み入れる。ティメオの目に飛び込んできたのはソファでうたたねする妻の姿だった。ほっとしながら近づくと、首が傾き、すうすうと安らかな寝息が聞こえる。そっと肩に手をかけ、妻の名前を呼んだ。
眠りが深いのか、寝息が返ってくるだけだった。
「マー、眠っちゃった?」
そっと横に腰掛け、妻の髪を指で梳く。普段から自分の髪を地味だ、華やかじゃないとぼやいているが、ティメオは妻の髪が大好きだった。絹のように柔らかく、さらさらした手触りの髪はずっと触れていたい。睦言が終わるとティメオはいつも、妻の髪を愛でていた。
髪や肩に触れるが、妻はぐっすり眠っていた。ソファにもたれかかって眠ると、起きた時に体が痛むだろう。太ももにクッションを置き、そっと体を倒した。
膝枕をして、ティメオはマルべーの頭を撫でた。
「可愛いです」
誰に聞かせるまでもない、独り言が漏れる。可愛い、可愛い。気がつくと妻を愛でる言葉が零れ落ちていく。マルベーが子ども達の前で口癖のように出る「可愛い」は、ティメオにとっては妻にも向ける言葉だった。
すうすうと寝息を出す唇にそっと触れる。柔らかくて、つい何度も指で押すと、マルべーの眉が動く。しまった、起こしてしまったかと手を離し、じっと妻を見守った。幸い、起きるまでは無かったのか、また規則正しい寝息が聞こえてきた。
(全部可愛い、愛しい)
ティメオにとって、マルベーを構成するもの全てが愛しかった。華やかじゃないと自虐する黒髪も、小さな耳も、そして「旦那様」と甘えるように呼びかける唇、全てが宝物。
「……」
好きで好きで、時々どうしようもないくらい気持ちが溢れてしまいそうになる。そんな時、ティメオはずっとマルべーを抱き締めているのだが、妻は飄々としていた。こんな軽さが、ティメオが持たない美点だと分かっているが、時々重たい気持ちになってしまう。
(こんな気持ちが私だけだったら……)
マルベーは愛情や家族をティメオに教えてくれた人だ。あっけらかんとしていて明るく、飄々としている妻にティメオに何度も救われてきた。アルテナードの王は大陸の太陽、などと称されていたが、ティメオにとっての太陽はマルベーだった。
妻がいると、家庭に明かりがついているようだった。
(自分は何か返せているのだろうか)
分からなかった。マルべーに救われた分、いやそれ以上のものを返したい。じゃないと妻に愛想を尽かされるのではと、一抹の不安が拭えなかった。
「んー……」
「マル―?」
目がちょっと開いたかと思ったら、すぐに夢の中に入ってしまったようだった。妻も疲れているのだろうと、ティメオは体を抱き上げた。
(子ども部屋に行って、ルイにはお母様は眠っているからと……)
よく眠っている妻を起こすのは忍びない。この後、子どもの相手は自分がしようと、寝台に運ぶ。穏やかな揺れが心地よかったのか、腕の中の妻が微笑んでいた。
仰向けにして、掛け布団をかける。結婚したばかりの頃は、ティメオが先に起きていることが多くて、こうやって妻の寝顔を見ていたことを思い出す。今は夫夫二人で起き上がるので、滅多に寝顔を見ることがなかった。
「マー、よい夢を」
頬にキスをすると、寝言なのかマルベーの口が動く。どんな夢を見ているんだろう、自分の夢を見て欲しいなとか、また妻への重たい気持ちが沸き上がる中、もう一度頬にキスをした。
ティメオの場合
一日の公務が終わると真っ先に向かうのは妻の部屋だ。ティメオが陛下となって年月が経ったが、愛妾一人作らず、ただ一人の妻を想う陛下を使用人達は微笑ましく見守っていた。
(早く会いたい)
いつだってティメオの足は早歩きだった。毎日同じベッドで夜を過ごし、おはようからおやすみのキスまで一緒の夫をいつでも抱きしめておきたい。結婚当初の熱い情熱は穏やかな凪のようになっていても、愛情は変わらなかった。
アルテナードの国王夫夫は大陸でも評判になっている。政略結婚をした二人だったが仲睦まじく、市井の人々は国王の愛夫家を舞台や劇にしては二人の幸福が続くよう祈っていた。
「........マー?」
妻の部屋をノックする。いつもだったら明るい返事が聞こえるのに、無音が返ってきた。再度「マルー? マルベー?」と呼びかけるが、静かなままだった。通りかかった侍女に聞くが、妻は私室にいるはずだと言われ、もう一度ノックする。やっぱり物音すら聞こえない中、ティメオは不安にかられた。
(マー? 倒れてる?)
そっとドアを開けて、足を踏み入れる。ティメオの目に飛び込んできたのはソファでうたたねする妻の姿だった。ほっとしながら近づくと、首が傾き、すうすうと安らかな寝息が聞こえる。そっと肩に手をかけ、妻の名前を呼んだ。
眠りが深いのか、寝息が返ってくるだけだった。
「マー、眠っちゃった?」
そっと横に腰掛け、妻の髪を指で梳く。普段から自分の髪を地味だ、華やかじゃないとぼやいているが、ティメオは妻の髪が大好きだった。絹のように柔らかく、さらさらした手触りの髪はずっと触れていたい。睦言が終わるとティメオはいつも、妻の髪を愛でていた。
髪や肩に触れるが、妻はぐっすり眠っていた。ソファにもたれかかって眠ると、起きた時に体が痛むだろう。太ももにクッションを置き、そっと体を倒した。
膝枕をして、ティメオはマルべーの頭を撫でた。
「可愛いです」
誰に聞かせるまでもない、独り言が漏れる。可愛い、可愛い。気がつくと妻を愛でる言葉が零れ落ちていく。マルベーが子ども達の前で口癖のように出る「可愛い」は、ティメオにとっては妻にも向ける言葉だった。
すうすうと寝息を出す唇にそっと触れる。柔らかくて、つい何度も指で押すと、マルべーの眉が動く。しまった、起こしてしまったかと手を離し、じっと妻を見守った。幸い、起きるまでは無かったのか、また規則正しい寝息が聞こえてきた。
(全部可愛い、愛しい)
ティメオにとって、マルベーを構成するもの全てが愛しかった。華やかじゃないと自虐する黒髪も、小さな耳も、そして「旦那様」と甘えるように呼びかける唇、全てが宝物。
「……」
好きで好きで、時々どうしようもないくらい気持ちが溢れてしまいそうになる。そんな時、ティメオはずっとマルべーを抱き締めているのだが、妻は飄々としていた。こんな軽さが、ティメオが持たない美点だと分かっているが、時々重たい気持ちになってしまう。
(こんな気持ちが私だけだったら……)
マルベーは愛情や家族をティメオに教えてくれた人だ。あっけらかんとしていて明るく、飄々としている妻にティメオに何度も救われてきた。アルテナードの王は大陸の太陽、などと称されていたが、ティメオにとっての太陽はマルベーだった。
妻がいると、家庭に明かりがついているようだった。
(自分は何か返せているのだろうか)
分からなかった。マルべーに救われた分、いやそれ以上のものを返したい。じゃないと妻に愛想を尽かされるのではと、一抹の不安が拭えなかった。
「んー……」
「マル―?」
目がちょっと開いたかと思ったら、すぐに夢の中に入ってしまったようだった。妻も疲れているのだろうと、ティメオは体を抱き上げた。
(子ども部屋に行って、ルイにはお母様は眠っているからと……)
よく眠っている妻を起こすのは忍びない。この後、子どもの相手は自分がしようと、寝台に運ぶ。穏やかな揺れが心地よかったのか、腕の中の妻が微笑んでいた。
仰向けにして、掛け布団をかける。結婚したばかりの頃は、ティメオが先に起きていることが多くて、こうやって妻の寝顔を見ていたことを思い出す。今は夫夫二人で起き上がるので、滅多に寝顔を見ることがなかった。
「マー、よい夢を」
頬にキスをすると、寝言なのかマルベーの口が動く。どんな夢を見ているんだろう、自分の夢を見て欲しいなとか、また妻への重たい気持ちが沸き上がる中、もう一度頬にキスをした。
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番外編の続きも見たいと思ってしまいました
(期待の眼差し)
ほのぼのして、いいです(*´∀`)
ティメオ君が可愛すぎてキュンキュンします(*´Д`)