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しおりを挟むあれから一か月、僕と春人さんはセックスどころかキスすらもしていない。
理由は単に、仕事が忙しいから。
特に春人さんの場合、休みの日でも駆り出されることがよくあるらしく。正直僕なんかに構ってる暇なんてないのだろう。
忙しいのは分かっているのに、分かってるはずなのに。家に帰ると僕の心はいつも不安になってしまう。
もしかすると実は女役が嫌だったんじゃないかとか。やっぱりΩと付き合うなんて無理だと思ったんじゃないだとか。そんな事を悶々と考えながら、僕はいつも家に帰っては涙を流していた。
「はぁ~……そして友人も捕まらず、毎日家でボッチ飯。食って寝て働いて……食って寝て働いて……。クソッ、社畜人生まっしぐらじゃねぇか」
せめて家で春人さんが夕食を作りながら「おかえり」を言ってくれるなら、どんだけ酷いブラック会社でも頑張って働くのになぁ。
なんて、何十回と妄想してきた僕と春人さんの同居生活にニヤニヤしながら、僕は安いスーパーの唐揚げ弁当をくちゃくちゃと噛みしめ飲み込む。
「あっ」
そういえばお茶を用意してなかったと、喉の渇きに気付いて立ち上がった時だった。
ピンポーン。
とチャイム音が鳴り響き、なんとなくイラっとして眉間に皺が寄る。
大抵この時間にチャイム音といえば回覧板かセールス。正直出るのも億劫だが、電気もテレビも付いてるから居留守は使えないなと思い、僕は渋々ドアを開けた。
でも。
そこに立っていたのは、隣のおばさんでもセールスの人でもない。
「やぁ……冬華君」
ずっと会いたかった人だった。
「春人さん……」
夜遅くに僕の家へ訪ねてきた春人さんは、スーツも髪もいつもより乱れていた。
まるで、走って来た後みたいに。
「と、冬華君!」
「え、あ、はい!」
薄っすらと頬を赤く染めたままドアを閉めて玄関へ上がり込んできた春人さんに、僕は思わず手を出してしまいそうになって、一歩後ろへ下がると。
身体がフワリと前に倒れた。
僕の胸倉を掴み、自分の唇へと押し当てる春人さんの長い睫毛が目に焼き付く。
「ふっ……ん」
柔らかくて、どことなく甘い。
久々の濃いキス。
「えっと……春人さん、今のは」
舌先でプツリと切れた透明な糸が見えて、欲が沸々と湧き上がる。
だがその気持ちは、どうやら春人さんも同じなようだ。
「冬華君、また私を……抱いてくれないか」
誘うように僕にしがみつく姿は、あの時と同じ。
「……僕でいいんですか?」
「君が良いんだ」
「僕、Ωですよ?」
「関係ない!私は、君だから好きになったんだ……」
あぁホントにこの人は。
「優しく抱いてあげます。春人さん」
ズルい大人だ。
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