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今から十三年前。
極道東田組一家の若衆だった俺は、その日突然組長に呼び出され。ある重要な仕事を任されることになった。
それがーー。
「北条秋虎。今日から貴方には、私の息子の世話係をしてもらいます」
「……へ?せわ、係?ですか?」
組長の息子。 東田春華のお世話をするというものだった。
組に入ってからスキンヘッドに厳つい顔という外見と、怪物並みの強さという理由で、基本血生臭い仕事しかしてこなかった俺が、まだ四歳でそれも組長の息子をお世話することになるとは思いもしなかった。
「そもそも組長も、どうして俺にそんな重大な仕事を任せてきたのか……」
組長の頼みとならば勿論断るなんて馬鹿な事はしないが、流石に色々と不安だ。
いつもやっている仕事といえば、とりあえず反抗してくる奴等をボコボコに締め上げるだけの簡単な仕事だったが、今回はそうはいかない。
「いやまてよ……?寧ろ見てるだけでいいんだから、いつもより楽なんじゃないか?」
相手は子供。とりあえず危ない事をしないかだけ見張っていれば、後は自由にしてていいってことになる。
もしも他の組に狙われるようなことがあれば、そこは俺が身を挺して守ってやればいい。
「なんだ!意外と簡単じゃねぇか!」
「いやぁ~北条さんが思ってるより、楽じゃないと思いますがねぇ……俺は」
「あ?それはどういう意味だ?西國」
「だってですよぉ~?組長の坊ちゃんって、まだ四歳ですよねぇ?」
「だからなんだよ」
「子供って、俺達が思っている以上に……めんどくさいっすよ」
「はっ!んな餓鬼相手にそんなことあるわけねぇだろ?それにあの組長の息子だ。大人しくて良い子に決まってんだろ?」
しかし。
東田春華は、俺の予想以上に手強い相手だった。
「うわぁあぁあ~~!!あきとらのばかぁあ~~!!」
「すいません若!ほ、ほら!飴ありますよ!食べますか?」
「うわぁあ~~ん!!ぼくは『わか』じゃないもんーー!!『はるか』だもんーー!!なまえまちがえるあきとらなんかきらいだぁあーー!!」
「す、すいません!!わ、じゃなくては、春華坊ちゃん!もう泣き止んでくださいよぉ……」
まさに、ぼろ負けだった。
まだまだ幼いあどけない顔だちで、あの組長でさえデレデレしてしまうという可愛らしいお姿とは反面。自分の都合通りにいかないとすぐに泣き出し。欲しい物は手に入れるまで強請り続けるという……超絶我が儘で頑固な子だった。
子供相手なんて今までしてこなかった俺には一体どうすればいいのかさっぱりで、毎度毎度大泣きする始末。挙句の果てには、他の奴等に助けを求めるほどだった。
これならいつもの仕事の方が、まだ単純で楽でいい。
どれだけムカついてもイラついても、拳を振るえないというのは相当なストレスだ。
「あれあれ~?北条さ~ん?なんかまた一段と禿げちゃってません?もしかしてストレス?大丈夫ですか?」
「この頭は剃ってんだよ。殴るぞ」
「あ。目付きも悪いっすよ?寝不足ですかい?」
「西國テメェ。よっぽど俺のサンドバックになりてぇみてぇだな?」
「あはは……冗談ですって。まぁでも実際疲れてはいるでしょ?あの我が儘な若に」
「……それは、まぁな」
「だから言ったじゃないですかぁ~子供はめんどくさいって」
確かに、子供というのはめんどくさい生き物だ。
どんだけ怒っても黙らねぇし、俺の言葉の意味も理解してねぇし、自分の都合の悪い事があればすぐに泣くし、すぐ怒るし。
一体なんて言葉をかけてやればいいのか、どうやって接すればいいのかも全然分からない。
「組長に「やっぱ俺には無理でした」って、言ってみたらどうです?」
「いや、俺が死ぬわ」
「あはは~!大丈夫ですって!臓器一つで勘弁してくれますって!」
「全然大丈夫じゃねぇだろそれ。あぁ~~……でもまぁ、それにな……」
「それに?」
「別に、嫌な事ばかりじゃねぇんだ」
頑固で我が儘で、面倒な事ばかりしでかす若だが。夜は凄い寂しがり屋で、いつも俺の部屋に来ては「一緒に寝よう」と言ってくれるし。何か嬉しい事があれば、一番に俺のところまで駆け寄って話をしてくれる。
若がずっと欲しがっていた物をプレゼントした時は、目を輝かせながら「ありがとう」と笑ってくれたし。俺の湯飲みを割ってしまった時は、すぐに「ごめんなさい」と泣きながら謝ってくれた。
子供の相手をするのは面倒で大変だが、若はやはり良い子だ。
こんな不器用な俺でも、若は俺を側に置いてくれるし、頼ってくれる。そんな若の気持ちを蔑ろになんか出来るわけがない。
「若のことは、俺が最後まで面倒をみる」
若が立派な大人になって、二代目を継ぐその日まで。
「……な~んか。まぁ俺の予想なんですけどぉ……いつか北条さん、若のこと無茶苦茶溺愛してそうっすわ」
「んなわけねぇだろ。これはあくまでも仕事だ。終わればまた、いつも通りクソ共の掃除に戻るだけだよ」
「どうですかねぇ~……」
「若の世話をするのは、組長からの命令だからだ。それ以上もそれ以下もねぇ。それに……なるべく大事なものっていうのは、作りたくねぇしな」
「どういう意味っすか?」
「なんでもねぇ。テメェもさっさと自分の仕事してこい」
「は~い」
なんて……。
その頃の俺は、西國に対して随分と強気な態度をとっていたが。
十三年経った今。結局西國の予想は的中してしまっていた。
極道東田組一家の若衆だった俺は、その日突然組長に呼び出され。ある重要な仕事を任されることになった。
それがーー。
「北条秋虎。今日から貴方には、私の息子の世話係をしてもらいます」
「……へ?せわ、係?ですか?」
組長の息子。 東田春華のお世話をするというものだった。
組に入ってからスキンヘッドに厳つい顔という外見と、怪物並みの強さという理由で、基本血生臭い仕事しかしてこなかった俺が、まだ四歳でそれも組長の息子をお世話することになるとは思いもしなかった。
「そもそも組長も、どうして俺にそんな重大な仕事を任せてきたのか……」
組長の頼みとならば勿論断るなんて馬鹿な事はしないが、流石に色々と不安だ。
いつもやっている仕事といえば、とりあえず反抗してくる奴等をボコボコに締め上げるだけの簡単な仕事だったが、今回はそうはいかない。
「いやまてよ……?寧ろ見てるだけでいいんだから、いつもより楽なんじゃないか?」
相手は子供。とりあえず危ない事をしないかだけ見張っていれば、後は自由にしてていいってことになる。
もしも他の組に狙われるようなことがあれば、そこは俺が身を挺して守ってやればいい。
「なんだ!意外と簡単じゃねぇか!」
「いやぁ~北条さんが思ってるより、楽じゃないと思いますがねぇ……俺は」
「あ?それはどういう意味だ?西國」
「だってですよぉ~?組長の坊ちゃんって、まだ四歳ですよねぇ?」
「だからなんだよ」
「子供って、俺達が思っている以上に……めんどくさいっすよ」
「はっ!んな餓鬼相手にそんなことあるわけねぇだろ?それにあの組長の息子だ。大人しくて良い子に決まってんだろ?」
しかし。
東田春華は、俺の予想以上に手強い相手だった。
「うわぁあぁあ~~!!あきとらのばかぁあ~~!!」
「すいません若!ほ、ほら!飴ありますよ!食べますか?」
「うわぁあ~~ん!!ぼくは『わか』じゃないもんーー!!『はるか』だもんーー!!なまえまちがえるあきとらなんかきらいだぁあーー!!」
「す、すいません!!わ、じゃなくては、春華坊ちゃん!もう泣き止んでくださいよぉ……」
まさに、ぼろ負けだった。
まだまだ幼いあどけない顔だちで、あの組長でさえデレデレしてしまうという可愛らしいお姿とは反面。自分の都合通りにいかないとすぐに泣き出し。欲しい物は手に入れるまで強請り続けるという……超絶我が儘で頑固な子だった。
子供相手なんて今までしてこなかった俺には一体どうすればいいのかさっぱりで、毎度毎度大泣きする始末。挙句の果てには、他の奴等に助けを求めるほどだった。
これならいつもの仕事の方が、まだ単純で楽でいい。
どれだけムカついてもイラついても、拳を振るえないというのは相当なストレスだ。
「あれあれ~?北条さ~ん?なんかまた一段と禿げちゃってません?もしかしてストレス?大丈夫ですか?」
「この頭は剃ってんだよ。殴るぞ」
「あ。目付きも悪いっすよ?寝不足ですかい?」
「西國テメェ。よっぽど俺のサンドバックになりてぇみてぇだな?」
「あはは……冗談ですって。まぁでも実際疲れてはいるでしょ?あの我が儘な若に」
「……それは、まぁな」
「だから言ったじゃないですかぁ~子供はめんどくさいって」
確かに、子供というのはめんどくさい生き物だ。
どんだけ怒っても黙らねぇし、俺の言葉の意味も理解してねぇし、自分の都合の悪い事があればすぐに泣くし、すぐ怒るし。
一体なんて言葉をかけてやればいいのか、どうやって接すればいいのかも全然分からない。
「組長に「やっぱ俺には無理でした」って、言ってみたらどうです?」
「いや、俺が死ぬわ」
「あはは~!大丈夫ですって!臓器一つで勘弁してくれますって!」
「全然大丈夫じゃねぇだろそれ。あぁ~~……でもまぁ、それにな……」
「それに?」
「別に、嫌な事ばかりじゃねぇんだ」
頑固で我が儘で、面倒な事ばかりしでかす若だが。夜は凄い寂しがり屋で、いつも俺の部屋に来ては「一緒に寝よう」と言ってくれるし。何か嬉しい事があれば、一番に俺のところまで駆け寄って話をしてくれる。
若がずっと欲しがっていた物をプレゼントした時は、目を輝かせながら「ありがとう」と笑ってくれたし。俺の湯飲みを割ってしまった時は、すぐに「ごめんなさい」と泣きながら謝ってくれた。
子供の相手をするのは面倒で大変だが、若はやはり良い子だ。
こんな不器用な俺でも、若は俺を側に置いてくれるし、頼ってくれる。そんな若の気持ちを蔑ろになんか出来るわけがない。
「若のことは、俺が最後まで面倒をみる」
若が立派な大人になって、二代目を継ぐその日まで。
「……な~んか。まぁ俺の予想なんですけどぉ……いつか北条さん、若のこと無茶苦茶溺愛してそうっすわ」
「んなわけねぇだろ。これはあくまでも仕事だ。終わればまた、いつも通りクソ共の掃除に戻るだけだよ」
「どうですかねぇ~……」
「若の世話をするのは、組長からの命令だからだ。それ以上もそれ以下もねぇ。それに……なるべく大事なものっていうのは、作りたくねぇしな」
「どういう意味っすか?」
「なんでもねぇ。テメェもさっさと自分の仕事してこい」
「は~い」
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その頃の俺は、西國に対して随分と強気な態度をとっていたが。
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