間違いだらけだったクルマ選び~徳大寺先生ごめんなさい~

詩川貴彦

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第3話 昭和57年式 ブルーバード910 SSSターボ ~羊の皮を着た狼~

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プロローグ

 ワシは愛車のレビンのアクセルを床まで踏み込んで青筋立てて全開で加速していました。その横を・・・「ヒューン」というターボ独特の音が聞こえたかと思ったら、それこそあっという間に抜き去られてしまいました。しかも910ブルーバードのテールライトはぐんぐん遠ざかっていきます。
  910のドライバーが言うには、ワシのレビンがすごいスピードでバックしてくるように見えたそうです。数々の武勇伝を打ち立てたワシのレビンは、その日から、「バックカローラ」と揶揄されるようになりました。(泣)

 この話は、昭和58年の4月中旬頃のことでした。大学をやっと卒業した私は、固い固い仕事に就いて二年目を迎えていました。あの頃は、バブルに向かってイケイケの時代で、派手なクーペやハイソカー全盛の時代でした。
 連休明けに、お固い仕事について二年目のワシにとてもふさわしい地味な白いセダンがやってきました。そうワシは車を買い替えることにしたのです。ブルーバード910SSSターボというのが正式な車名で、先ほどひと騒動あったあの車でした。
 前のオーナーは「FFの麻生」さんです。麻生さんは、学生時代に働いていた日産レンタカー某営業所におられた方で、なぜかかわいがっていただいて、就職してからもちょくちょく遊びに来られるようになっていました。
 その頃から「FFの麻生」と呼ばれていました。ちょうど知り合った頃は、黄色いゴルフに乗られていました。何度か一緒に走ったこともあるというか、帰りが同じ方向だったので、帰りは競争になります。ワシも少しは自信があったので追いかけていたのですが、これが速い速い。まったくついていけません。変な姿勢でコーナーに入ったかと思ったらもう消えています。運転自慢のレンタカーの同僚、先輩、走り屋の兄さんたち、みんなワシと同じように振り切られていて、ゴルフが前輪駆動でしたので、いつの間にか「FFの麻生」と呼ばれるようになっていました。(カッコいい!)
 その麻生さんが、何を血迷ったのか、あの粋でおしゃれで鬼のように速くてモテモテでいつも隣に美人が乗っていたあの薄黄色いゴルフを売って、ブルーバード910を買って色々といじくって1年ぐらい乗っていたのですが、事情があって手放されることになり、速さを見せつけられていたワシがすぐに手をあげたのです。
 レビンの借金と910の代金と、困っていたら先輩が職場の互助会で簡単に貸してくれると教えてくれました。さっそく申し込んだらすぐに貸してくれたのには驚きました。こうしてワシは、職場の互助会に感謝するとともに、すぐにお金が借りられるという安易な考えで地獄の借金生活にハマっていくのでした。
 そうして手に入れた910ターボは、ワシのとって初めてのセダンでした。ぱっと見は普通の白いセダンで、あんまりかっこよくないなあと思いました。今日からワシは地味な車では好青年のふりをしようとか考えた覚えがあります。真っ白のボディは新車よりもピカピカで隅々まできれいでした。走行距離が8000キロぐらいで、青い純正のシートカバーがつけてあって、室内はまだ新車の匂いがしていました。それでも何となくですが、ただのセダンじゃあないぞというオーラが出まくっていました。
 外見は、SSS用のハニカムグリルからバン用の地味な横線グリルに交換してあって、SSSやTURBO等のエンブレムはすべて取り外されていています。ちょっと前傾姿勢なのはラリー用強化サスで足回りが固めてあるからです。足元には、アウトストラーダとピレリP6が光っています。エアコン、FMラジオ、パワーアンテナと新車の匂い付きでしたが、麻生さんらしくカセットステレオのたぐいはありませんでした。
 さっそく乗って見ると、これが静かで乗りやすい。よく考えたら運転するのは、初めてでした。セダンだから広くて快適。セダンだから座面が高くて視界が良い。もう目から鱗状態でした。ワクワクしながら、いつもの直線でアクセルを踏み込んでみたら・・。
 出足はちょっともたつくような感じですが、三千回転超えたへんから、これまで聞いたことのないような「カリカリ(これ何の音かいまだに不明)ヒューン」という音が聞こえたかと思ったら、バシューンという感じで、これまたこれまで感じたことのないようなすごい加速が始まり、あっという間にレッドゾーン手前の六千回転。速いこと速いこと。ちょっと固いけど足も良くて、ちゃんとパワーを受け止めてくれて、グッと踏ん張って加速してくれます。さすが麻生さん。車のことをよく分かっていらっしゃる。
 それから夜な夜な出かけていっては、速そうな車を見つけてはアクセルを踏み込みます。そうしたら「カリカリ、ヒューン」ですよ。どの車も相手にならない。何が来ても負ける気がしない。某新幹線駅裏の4車線道路で、セリカXXとシグナルグランプリをやったときなんかは、出だしで先行したXXにあっという間に追いついて、追いついたと思ったらバヒューンと抜き去って、XXのドライバーは目が点になっていました。なんでこんなセダンが速いんだみたいな感じでした。
 ブルーバード910ターボ。本当に良い車でした。当時の売上王者カローラから25か月も首位の座を奪い取っただけのことはあるなあと感心していました。本当にキャッチコピー通りの「ザ・スーパースター」でした。シンプルでボクシーで、格好良くて広くて運転しやすくて、2プラグZエンジンはこれまでの日産のエンジンに比べて軽くてひゅんひゅん回る印象でした。つまり基本が良かった。それにターボをつけたものだから、こんなに良い車に仕上がったのかな。何事も基本が大事だとしみじみ学習したわけでありました。
  ところで、このブルのおかげで、いろんな楽しい経験ができたわけですが、とりわけ印象的だったのは、
「これ、もしかしたらターボ?」と聞かれて「ええ、まあ」と答える時の心地よさ。「羊の皮を着た狼」とか「いぶし銀」とか、そういうことってカッコイイことなんだなあとやっと気づき始めた二十三才でありました。それからしばらくは、使い勝手が良くて速いセダンにどっぷりとはまっていワシでありました。
  このブルと暮らしていく中で、いろいろなエピソードがありました。レーダーに捕まって初免停を食らって、有給取って免許センターに講習を受けに行ったり、家庭裁判所に呼ばれて罰金を払ったりで大変でした。今だったら大事で下手をしたら新聞沙汰だったかもしれませんが、当時はおおらかだったというか上司に話したら笑って免許センターに行かせてくれました。また、公道で派手にスピンして運良く空き地に滑り込んで無傷だったりしたこともあります。今では信じられないくらい無茶や無謀なことをしていました。若気の至りというよりもバカで世間知らずの若造だったのだと思います。
 何よりもごく普通の白いセダンでしたから上司、親戚、親ともに受けと使い勝手がいいことこの上なく、本当に心に残る名車だったと思います。
  この後、すっかり日産とブルーバードにはまってしまったワシは、しばらくブルーバードを乗り継ぐことになり、ますます車貧乏に拍車がかかっていくわけですが、「SSS(スーパースポーツセダン)」の名に恥じず、本当にいい車だったと思っています。
  
ワシは結婚もしたし、落ち着いてこのブルにずっと乗ろうと思っていました。しかし、またやってしまうんです。ワシみたいなバカって何度も同じ間違いをくり返すというか、過去の失敗に学ばないっていうか、そういうことを思い知ることになるんです。
  何をやったかと申しますと、ブルをいじりたくなってきたんですよね。少し物足りなくなってきたというか飽きてきたと申しますか・・・。
 まずカセットをつけました。ケンウッドを無理して買ってきて、自分で取り付けました。ここまでは、まあいいとしましょう。
 本当にバカが加速しはじめたのは、「過給圧」という言葉を知ってからであります。詳しく言うと、「ターボは過給圧を上げるとものすごく速くなる。」ということです。
なんですって。
 たしかブルを買って1年ぐらい経っていて、ターボの加速に慣れたというか物足りなくなってきたというか、それから三菱行ったときに試乗させてもらった「ランサーターボインタークーラー」160馬力の加速がすごくて、そろそろブルもと考えている頃だったんだと思います。
 午後からダッシュで行きつけのオートサロングランプリに行きました。すっかり顔なじみの店長さんに「加給圧をあげたいんですけど、何かないですか。」と聞いたら、あった、あったありました。「ターボマイティ」なる、純正ターボの過給圧を任意に調整できるすばらしい商品が。たしか80000円くらいだったと思うんですが、バブルでボーナス出たばかりでしたので、何の躊躇もなく購入しました。当時の80000万円、今だったら恐ろしくて考えられませんし、絶対に買わないと思いますが。
 しばし待つこと二時間ぐらいで取り付け完了であります。夜になるのを待って、いつものコースでテスト開始であります。
どれくらい速くなったのか、もう支払いのことも忘れて、もうワクワクです。センターコンソールにはり付けてあるコントローラー兼インジケーターのスイッチを入れると、オレンジ色に光ります。これでターボマイティが作動し始めたわけですね。かっこいいなあ。
 ブーストコントローラーのつまみは触るなということでしたので、それではさっそく加速してみます。ゆっくりローで出て2速で全開加速してみます。結構すごい加速で、明らかにノーマルより速い。タコメーターに合わせて、ターボマイティの過給圧を示すインジケーターのバーがぐーっと上がってブルー、イエロー、おおレッド。タコメーターも一気にレッドゾーンへ。と思ったらなぜか急に失速。何度やっても、5000回転以上になると急にパワーがなくなってググッとブレーキかけたみたいになります。なしてですか。
 後で調べてもらってわかったことなのですが「燃料カット」という機能がはたらいたそうです。今なら加給圧に合わせて、コンピューターを調整するとか何とか考えると思いますが、当時のことですから原因がわからない。取り外して返品もできなくて、仕方がないので、スイッチ切ってそのままにしておきました。まあスイッチ入れたら夜はきれいですし、何かいじくってある的な雰囲気はあったので、はったりパーツとして使うことにしました。
 次に思いついたのがマフラー交換で過給圧を上げるという作戦でした。しかし一番静かと言われていたフジツボのマフラーでさえ爆音状態で、とても職場に乗っていけまへん。
 仕方なく返品というか転売してもらいました。そうしてああじゃこうじゃとやっているうちに、知らないうちに、じわじわとタービンやらエンジンに負担がかかっていたんですね。わけのわからないエンジン添加剤も入れまくっていたし。
 その日はあっけなくやってきました。タービンからの異音。こんなアホでもさすがに気がついて日産に持っていったら、タービン破損でたしか15万円コースでした。何もしなかったらこんな事には絶対にならなかったと思います。車はしゃべれませんので文句も言わずに動いてくれますが、きっときっと私のアホな行為が、ものすごく負担をかけていたんだと思います。そんなことしている暇やお金があったら、タイヤとかオイルとか、そういう消耗品を日産で純正品ときちんと交換して、きちんと点検受けて、ついでに思いやりをもって接してあげたらどんなに幸せが長く続いたに違いないと、ワシはものすごく後悔しました。タービン破損なんて、マンガの中の出来事かと思っていましたから。まさか自分に降りかかるとは思ってもみませんでした。ワシのやっていたことは、自己満足だけのためにブルにものすごい負担をかけていたんだとようやく気がついたのでした。
 しみじみ思いました。百害あって一利無しとはまったくこういうことだと。無駄だったと。それから少しは賢くなって、無意味な改造や社外品の部品や怪しいオイル添加剤や、そういうことは一切やめようと心に誓い、しばらく大人しくしていました。
  ワシみたいなバカで本当にごめんなさい。大好きだったブルーバード910ターボ。
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