間違いだらけだったクルマ選び~徳大寺先生ごめんなさい~

詩川貴彦

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第5話 昭和61年式 U11ブルーバードSSSーSツインカムターボ ~バブルに向かって~

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プロローグ

  マキシマのことですっかり懲りてしまったワシは、車のことなんか忘れて、しばらく大人しくしようと思ました。
 そいでもって、マキシマを買ったY日産U支店に行って、マキシマを手放すことを伝えました。
 今度は軽自動車でええと思っていました。雨風がしのげて通勤に使えて、ちょっと荷物が運べて、それで十分なのです。当時の日産は軽自動車の販売をしてなかったので、マキシマの一件が落着したら、軽の中古車でも探そうかと思っていました。もうええです。借金だけが残るので、逆さにしても鼻血もでませんが、ワシは今日からすっかり更生して車生活からきっぱり足を洗って、妻子を大切にして無駄遣いをやめて健全に生きていこうと決めていました。

8月上旬のよく晴れた平日の午後でした。世の人は汗水垂らして働いているというのに、ワシは冷房が効いたショールームで、なじみのセールスさんとアイスコーヒー飲みながら話しておりました。
「すんません。電話でお話したように、マキシマを手放します。こう立て続けに災難ばっかり降りかかってきたら、次はきっと死ぬか人轢くかどっちかのような気がします。」
「残念ですが、できるだけのことはさせていただきます。遠慮なく言ってください。」
「軽自動車に乗り換えようと思っています。走ればええですから。」
「それならスズキのセールスを紹介しましょう。マキシマの下取りは目一杯出させても らいますから安心してください。うちから離れていくのが残念ですが。」
 お互いにしんみりして今生の別れのごとき台詞を吐いておりました。このとき更正して軽自動車に乗っていれば、今みたいに車貧乏になることはなかったと思いますが、神様ってまだまだワシに車を買わせるつもりだったみたいです。
  なしてか知りませんが、整備工場の、フロントガラスが割れたワシのマキシマの横にすごくかっこいい真っ白なブルーバードが置いてありました。マイナーチェンジで内外装やエンジンが大きく変わった新型ブルーバードであります。ツインカムターボ化されたCA18DET145馬力が収まり、パワーを誇示する2本出しのマフラー。それからトランクの後ろがきれいなダックテールになっていて、マイナーチェンジとは思えんぐらい変わっていました。はっきりいってカッコいい。別物ですよ。別物。
 日産は、結構大胆なマイナーチェンジをやってくれる会社です。Z31なんか、ボディをほぼ全面的に手直しして③ナンバー専用ボディにしたり、R31スカイラインなんか、タービンを換装してクーペボディにして「その時精悍」の2ドアスポーツクーペにしたりだとか、当時の日産車はマイナーチェンジまで待って買えと言われていたほどでした。
  新型ブルーバード。見れば見るほど本当にかっこいいと思ってしましました。
「ちょっとエンジンかけてみてもいいですか。」
「どうぞ。キーはついていますから。」
 ワシはサッシレスのドアを開けて丁寧に運転席に座りました。室内はスポーティなモデルらしく黒を基調にした精悍な感じでした。シートのサイドが盛り上がってサポートも座り心地もええ感じです。キーをひねると静かにエンジンが始動しました。以外とジェントルな感じじゃなあと思いました。でもアクセルをちょっとだけ踏み込むとクオーンといい声で吠えてくれます。
 ワシは、この車が欲しくてたまらんようになってきました。これこそ、ワシが求めていたブルーバードの姿だと思い込んでしましました。しかも無理して買ったマキシマよりもはるかに安価でした。
 ショールームに戻ると、セールスさんがマキシマ売却関係の書類を用意して待っていてくれました。
 ワシはこれまでの誓いやお金のことや、これから野垂れ死にするかもしれないことなどすべてをすっかり忘れて、懲りずにこう言いました。
「ワシ、あの新型のブルを買いたいです。」
 セールスさんはちょっと驚いて、それからいつもの人懐こい笑顔になって、
「ありがとうございます。目一杯やらせていただきます。」
とおっしゃったのでした。

  秋晴れの土曜日に、真っ白いブルがやってきました。
 マキシマよりもサイズ的には小さいはずですが、大きくてゴージャスな車に見えます。この「大きくてゴージャスに見える」ことこそバブルに浮かれているワシたちにはとても重要なことだったのではないかと思います。日産初の4バルブツインカムターボエンジンCA18DETは、数値に期待したほどでもなかったのですが、1800CCで145馬力、こういうスペックが大切だったのです。装備もバブルでした。スイッチオンでウイーっとカバーが開くフォグランプ。ヘッドライトには、専用ウオッシャーとワイパーまでついていました。電飾バリバリの後付けのバイヨのオーディオ類。ショックアブソーバーの強弱三段階の切り替えスイッチ。今ではすっかり消滅した装備ばかりですが、こういうとこが買う側にとっては大事だったように思います。なにせバブルに向かってイケイケのすべてが右上がりの時代でしたから。あの頃、本当に楽しかったのうと思います。
 この頃の日産は、やっとお客を見るようになったというか、売れるためにはどうすればいいのかを考えるようになってきたと思います。バカ売れしているトヨタを横目でみながら、「なしてうちの車の方がはるかにいいのに、売れんのうんじゃろうか」ということを真剣に考え技術第一主義から顧客第一主義に方向転換を図りつつあったように思います。要するに時代を少しは読むことができるようになってきたのだと思います。フルモデルチェンジで大騒ぎして発売した車が、ことごとく売れないというか何か変で勘違いしいていて大失敗の評判最悪のみんながそっぽ向いてえらいこっちゃ。それから二年、じっと考えてマイナーチェンジでけっこう大胆にあちこち変更して、こりゃあかっこいい。エンジンだって換装してるし走りもまったく別物。スタイルだってこれがさっきのあれですかと思うほどのかっこよさを目の当たりにして「日産の車はマイナー後に買え」という鉄則はこの頃にできたように記憶しています。ワシは、このこのブルが、これまでのブルの中で一番好きでした。なしてかというと、かっこいいからです。

エピローグ

 U11ブルーバードSSS―Sツインカムターボ。ええ車でした。ワシは時間を見つけては遠出したりドライブに出かけたりして、2年で4万キロも乗りました。飛びぬけて速いとか、そういうとがった部分はなかったのですが、スタイルが最高で燃費もよくて、高速道路からワインディングまで、それなりに満足できる性能を発揮してくれました。ちょうど浜田省吾のJBOYというアルバムが発売された頃で、カセットに録音していつも聞いていたのを憶えています。
 その後、U12ブルーバード、R32スカイラインと乗り継いでいきますが、今でもこのブルの写真を見ると、あの頃の甘酸っぱい思い出が蘇ってくるのです。車貧乏でお金がなくてヒーヒー言ったけど、世の中バブルに向かってまっしぐらで、民間の友達はみんな給料右肩上がりで、マークとかのハイソカーに乗っていたけど、民間じゃあないワシらの給料はそんなに上がらず一番安かったけど、それでも楽しかったなあとしみじみ思うのです。




 
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