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第五話
季節
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第五話
あの日のような大粒の雨の降る日。
ガレージで聞く雨の音が好きだった。
コンプレッサーを出してZの超扁平タイヤに空気を入れてみた。
「2.2KPa。」まだ憶えていた。
それからガレージの扉を少し開けて雨を眺めていた。
ルマンブルーのZはあの日の雨の色に似ていると思った。
「季節」
花曇りの昼下がりのこと。
二度目に君を乗せて海峡を渡った日のこと。
約束の時間に君を迎えに行って
それから西に向かった。
スキニーフィットのジーンズが
スリムな君によく似合っていた。
とても素敵だと思った。
駅ビルの駐車場にZを停めたこと。
パラパラと雨が降り始めていたこと。
昼食を食べて、アーケードをぶらぶらしたこと。
デパ地下でマカロンを買ったこと。
君が食通だとわかったこと。
洒落たカフェでケーキを食べたこと。
それからZに戻って帰路についたこと。
すでに大粒の雨が落ちていたこと。
街がたそがれ時のように暗かったこと。
ハイウエイが土砂降りだったこと。
大パワーのFR車。
Zにとって最も苦手な路面状況だと思ったこと。
それでもZは結構なスピードで平気で走ってくれたこと。
君が不安にさせないように走ってくれたこと。
途中のPAでマカロンを食べたこと。
フロントガラスを打つ雨の音を聞きながら。
雨上がりの空に虹が見えたこと。
夕日浴びながら、ルマンブルーのZが疾走していたこと。
まだ明るいうちに君を送り届けることができたこと。
夢中で過ごした一日が無事に終わってホッとしたこと。
断片的な記憶を二人で紡ごうとしたこと。
「来週も大丈夫?」
と聞いてしまったこと。
「うん。もちろん。」
と、声を弾ませて応えてくれた君のこと。
君とまだつながっていることが何よりも嬉しかった僕のこと。
それから
そんなことが
いつの間にか当たり前になっていったこと。
金曜日の夜
スタンドに行ってZに給油し空気圧を調整する。
それから君にメールした。
土曜日の午後
ルマンブルーのZで君を迎えに行く。
一緒に行き先を決めて
一緒に景色を見て、
一緒にディナーのことを考える。
夕焼けの空を見て
センチメンタルな気持ちを共有して
君が注文してくれて
君が取り分けてくれる。
コーヒーとケーキも君次第だった。
僕にできることは
今日中に君を送り届けること
そんな暗黙の約束がすっかり出来上がっていて
そんな週末を過ごせることが
僕は
嬉しくてたまらなかった。
でもそれはまだ4月のことで、
ひと月も経っていなかった。
二人が
遠慮がちでぎこちなくて
お互いにお互いのことを
そっと包み込もうとしていたころ
すべてが新鮮で
やっと歩き始めた二人が
いちばん美しい季節を過ごしていた頃のこと。
あの日のような大粒の雨の降る日。
ガレージで聞く雨の音が好きだった。
コンプレッサーを出してZの超扁平タイヤに空気を入れてみた。
「2.2KPa。」まだ憶えていた。
それからガレージの扉を少し開けて雨を眺めていた。
ルマンブルーのZはあの日の雨の色に似ていると思った。
「季節」
花曇りの昼下がりのこと。
二度目に君を乗せて海峡を渡った日のこと。
約束の時間に君を迎えに行って
それから西に向かった。
スキニーフィットのジーンズが
スリムな君によく似合っていた。
とても素敵だと思った。
駅ビルの駐車場にZを停めたこと。
パラパラと雨が降り始めていたこと。
昼食を食べて、アーケードをぶらぶらしたこと。
デパ地下でマカロンを買ったこと。
君が食通だとわかったこと。
洒落たカフェでケーキを食べたこと。
それからZに戻って帰路についたこと。
すでに大粒の雨が落ちていたこと。
街がたそがれ時のように暗かったこと。
ハイウエイが土砂降りだったこと。
大パワーのFR車。
Zにとって最も苦手な路面状況だと思ったこと。
それでもZは結構なスピードで平気で走ってくれたこと。
君が不安にさせないように走ってくれたこと。
途中のPAでマカロンを食べたこと。
フロントガラスを打つ雨の音を聞きながら。
雨上がりの空に虹が見えたこと。
夕日浴びながら、ルマンブルーのZが疾走していたこと。
まだ明るいうちに君を送り届けることができたこと。
夢中で過ごした一日が無事に終わってホッとしたこと。
断片的な記憶を二人で紡ごうとしたこと。
「来週も大丈夫?」
と聞いてしまったこと。
「うん。もちろん。」
と、声を弾ませて応えてくれた君のこと。
君とまだつながっていることが何よりも嬉しかった僕のこと。
それから
そんなことが
いつの間にか当たり前になっていったこと。
金曜日の夜
スタンドに行ってZに給油し空気圧を調整する。
それから君にメールした。
土曜日の午後
ルマンブルーのZで君を迎えに行く。
一緒に行き先を決めて
一緒に景色を見て、
一緒にディナーのことを考える。
夕焼けの空を見て
センチメンタルな気持ちを共有して
君が注文してくれて
君が取り分けてくれる。
コーヒーとケーキも君次第だった。
僕にできることは
今日中に君を送り届けること
そんな暗黙の約束がすっかり出来上がっていて
そんな週末を過ごせることが
僕は
嬉しくてたまらなかった。
でもそれはまだ4月のことで、
ひと月も経っていなかった。
二人が
遠慮がちでぎこちなくて
お互いにお互いのことを
そっと包み込もうとしていたころ
すべてが新鮮で
やっと歩き始めた二人が
いちばん美しい季節を過ごしていた頃のこと。
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