眠りの魔法の使い方~運び屋の魔法使いは催眠魔法で世界を生きる

ふる

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あなたは誰をゾンビにしたのですか? 2

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「なにしてるの?」



「うわぁ!」



 目の前に現れたアッシュに声を掛けられて、アンリは声を上げた。



(び、びっくりした。)



 先ほどまでアンリはアッシュの尾行をしており、アンリとアッシュの間にはそれなりの距離があったはずだ。



 それに、アッシュがアンリの方に向かってきたなら、アッシュの監視をしていたアンリが気づかないはずがない。



 それにもかかわらず、いつのまにかアッシュはアンリの目の前に立っていた。



 (さっき少しだけ気が遠くなったから、それで気がつかなかったのだろうか?)



「なにしてるの?」



 アッシュが質問を繰り返した。



「あ、あああの。」



 とっさに言うことが見つからず、アンリはしどろもどろになった。



(どうしよう、跡をつけてきたなんて言えないし。)



「……」



 慌てて何も言えずにいるアンリに対して、アッシュはじっとその様子を見ていた。



 そしてアンリが答えに窮しているなか、アッシュは静かに口を開いた。



「アンリは頭がいい人?」



「えぇ?えっと、どうだろう。」



 アンリは質問の意図がわからなかった。頭の良さなんてきいてどうするつもりなのだろう。



 アッシュはじっとこちらを見つめている。



「たぶん、普通くらいじゃないかなぁ。」



 何かを答えないといけない雰囲気に気圧されて、アンリはあいまいな返事をした。



「ふーん。」



 アッシュが気のない声を出す。しかしながらその目はアンリを捉えたままだ。



「……」



「……」



 無言の時間が続く。



(気まずい。)



 アンリはアッシュの跡をつけていたという後ろめたさを感じていたし、さらに、アッシュと会ったゴジの様子がおかしいことから恐怖を感じていたため、何も言えずにいた。



「僕がゴジと会ってたの、見てたよね?」



「そ、そうかなぁ。」



「アンリはゴジの様子を見てどう思った?」



「えっと、どうって言われても。」



 アンリは何も見ていないと言いたかったが、アッシュはアンリがゴジを見ていたことを断定してゴジの様子を聞いてきた。ごまかすことはできないだろう。



「えぇっと、ゴジの様子は~。えぇっと、少し風邪とか引いてそうだったかな。あと、眠そうな感じがするようなしないような感じに見えたり……」



(ゴジの様子がおかしいとは言っていないし、アッシュのほしい答えになっているだろうか。)



 アンリはそう考えながらちらっ、と様子を窺うようにアッシュのことを見た。



 アッシュは先ほどと変わらず無表情だ。表情からはアッシュが何を考えているのかわからない。



「ゴジの様子はいつもと違かったと思う?」



「うう~ん、あんまりゴジのこと知らないし~。」



「……そう。」



 アンリはその瞬間にぞっとした。かすかな違いだったが、アッシュの声色が低くなったからだ。



 反射的にアンリは声を出していた。



「ちょっとまって!そう!ゴジはいつもあんな感じだったよ!あんまりアイツのこと好きじゃなかったから会ったりしなくて忘れてただけで。そういえば前からああいう感じだったよ。」



「そう。」



「う、うん。」



「僕もそう思う。いつもあんな感じだったかもね。」



 アッシュの声が戻ったように感じる。その声にはアンリに対する悪意は感じられなかった。



「うんうん。そうだよね。」



 アンリはアッシュの言葉にウンウンと激しくうなずき、心の中でため息をついた。



(前からゴジの様子は変だったということにしたいのだろうか。)



 よくわからないけれど、助かったようだ。



 アッシュはアンリから目線を外して、アンリに背を向けた。そして、



「そっちが何もしないなら僕はなにもしない。けど何かあったらゴジよりもひどい状態にするから。」



 そう言い残してアンリの傍から去っていった。



 アンリはその場で立ち尽くしていた。



 再びアッシュの跡をつけようなどとは思えなかった。



(やっぱり、ゴジのことをあんなふうにしたのはアッシュなんだ。)



 そう考えて、あらためて恐怖を覚える。よく考えれば、昨日アッシュと出会ったときにゴジと同じ状況にされてもおかしくなかったのかもしれない。



(もうアッシュには近づかないようにしよう。今までイジメに参加したりしたけど、そんなことももうやめよう。)



 アンリは逃げるようにその場から離れて行った。











 それからしばらくして、アンリは学校にたどり着いていた。



 アンリはアッシュとあった場所から逃げたものの、父親がいる家に帰る気にもなれず、とりあえず学校に行くことにしたのだった。



 先ほどまでは心が落ち着かなかったが、学校で時間を潰していると心が落ち着いてくる。



 友達と雑談をしたり勉強で他のことを考えられるので、学校に来てよかったとアンリは感じていた。



(けど……。)



 アンリは学校にある図書室の方へ意識を向けた。



 そこにはおそらくアッシュがいるはずだから。



 アッシュは学校に来ない日もあったが、基本的には学校に来ていることが多かった。そして、教室に来ることはなくいつも図書室ですごしているようだった。



 アンリは父親から暴力を振るわれたときに、学校でアッシュの姿を探すことが多かったため、アッシュがよくいる場所を知っていたのだ。



 アッシュが学校に来ているとしたら、いつもどおりなら今日も学校の図書室にいる可能性が高い。



 アンリのいる教室と図書室は離れているため、アンリがアッシュと鉢合わせになる可能性は低い。しかしながら、それでもアンリは不安を感じざるをえなかった。





 そして、落ち着かないまま学校が終了してから、アンリは一目散に学校を飛び出した。



 幸い、アンリはアッシュと会うことはなかった。そのことにアンリは安堵した。



「はぁ、助かった。」



 このままアッシュと出会わないように気を付けていれば、なんとか今後も過ごしていけるだろう。



 そうして、アッシュとの関係に一段落をつけられたと考えたアンリは一瞬明るい顔をした。



 しかしながら、それは長くは続かなかった。それは、家のことに考えを巡らせる余裕ができてしまったためであった。



(家に帰りたくないなぁ。今日のお父さんは怒ってないだろうか。)



 ビンで殴られそうになったからとはいえ、昨日は家を飛び出してからそのまま家に帰らずに過ごしてしまった。



 そのことでさらに怒ってないといいのだけど。



 せめてお母さんが家にいてくれたら、私をかばってくれなくてもまだ心が軽くなるのに。



 家での苦しい時間を想像して、アンリは胃が痛くなるような気がした。



(このままずっと家に着かなければいいのに。)



 そんな妄想をしながら、できるかぎりゆっくりと歩いたはずなのに、いつのまにか家の前までたどり着いてしまった。



 外から見るかぎり家は静かだ。



 アンリはおそるおそるドアを叩いてから、



「ただいま。」



 と言ってゆっくりとドアを開けた。



 (叶うなら、お父さんがゴジのようになってしまえばいいのに。)



 そんなことを思いながら。
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