眠りの魔法の使い方~運び屋の魔法使いは催眠魔法で世界を生きる

ふる

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あなたは誰をゾンビにしたのですか? 1

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(アッシュはどこに行くつもりなんだろう)



 アンリはベンチから去っていったアッシュの跡をつけていた。



 アンリの視線の先で、アッシュはトレイとコップを持ってゆっくりと歩いている。



 アッシュの動きはゆっくりとしているが、足取りには迷いがない。



 周りを気にするような素振りもないため、おそらくアッシュにとっては日常的なことなのだろう。



 アンリはアッシュに見つからないようにするため、できる限り物陰に身を寄せてアッシュを見ていた。



 そして、しばらくアッシュの跡をおっていると、アッシュはある家の前で立ち止まった。



(あれってアッシュの家じゃないよね。誰の家だろう?)



 アンリが不思議に思っている中、アッシュは家のドアをコンコンと叩いた。



 少しすると、ガチャリと音を立てて家のドアが開く。



 ギ、ギ、ギ



「……」



 ひどくゆっくりとドアを開けて、何も言わずに家から出てきたのは一人の男の子だった。



 アッシュの友達だろうか。



 男の子の顔は暗く、生気がない顔をしていた。アッシュと雰囲気が似ているような気がしなくもない。



 男の子は足を引きずりながら2歩ほど進んでアッシュの前に立った。



「……」



 それでも男の子は何も言う気配がない。



 同じく何も言わずに、アッシュは手に持っていたトレイとコップをその男の子に差し出した。



 男の子はトレイとコップを受け取ると、ゆっくりと向きを変えて、再び足を引きずりながら家に戻っていった。



 開いたままの扉をアッシュが静かに閉める。



 アッシュと男の子のやり取りは終了したようだった。



 その間、アッシュと男の子は挨拶どころか、会話すらもしなかった。このやり取りをみて2人が友達だと思う人はいないだろう。



 友達じゃないなら何なのだろうか。アッシュに食事を渡しているだけの関係なのだろうか。



(そんなばかな。)



 そんな歪な関係があるとは思えない。



 アンリはどこかでその男の子を見たことがなかったか記憶を辿った。



 そして、アンリの脳に一人の男の子の姿が浮かんできた。



(もしかして、あれはゴジだろうか?ありえない。)



 アンリは驚愕した。その男の子はアンリの友達ではないが、知っているゴジという男の子であった。



 アンリが知っているゴジは粗暴で悪知恵が働いて、周りの子をよく引き連れているような男の子だった。



 良く言えば周りを引っ張るリーダーのような存在だったが、悪く言えば暴力で他の子を従えたり、自分を中心にしないと気が済まないような、リーダーというよりはボスという感じの子どもだった。



 そしてアンリは、アッシュがゴジの家を訪れたことが信じられなかった。



(ゴジがアッシュの友達のわけがない。だって……)



(だって、アッシュのことを一番いじめていたのはゴジだったから。)



 そう、アッシュは子供のころからいじめにあっていたが、そのいじめの主犯格がゴジだったのだ。



 アッシュにとってはむしろ一番会いたくない人物のはずだろう。



 それにもかかわらず、なぜアッシュがゴジの家に行ったりするのか。



(それに、ゴジの様子は明らかに変だった。)



 アンリの記憶にあるゴジは、一言で言えば悪ガキというのが似合う人物だった。一方で、今家から出てきたゴジの様子は悪ガキとは正反対の人間に見えた。



 実際、アンリはこの半年ほどゴジの姿を見た記憶がなかった。しかしながら、半年程度であんなにも変わってしまうものなのだろうか。



(あんなに元気だったゴジが、まるでゾンビみたいになってしまうなんて。)



(……?)



 ふと、アンリの脳裏になにかがよぎった。



 そういえば、あのゴジの様子は昔に見たことがある。



 あれは……



(あれは昔のアッシュだ。)



 あの生気のない顔、運動ができなくて引きずるようにしていた足の動かし方など、ゾンビと呼ばれていた頃のアッシュにそっくりなのだ。



 そして、アンリの中で考えが次々に浮かび始める。



 それはつまり、ゴジをかつてのアッシュのようにしてしまったのは、おそらくアッシュの仕業ということだった。



 それならばアッシュがゴジの家に行ってもおかしくはないだろう。



 相手がゾンビならアッシュに危険はないのだから。



 アッシュはゴジをゾンビのようにして、自分の操り人形のようにしてしまったのだ。



 どうやってそんなことができるのかはわからないが、アッシュはいつも怪しげな魔法の本を持ち歩いていたし、なにか危険な魔法を覚えていてもおかしくはない。



 アンリは自分自身も昨晩、アッシュから催眠魔法を掛けられたことを思い出していた。



 アッシュはゴジのことを恨んでいただろうし、ゴジへの復讐として昔の自分と同じようにしてしまったのではないだろうか。



 そして、自分の復讐を果たすついでに、自分の食事を用意させるようにしたのではないだろうか。



 アンリは自分の考えにつじつまが合っていると感じていた。



(けれど、ゴジにだけ魔法をかけたのだろうか?)



 もしもゴジにだけ魔法を掛けたなら、おそらくゴジの両親が気づいてゴジのことを治そうとするだろう。



 仮に治らなかったら、騒ぎになってアンリや他の人も知っていたはずだ。



 つまり、アッシュに魔法を掛けられたのはゴジだけではないのかもしれない。



 アンリはゾッとして身を震わせた。



(もしかすると、ゴジの両親もゾンビのようになっているのかもしれない。それどころか、アッシュをいじめていた他の子や……その子の両親……も?)



 そんなことを考えているなか、アンリは不思議な感覚に襲われた。



 それは突然意識が遠のくような、眠りに落ちてしまうかのような感覚だった。



 しかしながらその感覚は一瞬だけで、すぐにアンリの感覚は元に戻った。



(今のはいったい?)



 アンリは戸惑いながら頭を振った。



 そして頭を振って目を開いたとき、アンリの目の前にはアッシュが立っていたのだった。
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