眠りの魔法の使い方~運び屋の魔法使いは催眠魔法で世界を生きる

ふる

文字の大きさ
15 / 30

あなたは誰をゾンビにしたのですか 7

しおりを挟む
「そう。じゃあ行こうか。」



 アッシュが家に入っていくのに続いてアンリも家に入る。



 そして、そこでアンリが最初に見つけたものは、床に転がったイスと床に散らばるように割れた皿の破片だった。



(ひどい。)



 お父さんは家にあるものを手あたり次第に壊していったのだろう。そう思えるほど、家は荒れており、そこらじゅうにモノが散らばっていた。



「お母さんはあそこにいるみたいだよ。」



 アンリは壊れた物に目を奪われていたが、アッシュの言葉にハッとしてアッシュが示す方を見た。



 そこはアンリが見ていた床とは対角線にある場所で、投げ倒された家具が多く溜まっている場所だった。



 そして、割れた皿などに覆われるようにして、横倒しになったアンリの母親の姿が見えた。



「お母さん!」



 アンリは急いで母親のもとへ駆け寄り、母親の体にかぶさった破片を振り払った。



 アンリの母親は椅子に縛られた状態で倒されており、顔には何度も殴られたような痕が見えた。



「お母さん!大丈夫!?」



 肩を揺さぶって呼びかけるが、返事はない。



 本当に生きているのだろうか。アンリの不安はどんどん大きくなっていく。



「落ち着きなよ。眠ってるだけだから。」



 アッシュから声が掛けられる。



「本当に?」



 アンリは母親から目を離さずにアッシュに聞き返した。



 そして、落ち着いて母親の様子を見ると、母親がゆっくりと呼吸をしていることに気づいた。血が流れているようなところもない。



(よかった。生きてる。)



「はぁ~。よかった~。」



 アンリは母親が生きていることがわかると、大きくため息をついてその場に座り込んだ。



「そう。よかったね。」



 アッシュから声が掛けられる。よかったという言葉とは裏腹に、アッシュの声は棒読みだったが、アンリは素直に言葉を受け取った。



「うん。よかった。」



 そして、改めて母親の様子を見て、イスに縛られて倒されている状態を解放しようと考えた。



(このままだとかわいそうだ。けど、どうしよう。まずお母さんを縛っているヒモをどうにかするべきだろうか。)



 アンリはヒモの結び目をほどくために指に力を入れた。しかしながら、硬く結ばれたヒモはびくともしない。



 身近にヒモを切れそうなものもなく、アンリはアッシュに声を掛けた。



「ねぇ、ナイフとか持ってない?ヒモを切りたいの。」



「あるよ。」



 アッシュはポケットから折り畳み式のナイフを取り出してアンリに渡した。



「これなら切れるはず。」



 アンリはナイフを受け取ると、母親の体を傷つけないように注意しながら、ヒモを切っていった。



 ぶつん、ぶつんと、ヒモの繊維が切り裂かれ、ヒモが緩んでいく。そして、ヒモが完全に切断されると、



 どさりと、アンリの母親の体が椅子から解放されて床に落ちた。



 アンリはお母さんが床に落ちてケガをしなかったか慌てた。床にはガラス片などが散らばっているのだ。



(この場所じゃだめだ。どこか安全なところに寝かせないと。)



 そう考えたアンリは母親の体を動かそうとした。しかしながら、一人で大人を運ぶ力はない。



「助けてアッシュ。お母さんをベッドに運びたいの。」



 ベッドに寝かせればこれ以上体が傷つくことはないはずだ。そう考えて母親の両脇に手を入れて上半身を持ち上げる。



 その様子を見て、アンリの近くに寄ってきたアッシュは両足を抱えた。



「じゃあいくよ。」



 そう掛け声をかけて、2人で体を持ちあげる。しかしながら2人ともあまり力がないので、母親の体をわずかに持ち上げるだけでもやっとという感じだ。



「ねぇ、ベッドに運ぶならあっちの部屋がいいと思うよ。」



 大人の重さにふらつきながら、アッシュがアンリに言った。



「え、なんで?」



 アンリに浮かんだのは疑問だった。



 この家には、今いる居間とは別に2つの部屋があり、1つはアンリと母親が使っており、もう1つの部屋は父親が使っていた。



 そして、アンリが母親を運ぼうとしていたのはもちろん、自分達が使っている部屋だったが、アッシュが示したのは父親が使っている部屋だった。



 アンリの疑問はもっともなモノだった。そして、アッシュの答えは簡潔だった。



「もうひとつの部屋の方には君のお父さんがいるから。」



「そんな。」



 アッシュの答えをきいて、アンリは恐怖を感じた。一体、私達の部屋で何をしていたのだろうか。



 アンリは正直なところ、父親の部屋に入りたくないと考えていた。また、お母さんにとっても目が覚めた時にお父さんの部屋にいるのはよくないだろうと思っていたのだ。



 しかしながら、自分達の部屋にお父さんがいるなら話は別だ。しかたなく、アンリは母親を父親の使っている部屋に運ぶことにした。



 父親の部屋は意外にも荒らされていなかった。



 空いた酒瓶が何本かあり、キレイというほどでもなかったが、モノが散らばっていたりはしない。ベッドも危険はなさそうだ。



 アンリとアッシュは息を合わせて母親の体をベッドに乗せた。



 仰向けになった母親の姿は痛ましいものだったが、少なくともこれ以上ひどくなることはないだろう。



 アンリの母親は身じろぎをすることもなく、苦しそうな顔もせず静かに眠っている。



 アンリは、母親の安全をある程度確保することができたと感じて少し安心した。



 そして、アンリは自分を鼓舞するように自らの両手をパン、と打ち付けると、次にやるべきことに目を向けることにした。



(私達の部屋に行かなきゃ、そして、お父さんをどうにかしないと。)



 アンリが部屋を出ると、アッシュはすでにアンリ達の部屋のドアを開け放ってアンリを待っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます―― 金さえあれば人生はどうにでもなる―― そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。 交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。 だがその力は、本来存在してはいけないものだった。 知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。 その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在―― 「世界を束ねる管理者」 神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。 巻き込まれたくない。 戦いたくもない。 知里が望むのはただ一つ。 金を稼いで楽して生きること。 しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。 守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。 金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる 巻き込まれ系異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...