無償の愛【完結】

あおくん

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13.親の心_視点変更

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アレンとレインが出かけ、店にはインディングとサリーナが残る。

少し前までは当たり前の光景だったはずなのに、アレンがやってきてからは店内に2人のこの状況は少し寂しく、店が広く感じられた。



「さーあーてっ」



と肩を大きくまわして、準備に取り掛かるインディングとサリーナは、自分達の息子レインの様子を思い出す。



「あの子があそこまでアレンの事気にいるとは思わなかったわ」



ぼそりと呟かれた言葉にインディングは頷く。



「ああ…アレンは男のように髪が短いが、それでも可愛いし、それに素直だから、兄として受け入れるだろうとは思っていたが…」



まさか自らの子として養子縁組したばかりのアレンに、帰ってきた実の息子が一目惚れをするとは思わなかった。

と語るインディングにサリーナはそうねと肯定する。



「まぁ血が繋がっていないから、結婚は問題ないわね。

それに魔力量も鍛えているレインがいるから安心だとして…、問題なのは可愛いアレンを狙うのがレインだけじゃないってことよ」

「そうだな」

「あなたも知ってるでしょ。うちに来るお客さんにもアレンのこと、デレデレした顔でみている男がいること。

まぁうちの店の客だから悪い人じゃないけど、それでもアレンに無理に迫る様なことがないように目を光らせて_」

「おい、誰だ。そいつ」

「え、気付いてなかったの。本当に?」

「………」



黙るインディングにサリーナは目を瞬かせた。

まるで信じられないとでもいった様子である。



「それより、レインは大丈夫かしら…」



思い出すのはこの国の結婚事情を伝えたときのアレンの反応である。



レインのように顔を赤らませる様子もなかったアレンには、レインの気持ちが一切伝わっていないことも、レインを意識していないこともわかった。

つまり恋愛というものに対して未熟だとわかったからこそ、息子の心情を考えるとなんともいえない。



アレンには「血の繋がりがなければどんな人とでも結婚できる」と簡単に伝えたが、実際には”子供を作ることができる相手ならどんな人でも結婚できる”だ。



子供を作るには魔力が必要であり、体内に魔力を送りこめること、そして魔力量が大きければ大きいほどに優秀な子供を作ることが出来る。

つまり魔力量が低い者でも、相手が魔力量が多ければ問題ないということだ。

だが、魔力量がいかに大きくても、血の繋がりがあれば子供を作ることが難しくなる。



貴族の中には、その一族の血を重んじる者が多く無理をしてでも同じ血族で子を成そうとしていた。

だが上手くいかず、やっとの思いで生まれた子供は五体満足ではなかった。

また見た目では普通の子となんら変わりなく見えても、魔力欠乏など見えない障害を持つ子が相次いで生まれたのだ。



だからこそ婚姻には血の繋がりが無いことが前提とする。と法で決められた。



ちなみに魔力量が少ないもの同士だと、子供を作ることが見込めない為、身分が低い平民でも結婚をすることが認められない。

とはいっても本当に愛し合っている者同士は、結婚という形に拘ることなく共に寄り添ってはいるが、そう何人もいない。



サリーナは例えアレンにそういう感情が芽生えていなくても、少しでもレインに意識を向けてあげようと考え、「どんな人とでも結婚できる」と伝えたのだろう。

息子の_レインの_応援はしたいが、きっとアレンは仕事が慣れないうち(自分達にとっては十分すぎる程やってくれるが、向上心や責任感のあるアレンには本当の意味で伝わらないだろう)は恋愛はきっと二の次になるだろう。



だが「恋愛はするものじゃなくて、いつの間にか落ちたほうが燃えるというものよね」とサリーナが笑う。



「娘が出来たらよそにやりたくないって言ってた男の人の気持ちがわかるわぁ」



と呟くサリーナに、時間を置いて肯定した。



アレンを初めて見た時、その栄養失調の姿はなんだという疑問、そして同情する気持ちを抱いたのと同時に、まだ親の助けが必要な子供なのにと、姿もわからない相手への不快感と怒りが沸き上がった。

そして記憶を失っていることを知り、この子を助けなければという思いに駆られた。



今でもそれは同情からだったのか、わからない。

それでもアレンを自分達の子にしたことへの後悔はない。

それどころか、毎日を楽しそうに送るアレンの姿を見るたびに、レインを想うような愛おしい気持ちを感じる。



だからこそ思う。



「…そうだな」



レインの恋愛事情も親としては気になるが、それよりも気になるのはアレンの事だ。

拾った日にも2人は話したが、あまりにも華奢すぎる。

今は初日に比べかなり肉がつき健康的にはなったと思うが、それでも足りない。



一体記憶を失う前はどんな生活をしていたのだろうか。



それでもアレンにとって良くない生活だったのは容易に想像できた。

そうでなければ、あれほどに痩せたりしない。

頭を撫でただけで、笑みを向けただけで、共に食卓を囲んだだけで、まるで初めて優しさに触れたような…、涙で目をいっぱいに潤ませ、心底嬉しいと感じているのにどうすればいいのかわからず戸惑うような表情など、けっしてしない。



アレンからも、森で目を覚ましたと聞いている。

役所からも住人として登録されていないと伝えられたアレン。



「……っ」



何が理由で捨てられたのか知らないし、そんな身勝手な理由などわかりたくもない。



子供に食べ物を満足にも与えず成長を妨げ、靴も履かせずに、更にはなんの装備もないまま魔物の住む森に放置するとは…、考えただけでも腹が立つ。

アレンに、_ここに尋ねてくる可能性は限りなく低いが_、その最低な親が尋ねて来たとしても、もうアレンは俺たちの子供だ。

何があっても絶対に手放さない。



ギリと食材を持つ手に力が入り、すぐに緩ませた。



頭を振りインディングは気持ちを落ち着かせていると、ふと聞こえたのはサリーナの息子の初デートを心配する声。



「レイン、ヘタレてないといいんだけど…」



そのサリーナの一言に思い浮かぶのは、アレンを前にすると顔を赤く染め挙動不審になる実の息子の姿。

初めての恋なのか、洗面台に頭をツッコんで水を頭からかぶる息子の様子に、一緒に寝させるのは早すぎたか?と心配にもなるが、それでも朝から初々しい姿に和ませてもらった。



でも、あの調子でリードなど出来るのだろうか。

俺だってサリーナとの初デートは緊張したが、ちゃんと出来た。筈。と不安な思いを振り切るように頭を振った。



「…………大丈夫だろう」



そういったインディングの声は、とても頼りなかった。

そして2人は願う。

どうか、レインに強敵なライバルが現れませんように、と。









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