無償の愛【完結】

あおくん

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14.プレゼント選び

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町に出掛けたのは初めてじゃない。

パン屋やお肉屋さん、果物屋さんに八百屋さん。

色々なお店を教えてもらって、お義母さんと一緒に何度も出掛けていた。



だけど今日のようにお店の用事以外で町に出たのは初めてだった。



窓ガラスにまるで人が着ているかのように並べられている洋服に目を奪われる。

服屋さんも、お義母さんが私にと買ってきてくれていたけれど、お店自体に入ったことはないと思い返す。



「あそこは大きめの服を取り扱っているけど、…アレンにはまだ早いよな」



別に欲しいと思ったわけではないけれど、そう思われるほどに見入っていたのだろう、にやりと意地悪な顔を向けるレインに、思わず頬を膨らませてしまう。

まだ会って間もないというのにこんな気軽な対応ができるのは、レインの人柄のお陰なのだろう。



「むぅ…年も変わらないって聞いてるのに、レインはなんでそんなに大きいのさ」

「ハハハ!アレンももっと食えばすぐ大きくなるよ!」

「いっぱい食べてすぐ大きくなるから!…っと、あそこは?」



目的が違うと見慣れてきた町でも違ってみえるもので、普段目に入らないような店に良く目が行った。

その都度レインから教えてもらっていたが、一階部分しかない平屋の建物の窓から見える数々の品物が興味をそそり、私は横に並ぶレインを見上げた。



「あそこは雑貨屋だな。雑貨屋、知ってるか?」

「うん、色々な物を売ってるところだよね」

「行ってみるか?」

「いいの!?行きたい!」



喜ぶ私にレインは耳元で「あそこの店の店主こえーんだぜ?」と小さく囁く。



「えっ」

「顔だけな!でも子供には優しくて、俺よく飴玉とか貰ってたんだ」



思わず体が強張るが、その後に告げられた言葉に安堵して体から力が抜ける。



「もう、怖がらせないでよ」



この町は綺麗な丸ではないが楕円形に近い形で壁に覆われている。

町の中心部には貴族区という場所で、平民の私達はその周りで暮らしていると教えて貰った。

貴族の家は今見ている家や店よりもずっと大きい建物ばかり。

縦に大きいだけじゃなくて横にも広いその建物は、城やホテルという言葉が当てはまるなと心の中で思う。

そんな貴族の家でも一際大きい建物が、この町を納めている貴族らしい。

これまた立派だ。

家…いや城を囲む柵も凄く凝ってる気がする。

遠くて見えないけど。



ちなみにこの町を囲んでいる壁は、魔力量の多い貴族たちが魔法を使って作ったものらしく、壁のメンテナンス等も定期的に行われているから皆安心して過ごせている。

どうやってこの高い壁を作ったんだろうと思っていたけれど、魔法って便利ねと思った。

お義母さんやお義父さんの話では私も魔法が使えるらしいけれど、まだ使ったことがないから実感がない。

でも魔法が使えるようになったら、人の為になるような魔法を使えたらいいなと思っている。



あ、そうそう。

貴族区にある複数の大きなお城に対し、町を納める貴族って一族なイメージがあった私は「この町は沢山の貴族が納めているの?」と尋ねた。

私の質問に対し「町を守っている第二騎士団や第三騎士団の住居もこの貴族区にあるんだ」とレインが教えてくれた。



レインによると第二騎士団は主に町の中と壁の外を見回りし、第三騎士団は町の門番を担当しているらしい。

ちなみに第三騎士団と第四騎士団という括りはあるが、それぞれに団長という立場はい。



「え?それじゃあ誰がまとめてるの?」

「地域の第二騎士団だよ。第二騎士団っていっても地域ごとで別れてるんだ。この町だとイヴェール地域を取りまとめているヴォルティス隊長がそうだな」

「そうなんだ」



あとこの町の貴族区は基本的には平民の出入りは禁止だけど、お呼ばれがあれば平民でも貴族区に入ってもいいそうだ。

お呼ばれなんてあるのだろうかと思ったが、騎士の中には平民も結構いて、恋人を招待したい為、貴族区へ招き入れる者がいるそうで、そういうことは意外とあるらしい。

町を守ってくれる騎士に好意的な感情を持つ人は多いと聞いているし、私だってあの怖い魔物から守って貰えてるって思っただけで、最初感じていた門番さんへの恐怖心もどこかいったもの。

その上でひょんな出会いをしたらきっと恋に発展するよね。きっと。



あと年に一度闘技会が行われているらしく、この日ばかりは貴族区への平民の出入りも自由_歩き回れる場所は限られているが_とのことで、レインに騎士になれたら見に来てくれと誘われた。

どうやらこの町だけじゃなく、王都から始まり各地の町で闘技会が行われているらしい。

闘技会は、力試しと余興が目的で、参加者は一般からでも参加は自由ではあるが、褒美がもらえる大会では優勝者は騎士の誰かで定番らしい。

魔術師よりも強くなければ騎士になれないから当然といえば当然だよね。



そして非公開ではあるが、騎士志望の見習いから騎士に昇格するための試合も行われるらしく、今レインはこの大会を目指して日々鍛錬を行っているらしい。

通常は五年程見習いを続けていれば魔術師、力のあるものはさらに上の騎士になれるのだが、闘技会での優勝且つ第一騎士団と第二騎士団長全てを納得させた者は騎士として昇格できるという。

実際早い段階で騎士になった人もいて、レインはその人の事を尊敬していると嬉しそうに話していた。





話は町に戻して、貴族区を中心に十字の大きな通りがある。

王都がある方角から時計回りに第一通りから第四通りとされている。

私の家でもあるイートは第四通りに位置していた。

ちなみに町を管理している貴族が物価の調整も行っているから、各通りごとにあまり格差はないらしい。

なるほど。確かに通りごとでかなりの差があったら、移り住む人もいるかもしれないしね。

ふんふんとレインに教えて貰いながら歩く。



「せっかくだし、どっかで昼飯買うか」

「なら私コクリ君のパン屋さん行きたい!お義父さんの買い出しでは利用してるけど、個人的に買ったことないんだよね」

「コクリに会ったんだな!」

「うん!お義父さんに連れて行ってもらったの!」



じゃあそこに行くか。とコクリ君のお店に向かうレインを止める。

何故止めたかというと、今私達がいる場所は雑貨店や飲食店などがかたまっているからだ。



「あのね、…お昼ご飯の前に私、お義母さんとお義父さんに何か買いたいんだけど、…いいかな?」

「父さんと母さんに?…そういえばさっきの雑貨屋でも父さんと母さんの好きそうなものは何だって聞いてたな」



首を傾げるレインに私は答える。

口にするの恥ずかしいけど。



「私、お義父さんとお義母さんに本当に感謝してるんだ。

お義母さんにあってなければ、この町にも入れなくて、今頃どうなっていたかわからない。お義父さんが許してくれなかったら住むところもお金も困ってた。

だから、…だからお義父さん達はお小遣いって言ってたけど、私にとったら“給与”で、初めての給与で二人になにか贈りたいんだ」



恥ずかしい…。

お金と共に手渡された財布を持つ手に、少し力が入る。



「そうか」



一瞬お義父さんと声が似てて、思わず顔を上げるとレインが優しく微笑んでいて、少し照れ臭かった。

なんか、見た目は勿論違うんだけど、お義父さんに直接伝えているみたいな感じがする。



「アレンのそういう気持ち、二人ともすごく嬉しいと思うよ。特に母さんは」

「そ、かな…そうだと私も嬉しい」

「息子の俺が言うんだ。間違いねーよ。じゃあ昼飯の前に買いに行こうぜ」



嫌な顔もせずにレインは笑顔で受け止め、私の手を引いた。

キラキラとしたガラス製品を取り扱うお店や、衣類を取り扱うお店、陶器等を扱うお店など沢山あって目がまわりそうだ。



「可愛いお皿…、でもお義父さんのこだわりとかわからないしなぁ」



お店で使っているお皿を思い返しても、特にこだわりはなさそうだけども、意外なところでこだわっていたら気に入ってもらえないことがあるかもしれない。

お皿を手に取ってみている私に、レインは溜息交じりに言った。



「てかそれ、父さんにっていうか店の客に対してのプレゼントになっちゃわねーか?」

「あ、確かに」



言われてみてその通りだと思った。

じゃあ何にすれば…ときょろきょろと見渡すと、お義父さんに似合いそうな色合いのエプロンが目に留まる。

深い海を表すかのようなその色は、赤茶色の髪の毛をしているお義父さんによく似合うかもしれないと、入口にかけられてるエプロンに手をかけると丁度お店の人が出てきた。



「気に入ったか?…でもお前さんやそっちの嬢ちゃんにもちっと大きいみたいだが…」

「あ、いえ!私が使うんじゃないんです!お義父さんにプレゼントしようかなと思っていて…」



自分にではない事を伝えると、お店の人は納得してくれたらしく笑みを浮かべる。



「そうかそうか。いい娘さんをもったな。で、お前さんは料理をしてんのか?」

「あ、いえ、料理はしてませんが…、食器洗いをしているだけで…」

「フォッフォッフォ、それでもキッチンにたってるってことに変わりなかろう。少し色が違うが、アンタくらいの子供でもピッタリのサイズもあるんじゃ」

「え?あ、あのっ」



戸惑う私にレインが笑う。

その場で少し待っていると、お店の奥の方から商品を引っ張り出してきたおじさんが手に広げて見せてくれた小さな青いエプロン。

私が付けるには少し大きめだけど、今手に取っているエプロンと同じような色のエプロンを見て、少しだけど心が躍った。

思わずお義父さんとお揃いのエプロンをつけているところを想像したから。



「このエプロンをその料理人にプレゼントするんじゃったら、これをお前さんにやろう」

「え、でも…」

「いいんじゃよ。最近じゃ騎士を目指す子たちが多くてな、特に子供のうちに料理人を目指すやつなんかもうだいぶ少なくなって、子供用は売れんのじゃ。

それに、揃いのエプロンはそやつも喜ぶと思うぞ?」



騎士を目指す子というところで苦虫を噛み潰したような顔をするレインに少し笑いそうになったが、それよりもお義父さんも喜ぶという言葉を聞いておじさんの提案に頷いた。



「じゃ、じゃあ…これください」



色は多少違うが、どちらも無地で、同じようなところにポケットがあるからお揃い感は十分にあった。

喜んでくれるかなと想像するだけでにまにまと頬がゆるむ。



「父さんへのプレゼント決まってよかったな」



プレゼントということで綺麗に紙に包んでくれたエプロンを落とさないように両手で抱えるように持ちながら店を後にする。

「じゃあ次は母さんの分だな」とお義母さんへのプレゼントを探すべく、散策を開始する。



脇道の通りの店でもみてみるかと曲がり角を曲がった、その時だった。















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