無償の愛【完結】

あおくん

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16.プレゼントと報告

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ヴォルティスさんとのことで気分転換になったのか、順調にお義母さんへのプレゼントを購入できた。

本当はお昼ご飯をコクリ君のパン屋さんに行きたかったけど、時間が思ったほどなかった為に、適当な場所で買ってベンチに座って食べてから、陽が沈む前にレインと一緒に家に戻った。



お店は閉店していたけど、やっぱり思った通り洗い終えていない食器が積まれていたので、レインにお義父さんとお義母さんへのプレゼントを預けて、私も参戦する為袖を捲る。

厨房に入ると「まったくお前ってやつは…、ありがとうな」とお義父さんに感謝された。

ホールの方からお義母さんの甲高い悲鳴が聞こえてきて、何事かと振り向くとレインがテーブルを拭く姿に、感動して涙を流して震えていたお義母さんがいた。



「っ…サリーナのやつ…感極まって、泣いてやがる」



と声を震わせながら笑うお義父さんに、ああと納得する。



(レイン一度も手伝ったことないっていってたもんね)



その後は感動で泣いていたお義母さんがレインに「四隅もちゃんと拭かなきゃダメでしょ」とか注意する声が聞こえてきて、明日の下準備と晩飯の用意をするお義父さんの横で一緒に笑いながら食器を洗い終えた。



「で、今日はどうだったの?」



拭いて水気を取ったお皿を棚に戻していると、テーブルに晩御飯を並べているお義父さんと、わくわくした様子で目を輝かせているお義母さんに今日の事を尋ねられる。



「うん、レインに色々なお店を案内してもらったり、屋台でお昼ご飯買ってたべたよ。

小さい鳥が近くまで寄って来てくれたりしてね、かわいかったよねレイン!」



ご飯を食べている途中にやってきた小鳥を思い出す。

触れる寸前で逃げて行ってしまったが、本当に近くまで寄ってきてくれた小鳥を思い出しながらレインに同意を求めると、お義母さんがなにやらにやにやとした顔でレインを見ていた。



「ふ~~~~~~~ん、ちゃんと案内できたのね」

「案内くらいできるわ普通に!」

「?…ね、レインあれは?」



お義母さんのレインをからかう様な言動は昨日から見ているので、特に気にせずレインに預けた2人へのプレゼントを尋ねると「階段のところ」と指さして教えられる。

行ってみると丁度店内から見えない位置に置かれてあった為、手に持って皆のもとに戻った。



「あのね、今日レインと一緒にお義母さんとお義父さんへのプレゼント買ってきたんだ」



実際に渡すととても恥ずかしいような照れくさいような何とも言えない気持ちになったが、大きい方をお義父さん、小さい方をお義母さんに渡した。



「これ…」

「うん、2人に、少しでも感謝の気持ちを伝えたくて…」



なんていい子なの!と抱き着いてくる二人に、開封を促して、プレゼントを見てもらう。



「かわいいわね!」



お義母さんには迷ったけど、いつも髪を束ねていることを思い出して髪留めを買った。



「うん!お義母さんいつも笑顔だから、お花似合うかなって思ってお花がついてる髪留めを買ってみたの」

「俺のは、…エプロンか」

「うん。お義父さんって言ったら料理しているところしか浮かばなくて…安直かもしれないけど」

「嬉しいよ、ありがとうな、大切にす…ん?」



包装の中にもう一つあることに気付き、手に広げる。



「あ、それ父さんとお揃いにって店の人に勧められてアレンが買ったやつ」

「…ちょ、ちょっと恥ずかしかったけど、…お揃い」



へへっと笑うとガバっと抱きしめられた。



「あ、あの?!」



無言でぎゅうぎゅうと抱きしめられていると、お義母さんが「感動しているのよ」と横から教えてくれる。

お義母さんは早速髪留めを頭につけて、レインにどうどう?と感想を求めていた。



「父さん、そろそろアレンが潰れる」



レインがいうと、お義父さんはハッとした様子で離れ私の様子を伺った。



「わるい、嬉しくて…苦しかったか?」

「ううん。お義父さんとお義母さんに喜んでもらえたことがわかって嬉しかったよ」



ありがとうと伝えると、それは俺たちのセリフだと笑われながら撫でられる。



「あ、そうだ。二人に伝えなきゃいけない事があったんだ」



プレゼント選びにあった町での事を思い出して告げると「どうした?」「なにかあったの?」と2人が首を傾げながら私の言葉を待っている。



「あのね、明日ヴォルティスさんっていう騎士の方が、閉店後に尋ねにくるって」



そう告げた瞬間2人が石化したかのように固まった後、お義母さんがレインを勢いよく見た。



「ん?なんだよ?」



凝視されている理由がわからず訳を尋ねるレインに



「………はぁ~~~~~~~~~~~~」



と深く長いため息をつくお義母さん。

そしてお義母さんの肩にポンと手を置くお義父さんが小さく頭を左右に振っていた。



「レイン、アレンのいうヴォルティスという騎士は俺たちが思っている騎士で違わないか?」

「ああ、違わないぜ?」



レインの返答にお義父さんは一瞬天を見上げたが、すぐに正常に戻り席に座りなおす。

本当は食事を終えた食器類を下げたかったが、お義父さんの真剣な表情に私も座りなおした。



「それで、何があったんだ?」



何故騎士の方と関りを持つことになったのかを尋ねているだと思い、私とレインは簡単にあの時の状況を話すことにした。



「レインと一緒にお店を見ながら歩いてたら、曲がり角で騎士さんにぶつかったの」



「ベタすぎる展開……これでパンも咥えてたらベッタベタね」と呟いたお義母さんが頭を抱えていた。



「怪我はしなかったか?」

「うん、少しバランス崩して尻もちをついちゃっただけ」



そうか、とお義父さんが安堵した様子を見せる。

うう、心配かけてごめんなさい。



「それでぶつかってしまったのは、私にも責任があるとかで、ヴォルティス団長がお詫びをしたいって事で、アレンを貴族区にある騎士寮に招いてもいいか父さんと母さんに確認する為に明日くるらしいんだ」



レインが続けて事情を説明すると、お義父さんとお義母さんは顔を見合わせて、何とも言えない顔をした。



「どうしたの?」



やっぱり閉店後でもお店を運営する身としては、騎士が立ち寄ることは迷惑だったかと不安になって尋ねると、私の不安を察したのかお義母さんが「違うのよ」と首を振る。



「閉店後っても営業中でも騎士様も立ち寄るお店!って事で箔が付くし、なによりあの評判の高い第二団長様よ!一気に人気が出るわ!」

「だな。うちも従業員募集するか。アレンがいてくれてだいぶ助かったが、これ以上人気に火が付くと店も回らない」



そうね!ならもういっそのこと改築しちゃう?と2人が笑っていたから、ヴォルティスさんが来ること自体には問題が無いとわかり安堵して胸をなでおろす。



「じゃあ何が気になってるんだ?」



2人の様子に首を傾げてレインが尋ねると、お義母さんが身を乗り出してレインの頬をつねった。



「アンタのことでよ!アンタの!」



私は母親として息子のアンタを応援してたのに!と、ついには両手で頬をつねり始めるお義母さんにお義父さんがやめさせる。



「待て待て待て!本当にぶつかった詫びとしてくるだけかもしれんだろ!」

「でもあの堅物といわれる方が!家に!呼んで!しかもわざわざ平民でである私たち両親に!許可を!取りにくるだなんて!」

「真面目だからこその対応かもしれんだろ!」



家じゃなくて、寮だけど…。と思ったけれど寮も帰る家だから、家という表現であってるかもしれないと思いなおす。



それでも2人のやりとりの意味がよくわからなくてレインを見ると、レインも理解できてない表情を浮かべて抓られた頬を手で押さえていた。

うん。痛いよね。

なんで抓られていたのかわからないけど、痛そうだった。

それから2人で内緒話してコソコソしてから、少し落ち着きを取り戻したお義母さんが、席に座りなおし咳払いをする。



「…こほん。まぁ、私はヴォルティス騎士様がここに尋ねてくることも、アレンを屋敷に招こうとしていることも悪いことではないと思っているわ」



だってお店に箔がつくし、うちのアレンかわいいしね!と続けるお義母さんに「そうだな」とお義父さんが頷く。

親の欲目だと思うけど、この場合かわいいはあまり関係ないと思うんだ。

嬉しいけど。



「ただ、ヴォルティス騎士様の出方によっては、私たちは親としてちゃんと話をしなくちゃいけない。

だからアレン、話の流れから一人で部屋で待ってもらうことになるけど大丈夫かしら?」

「一人?」



今はレインもいるから、一人ではないはずだと聞き返すと隣から沈んだような声で教えられる。



「俺が与えられているのは3日間の休暇なんだ、だから今日寝たら明日発たなきゃならない。しかも魔物の出没を避けるために、朝、陽が昇ってからの移動になる」

「そうなんだ…」



折角仲良くなれたと思ったのに、もうお別れだなんて…と気分が沈んでしまっていると、気付いたレインが明るく告げる。



「最初の年は月に1度の帰省が許されてるからさ、来月また帰ってくるよ」

「レイン…、うん!待ってる!」



へへと笑いあっていると、お義父さんとお義母さんが微笑ましそうに私たちをみていたことに気付く。



「今日のうちにちゃんと堪能しておきなさいよ」

「は…、なにがだよ!?」



にやにやとからかい口調のお義母さんに、瞬時に赤くなるレインをみて悩まし気に腕を組むお義母さん。



「うーん、自分がからかわれている事にはすぐ気付くのに、わかってないのは何故かしら…」

「経験がないからじゃないか?こいつみるからに…、あと憧れの感情も邪魔していると思う」

「あー、確かに…」



ちらりとレインを見る2人の視線に気付いたレインが反発している家族の様子を眺めながら、私は空いた食器を片付けたのだった。















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