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31.魔法の練習2
しおりを挟む手を持ち上げられ、私は自分の手のひらをまっすぐ見つめる。
手のひらに光が集まっているイメージ…、明るい光が…、集まってる…イメージ…イメージ…。
む、むずかしい……。
「目を閉じるとイメージしやすい」
ヴォルさんのアドバイスに目を閉じる。
目を閉じると目の前が真っ暗になるから、確かに光をイメージしやすくなった。
自分の右の手がほんのりと温かく感じ…、そして…
「アレンッ!」
焦った様子のヴォルさんに、私は閉じていた目を開けると、そこには眩しすぎる光の柱が天に向かって伸びていた。
驚く私は光の柱に驚愕すると、魔力が拡散されたのか、あっという間に光が消える。
「今回は俺の不手際だ。アレンの魔力量を考慮していなかった。すまない」
「あ、いいえ。私がちゃんと扱えてなかったから…」
謝るヴォルさんに慌てて首を振ると、難しい顔をされる。
「…魔力量が多いと扱うことも難しい。だから魔法が発動しなかったり、今のように魔力を大量消費しまうことにも繋がってしまうんだ。
…そして今のはかなりの魔力が持っていかれたと思うが、体調は大丈夫か?」
「は、はい……」
反射的に答えてしまったが、疲れやだるさ等一切感じていなかった私は首を傾げながら、手を握ったり開いたりさせる。
ちなみに魔力が底をついてしまうと、気を失ったりすることもあるらしい。
勿論失ってしまった魔力は安静にして休むことで回復していく。
それを繰り返すことによって保有する魔力量も徐々に増えていくらしいのだが、魔力が少ない状態で魔法を行使してしまうと稀に生命力が魔力に変換され、命の危険にも繋がってしまうらしいのだ。
だから体調を尋ねられたのかと私は思って、自分の体の中の魔力というものを意識した。
そんな私の様子を見たヴォルさんはひとまず安堵し手を差し出した。
「今度は俺が手を貸そう。手を貸してごらん」
言われたとおりにヴォルさんに手を差し出すと、私の手を包み込む形で握られる。
「小さな光の球をイメージして、魔力を少しだけ籠めてみてくれないか?」
「は、はい」
魔力を少しだけというのがまだよくわかってなかったけれど、なるべく小さい光の球をイメージをする。
すると、手のひらが暖かくなってきたが、先ほどと違うと感じたのはなにかにせき止められているような感じがしたということ。
そしてヴォルさんの「目をあけて」の言葉に従い目を開けると、自分の手の上に小さな光の球がふよふよと浮かんでいた。
「出来てる…?」
「ああ。…先ほどとは違う感覚がないか?」
「あの、なんだが…何かに止められているような、なんか変な感じがします」
「それは俺の魔力によるものだ。アレンから放出されている余分な魔力を私の魔力で止めているんだ」
「そんなこともできるの?」
ヴォルさんの手を借りてだが、初めての自分の魔法に思わず目を離せないままでいると、大きなヴォルさんの手が頭に乗せられた。
「普通は体の成長と共に徐々に魔力量が増えていく為、今回のように魔力をせき止めたことは初めてやったな。…アレンの今の目標は魔力操作を完璧にすることだ」
「ご、ごめんなさい…私…」
「謝らなくていい。共に頑張ろう」
そうして励ましてくれるヴォルさんの為にも、私は気合を入れた。
何度も何度も光を生み出す魔法を繰り返し、自分の魔力の流れを徐々に感じていく。
まぁ、その度にヴォルさんに手伝ってもらったけれど。
でも、徐々に止めている魔力量も少なくなっているといっていたから、少しだけ安心する気持ちと、早く一人で魔法を発動させられるようになりたいという気持ちが生まれ、更に気合を入れた。
そして一人で発動できるようになった頃
「アレン、そろそろ休憩を入れよう」
差し出されたお弁当を入れている籠に、私は自分がどれくらい集中しているかを知った。
じんわりと汗が噴き出す額に、少し早い鼓動。
全力疾走とはいかなくても、ずっと走り続けていたような疲労感にやっと気づいた。
「ありがとうございます」
「じゃあ座ろうか」
草の上に綺麗なハンカチを敷いたヴォルさんは、私に座るように促した。
思わず断ろうとしたけれど、縋るような眼差しを向けるヴォルさんに負けて、ありがたく腰を下ろす。
ヴォルさんから籠を受けとり、被せていた布をめくってサンドイッチをお披露目した私に少しだけ目を見開いたヴォルさん。
私は形を整えていた串を外して、そのまま手渡した。
意外にも大きく口を開いてかぶりつくヴォルさんに少しばかり驚いたがその後に「うまい」という一言を聞いて嬉しくなった。
私も頂こう。
「これはアレンが刻んだ野菜か?」
もぐもぐと租借したものを飲みこんでから肯定する。
「先週アレンは出来ないと言っていたが、これほど細かく刻めるようになったんだな」
凄いなと、たったそれだけなのに無性に嬉しく思って、そしてドキドキした。
「毎日お義父さんに教えて貰ってるから」
いつもならありがとうと返しているのに、なんでか相手がヴォルさんだと気恥ずかしくてそう告げてから、残っているサンドイッチにかぶりついた。
食べ進めると少し冷静になって、自分の言葉を思い出すとなんか愛想がないような、嫌な感じに思えてくる。
「…ヴォルさん、あの…」
目の前に座っているヴォルさんを見上げると、ずっと私を見ていたのかすぐに目が合って、口元を拭われた。
「ソースがついてる」
指先に着いたソースをペロリとなめとるヴォルさんに、私はあ、とか、う、とか言葉にならない声を発する。
だって、それ、私の口元についてたソースで。
ハンカチならあるのに。
教えてくれたら拭くのに。
でも嫌ではない。
ただ、恥ずかしいだけ。
「…あ、…ヴぉ、…ヴォルさんは…」
「ん?」
「ヴォルさんは自分がカッコいい事自覚したほうがいいと思います」
色々言いたいことがあるけども、私が言えた言葉はそれだけだった。
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