無償の愛【完結】

あおくん

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32.魔法の練習3

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サンドイッチを食べ終えた私はちらりとヴォルさんを見上げると、耳を赤くしたヴォルさんが同じように私を見ていた。

目が合い思わず顔をそむけると、午後の特訓について話をされる。



午前中に一人でも魔法を発動させられるようになった為、次の練習をしようと告げられたのだ。

なにをするのかを尋ねると、まだ魔力操作が不安定な私は、魔力操作を確実にするための練習だといわれる。



「魔力操作には出来る魔法を増やすのではなく、魔力そのものをコントロールできるようになった方が早いんだ」

「魔力そのもの?」

「ああ。魔法は早い話、魔力を使ってイメージを具現化するのだが、込める魔力量によって成功率が違う。

魔法毎に魔力量を把握していくのも手だが、それだと応用力に欠ける」

「…一度も発動したことがない魔法は、成功率が低い、ってこと?」

「その通りだ。アレンは騎士でも魔術師でもないが、魔法は出来たほうがいい」



確かに魔法は出来たほうがいい。

私もずっと使いたいと思っていたし、お義父さんとお義母さん、そして町の人たちをみると更にそう思う。

お義父さんとお義母さんの魔法はいうまでもないが、家の建築に材料を運搬する際風魔法を使用していたり、土魔法を使って沢山の花を咲かせているお店もある。



「…あの、習いたくないわけではないけど…、火や水、風に土の魔法だと生活にも便利な魔法を使えるよね。

私の光魔法って、どんなことが出来るの?」



私の質問に対して、考える仕草をした後ヴォルさんが口を開く。



「光に限らずどの属性も攻撃魔法、そして防御魔法を使うことが出来るが、光魔法が一番特化しているのは、速度だ」

「速度?」

「ああ、どんな魔法でも目に見えない速さの魔法を放つことが出来る。

騎士団や魔術師の中でも、光魔法を使えるものは戦闘力が高い傾向にあるんだ」

「そ、なんだ」

「生活に役立つものならば、王族のような治癒魔法は使うことは出来ないが、光魔法が影響している為か効果が高い薬が出来上がることが報告されている。

その証拠にアレン自ら刻んだキャベツが使われているからか、先程のサンドイッチを食べてから調子が良く感じているんだ」

「え、ほ、ほんとに!?」



思わずのめり込むように尋ねる私が面白かったのか、小さく笑ったヴォルさんを見て我に返る。



「ああ。まだ微量に感じる程度だが、今度魔力調整が完璧に出来るようになり、アレンが意図的に魔力を込められるようになったらもっと効果が高く出るかもしれないな」

「本当に出来たら凄いね!」

「ああ。騎士団の俺でさえ欲しいと思わざるを得ない才能だ」



なんか凄く嬉しい事を言ってもらったと、私は心を弾ませる。

でも社交辞令てきなお世辞のようなものだろうと、私はゆるゆるになった口元を引き締める為にもにゅもにゅと揉んだ。



「…先ほど曖昧な発言をしたが、俺はそれは真実だと思っている」

「?」



伸ばされたヴォルさんの手は私の前髪を指で分ける。



「先ほどまで汗を滲ませていた筈なのに、今はどうだ?」

「…そういえば、練習する前みたいな感じで疲れが吹っ飛んでる気がする!」

「ああ。だから、“夢が広がる”だろう?」



二ッと笑うヴォルさんに、私は顔と耳と、そして体温の変化を感じた。



今迄大人な男の人って感じで、同い年の男の子はレインとコクリ君くらいしかいなかったから、だからドキドキしてたんだって思っていたのに。

まるで子供のように楽しそうに笑ったヴォルさんの笑顔を見て、胸が苦しいし、ぎゅーってなって息もしづらくて、そして……変な感じになる。



「ヴォ、ヴォルさん!」

「おっ、…どうした?」



急に立ちあがった私に体をびくりとさせながらヴォルさんは尋ねた。

だけど、今の私はヴォルさんの顔を見て話す余裕はなかったから、そのまま明後日の方向を向いて大きな声で話す。



「練習!練習再開しよう!私早く魔力のコントロールうまくなりたいの!」







・・・



・・・・・



・・・・・・・





そしてもうすぐ陽が暮れ始めようとする頃、私は地に膝と手のひらをついて絶望していた。



(で、できない!!!)



午後。魔力のコントロールの為練習していたことは、自分の魔力を感じて、体中を移動させるという練習だった。

魔力を感じることは午前の時点である程度わかったつもりでいたし、その後の魔法の発動で魔力を移動させるということも出来るだろうと思っていたが、この移動がとても難しかった。



ヴォルさん曰く私が感じていた魔力はぼんやりとしていたことが一番の原因であろうということ。

だから私が感じているぼんやりした魔力が、魔力の移動というイメージがつかめずに、手で感じていた筈の自分の魔力が一向に動く気配がなかった。



鐘の音が聞こえ、私はのろのろと立ちあがる。



「そんな気を落とさなくても…」

「でも、折角ヴォルさんが忙しい中教えてくれてるのに…私は…全然上達、しなくて…」



自分の情けなさがどうしようもなかった。

じわりと湧き出てくる涙が視界を歪み始める。



「アレンには申し訳ないが、俺は嬉しかった」

「…どうして?」

「アレンの手をずっと握っていられたから」



照れた表情で、でも幸せそうに微笑むヴォルさんに、私はなんて返せばいいのかわからなかったけど、でも急に恥ずかしくなった。



体の中を魔力を移動させる判断をするため、私の両手をヴォルさんに握って貰っていたのだ。

右手にあった魔力を、体の中を移動させて左手に持っていく。

ちゃんと魔力が移動できたか確認する為に、ずっと手を握っていたのだ。





なにも答えない私にヴォルさんが咳払いをして、「陽が暮れ始める前に帰るか」と今日の授業を切り上げてくれたのは救いだったけれど、もう帰る時間かと寂しく思ったのも事実だった。



夕陽に照らされたヴォルさんの、金髪だけじゃなくて横から見上げる耳も頬も赤くなっていたことが、嬉しくて、胸がドキドキと高鳴った。













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