無償の愛【完結】

ぁおくん

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34.体の成長

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あれから一か月が経った。



ヴォルさんとの魔法の練習を何度か迎えると、あっという間にレインが帰ってくる日がやってきた。



一月とは早いようで短いもの。

あまり魔力操作の成果は伸びていない気もしたけれど、でもなんとかヴォルさんに及第点を貰えるくらいまでにはなった。



魔法玉を使用した魔法は簡単に使えるのだから魔法ももっと簡単かと思っていたけど、難しいね。



そもそも魔法玉には他属性の魔力を転換する魔方陣の他、誰もが使いやすくするために沢山の魔方陣が刻まれているらしい。

だからこそ自身の魔力を使っての魔法はとても難しいのだそうだ。

もっとこう…手からピカーってなるような感じでやりたいのに、自分の魔力を扱うことがとても難しいのだ。

今ではヴォルさんに及第点をもらったわけだけど、さらなる上を求めて、魔力操作が得意と言っていたお義母さんにもコツを教えて貰い毎日練習している。





話を戻すが、今日はレインが帰ってくる日なのだ。

久しぶりの家族の帰還に前回と同じように、私もお義父さんとお義母さんと一緒になって張り切って支度をする。



「アレン、クレープは任せてもいいか?」



そのお義父さんの言葉に目を輝かせて答えると、ふと視線を感じた。

ちらりと横目で確認するとお義母さんが心配そうな、…いや不安?不満?な顔をしている。

私はわざと目を合わせることなく、お義父さんの横に並んだのだが、お義父さんは無視することが出来なかったのか、溜息をついた。



「サリーナ…、ここ一ヶ月でアレンも上達してるんだ。

そんなに心配しなくても俺も隣で見ている」

「でもアレン一人に任せるだなんて…私達が食べるんじゃなくて、お店に出すのよ?」

「金を取らないデザートだろ?それにアレンの最初の試作だって、多少焦げてはいたが普通に旨かっただろう」

「確かにそうだけど…」



ちらりと視線を向けるお義母さんに私もくるりと振り向いて、安心させようと笑顔を向ける。



「大丈夫だよ!焼き加減もお義父さんに褒められるようになったんだから!」

「確かに…そうね…」



少しでも納得したのかお義母さんはそれ以上いうこともなく、店内の掃除やお金の準備をし始める。

よかったと思う私に、お義母さんの様子を見たお義父さんは小さく耳打ちした。



「サリーナはな、盛り付けは上手いが焼く工程が壊滅的なんだ」

「えっ」

「だからあれはアレンが羨ましいんだよ。俺から料理を任されたってことがな」

「……」



お義父さんの言葉を聞いて、私は前にお義母さんから聞いたことを思い出した。

お義母さんが料理をしてお義父さんに振舞った時、目は口程に物を言うことを実感させられたと。

だからお義母さんは料理をしなくなったのだと。

でもあれはお義父さんの基準が高いのではなくて、お義母さんの腕の問題だったのかと、私はこの時悟った。



片方だけの言葉だけだと真相が見えないって、本当なんだね。



そして私は生地を作り、クレープ生地になるように薄く延ばして焼いていった。

何枚も何枚も焼いて、焼いた生地を積み重ねたときふと思い出した。



「ミルクレープ…」

「なんだそれ?」

「あ、…あのね、今思い出したんだけど、クレープ生地と生クリームを交互に重ねたケーキがあったの。

食べた記憶はないんだけど……」

「へー、それも見たことがないな。じゃあクレープじゃなくて、そのミルクレープとやらを_」

「スポンジ生地じゃないのにケーキになるの!?」



元気がなさそうに見えていたお義母さんが高いテンションで前のめりに厨房に身を乗り出す。

そんなに大きな声で話していたわけではなかったから、食い気味なお義母さんに対して私は少し驚いてしまった。

お義父さんも笑顔のお義母さんに安心したのか、微笑ましそうに口元を緩ませる。



「…そうらしいぞ。じゃあアレン試しに作ってみてくれ」

「いいの?」

「かまわん。どうせ今日限りなんだから、変わったもん出したほうが楽しいだろう」



そう話すお義父さんに言われるまま、私は生クリームを手にして冷めたクレープ生地の間に塗り込んでいった。

何枚か重ね、ある程度高さが出たところで手を止める。

ちなみに、お義母さんはテーブルをふいていた手を止めて、厨房の中で私の手元を眺め「これなら私も出来るわね」と呟いていた。

やりたかったんだね、お義母さん。



「これがミルクレープか?」

「うん。本当はショートケーキみたいに切ったほうがもっとケーキっぽく見えるけど、端の方をカットして四角く切れば数も出来ると思うよ」



食べてみてと、残ってしまうだろう端の方をお皿に乗せて差し出すと、お義父さんもお義母さんも口に入れた瞬間目を輝かせた。



「美味しいわね!」

「うまいな…、それに他のケーキよりも甘さが控えめに感じる」

「しかも端の方が余るから、余分に取っておかなくても口に入るのがいいわね!」

「んっ、…本当だ。これなら沢山食べれちゃうね」

「そうね!」



口の中に広がる程よい甘さに頬を緩ませた私に、「じゃあ作っていくわよ!」とお義母さんが袖を捲る。

焼く工程がお義父さん的に心配らしいお義母さんには生クリームを塗って重ねていく作業と、切り分けてお皿に乗せていく作業をお願いして、私はせっせっと焼いていった。





















「アレンはご機嫌だな」

「だって大きくなったっていわれたんだよ!嬉しいに決まってるよ!」



前回と同じく陽が暮れる少し前に帰ってきたレインが、開口一番に言った言葉が「なんか大きくなったか?」なのだ。

勿論私に対してだ。

レイン曰く私の身長がだいぶ伸びたらしい。

確かにお義母さんとは頭一つ分と少しの身長差があった筈なのに、今では目線がお義母さんの顎あたりまで身長が伸びている。

毎日顔を会わせていたが故気付かなかったが、とても嬉しい変化に気付かせてくれたレインに感謝だ。



だってコクリ君や、ミーヤちゃん、ケイン君は私と同じ位の年齢の筈なのに、皆私より大きいのだ。

ちなみにミーヤちゃんは買い出し先である八百屋さんの娘で、ケイン君はお肉屋さんの息子。

お義母さんの買い出しについていってた私に話しかけてくれて仲良くなった、最近できた友達だ。

でも私の身長が低いからか、なんだかすごく子供扱いされる。

ミーヤちゃんが特にそうだ。

同じ女の子同士でも、ミーヤちゃんより小さいからか、よく頭を撫でられて妹扱いされてるのだ。

覚えてないからわからないけど、年だって変わらないはずなのにね!



「だからかな?最近ちょっとだけ膝とか関節部分に違和感感じるの」

「痛いってことか?」

「うーん、痛いって程じゃなくて、ちょっと違和感あるって感じかな?」



成長痛とは違うのか?と首を傾げるレインに、お義父さんが「それは男にあるやつだろう」とツッコミを入れていた。



「もしかしたら沢山食べるようになったから、今凄いスピードで成長してるかもね」

「私の成長期ってこと!?」

「ありえなくないわ。二か月くらい前のアレンはもーっと小さかったし、今よりも細かったからね。

きっとおいしいものを沢山食べてるから、体も合わせて成長し始めたのよ」

「お、お義父さん、私もっと食べる!おかわりある?今食べないと成長期逃しちゃうの!」



そんな私の言葉を聞いた三人は声をあげて笑っていたけれど、私は本気だった。

厨房に残っていたパンを更に頬張り、レインの為に作っていたケーキを皆で食べた後はもうお腹が苦しくて暫く動けなかったけれど。

これで、更に大きくなってくれると嬉しいな。

















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