無償の愛【完結】

あおくん

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35.知らない人からの手紙

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そして次の日。

私とレインは町をぶらぶらと歩き、噴水に背を向けて座っていた。
雲一つない青空を眺めると、どこかでシャボン玉でも飛ばしているのか、奇麗な模様が浮かんでいる丸い球がふよふよと浮かんでいた。

「そういえば、アレンは魔法どうしてるんだ?」
「年齢制限があったんだけど、今はヴォルさんに教えてもらってるんだ」
「ヴォルさん?」
「うん。前に一緒に出掛けたときにあった騎士のヴォルティスさんだよ」

そう告げると、レインは目を輝かせた後なんだか苦しそうな顔をして胸を押さえていた。

「どうしたの?」
「なんかイテェ…」
「え、大丈夫?どうしたんだろ……お家帰る?」

そう問いかけた私にレインは首を振った後、痛みをごまかそうとしているのか数回胸を叩いている。

「大丈夫だよ。それにしてもいいな。ヴォルティス団長は俺の憧れてる人なんだ」
「あ、…ごめんね」
「いいよ。ただでさえアレンは魔法も碌に使えねーんだろ?だったら、すごい人に習わねーとな!」

明るく笑顔を向けるレインは、本当に優しい人だと改めて思う。
だって憧れている人に教えられている人が身近にいたら、私だったら嫉妬しちゃうかもしれないから。

あ、もしかしたら嫉妬で胸が痛くなったとか?
確かに、同性愛も数は少ないけど珍しくないってお義母さんが言ってたことを思い出した私は、この話は早々に切り上げたほうがいいのかもと思った。
私もヴォルさんの事で悩んだ時、もし他の人にヴォルさんが私と同じように接してたらと聞かれ、想像して…胸が張り裂けそうに痛くなったから。

レインの胸が痛い原因が同じだったら?

レインもヴォルさんの事が好きでも、私はきっとヴォルさんを諦められない。
決めるのはヴォルさんだけど、それでも私は。

「…ほんとは俺が教えてーのに…」

ぼそりと呟かれた言葉が私にはよく聞こえなくて、もう一度と尋ねてみると何故か顔を赤くして断られてしまった。
なんていったのだろうかと疑問に思いつつ、先を行くレインを追いかけたのだった。










ふんふんと鼻歌を歌いながら簡単なお弁当を作っている。
今日はヴォルさんとの練習の日だからだ。
週に一度設けられた魔法の練習の日。
魔法は全然まだまだって感じだけど、それでもヴォルさんに会うのが楽しみであった私は張り切って弁当を作っていた。

ちなみに進展はしていない。
ヴォルさんになにもいわれていないってこともあるけれど、それ以上に私自身に自信がないからだ。

(ヴォルさんに美味しいって思ってほしいな)

そういう想いで作り上げたお弁当を持って、お義母さんとお義父さんに挨拶してから店を出る。

いつもならヴォルさんがお店まで迎えに来てくれるのだが、今日は門の周辺で待ち合わせをしているのだ。
なんでも国の南に位置しているドゥード地域へ用事があったらしく、迎えに行くのが遅くなると言っていたから、私から待ち合わせ場所を申し出てみた。
申し訳なさそうにしながらも頷いてくれたヴォルさんには悪いが、待ち合わせという行為を少し楽しみにしていたのだ。

「少し早くついちゃうかな?」

気持のいい青空を見上げながら、ちゅんちゅんと小鳥が屋根の上で鳴く様子に私は笑みをこぼす。
そんな時だった。

「アレン・フィーズでお間違いないでしょうか」

突然話しかけられた私は、自分の名前に立ち止まる。

いつの間にか目の前に人が立っていた。
黒い燕尾服のような服に身を包み、少し歳を召した男性が私と向かい合う。
けれど優しそうなおじいさんという見た目からか、怖いとは思わなかった。

「あ、はい。…私に用でしょうか?」
「はい」

ゆっくりと仕草で頷いた男性は、優雅な仕草のまま自己紹介をし始める。

「私はヌーアニア侯爵に仕えております、執事のセバンと申します。
貴女宛へお嬢様より手紙をお預かりしております為、お受け取りください」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それでは後日迎えに行きますので、よろしくお願いします」

懐から取り出した可愛らしい便箋を両手で手渡した男性に、思わず私も頭を下げながら受け取った。
すると他に用件は無かったのか、すぐに立ち去った男性に私は目を丸くする。

「これ、誰からの手紙なんだろう…?」

ピンク色の封筒にレースのような模様が白く描かれている手紙はとても可愛らしい印象を与えた。
思わずすぐ開けて読んでみたいと思ったけれど、ヴォルさんとの待ち合わせを優先した私は手紙をお弁当を入れている籠に入れて、門へと向かう。

(あれ、そういえばあの人渡した時なんかいってた気が…)

門にたどり着くと、タイミングよくヴォルさんが門の向こう側から歩いてきていた為、私も駆け出す。
よかった。
待たせてしまうことがなくて。

「おはよう、ヴォルさん」
「おはよう。アレン」

いつもと違う場所で会うのはなんだかとても新鮮な気持ちになる。
お弁当を持ってくれるヴォルさんに籠を手渡して、私達は壁外へと出る。

今日も天気がいい。
そよそよと気持ちいい風が少し伸びた髪の毛を揺らす為、私は髪を耳にかける。

そういえば髪も少し伸びた。
元々短かった上に変な感じで切られていた為、揃えるために髪の毛をお義母さんに切ってもらって、かなりショートヘアになっていたけれど、今では肩に着くくらい伸びている。

(ヴォルさんは髪の毛長い方が好きとかあるのかな?)

ちらりと隣を歩くヴォルさんを見上げるが、好みを尋ねる勇気はなかった。

あっという間に開けている平原に辿り着いた私たちは向き合う形で立つ。
ちなみにお弁当の籠はヴォルさんが持ってくれた。







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