無償の愛【完結】

ぁおくん

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39.進展_視点変更

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週に一度の幸せな一日。

この日を楽しみに生きているといっても過言ではないと、近頃の俺は思っていた。



「やぁ!最近どう?」



いつもの軽いノリにへらへらした態度。

第二騎士団副団長リーツ・プラトゥースはそんな態度の中に、どこか薄気味悪い何かを交えながら俺に絡み始める。



「……幸せだ」

「へ?」

「幸せすぎる……」



薄気味悪いニヤついた笑顔が一瞬固まり、更にニヤけるリーツは俺で楽しんでいることがわかる。

だが、決して悪だくみをするやつではないとわかっているからこそ、俺は素直に答えることが出来ているのだ。

それにこの幸せは助言をしてくれているこの男のおかげでもある。



「へぇ~~~!!!今どういう状況なのさ~!教えてよ~!」

「お前が手を動かすなら答えるぞ」

「ええええ!書類の山に飽きたからこうして息抜きしようとしてんのに!?団長鬼畜すぎ!団長のかわいこちゃんにチクっちゃうぞ!?」

「言ってもいいが…、アレンは真面目で一生懸命な子だからな。お前の味方はしないだろう」

「うわぁ、類は友を呼ぶってやつか!」



げ~と舌を出した後、ブツブツと何かを口にしながらも書類に目を通していくリーツを見て、俺は顔を曇らせた。



そう。アレンはとても真面目で、一生懸命な子なんだ。





◇◆





防御魔法もコツを掴み始めたアレンに対し、俺は攻撃魔法を教えることを決めた。



実際騎士団や魔術師、そして狩り人でもない限り、魔物と戦う機会は無いと断言しても良いほど、一般人に攻撃魔法を教えるのは意味のない行為であると言われている。

だが攻撃魔法はなにも魔物に対してのみ使用するものではない。

騎士として実際に街の警備を行っているからこそ実感する。

弱い立場の者は理不尽な目に遭いやすいのだ。

物を盗まれる者。

暴力から逃れるために差し出す、もしくは取り上げられる者。

小さな事件でも必ず発生する悪事を思い出し、やはりアレンには攻撃魔法を教えなければいけないという使命にかられた。



それにアレンは可愛い。

貴族ではないが、誘拐されてしまってもおかしくない程に可愛いのだ。

それも出会った頃の可愛さに、今では綺麗という魅力も追加されている。

心配にならない理由がわからなかった。



水魔法で手のひらに水の球を作り出すと、アレンのくりくりな大きな目が食いつくように一点を見つめる。

真剣な眼差しに思わず手を伸ばしかけたが、褒めるべきところではないと自らを叱り留めた。



「このままの状態で相手に投げつけても、ダメージはあまり負わせられないのはわかるか?」



コクリと頷くアレン。

サラリと指通りのよさそうな髪の毛が動き、(そういえば随分伸びたな)と頭の隅で思った。

頭の隅、なのは油断して本気で考えると、手が無意識に伸びてしまうからだ。



実際に短い髪もアレンの顔をよく見れる為俺としては良かったが、長くなった髪を耳にかける仕草だったり、髪を一つや二つに縛ったりと、様々なヘアスタイルのアレンにいつも新鮮な気持ちになった。

_この件については後にリーツから『ま、まさか無反応じゃないよね?褒めるところだからね!?』とアドバイスを貰い、アレンの顔が赤く染まる程褒めるようになった_



「ただの水の球だから、当たっても濡れるくらいってことだよね」

「そうだ。だから攻撃をする際は、形状を変えるんだ」

「形状?」



こてりと首を傾げるアレンに、心臓の鼓動が早くなる。

一つ一つの仕草が可愛い。

とても可愛い。



「…包丁は研ぐと、より切れやすくなるだろう?それと一緒で、攻撃魔法も球体の先端をとがらせればいい」



球体の水を素早く変え、小型ナイフのような形にしたあと、少し離れたところにある大きな岩に対して手を払う。



「あ!」



ナイフの形をした水は岩に突き刺さり、アレンの反応も良かったことに安堵した。



「もっと細く、鋭く、そして強固にすれば岩をも貫通するし、太く固い棒にすることが出来れば叩き割ることも出来る。そして…」



まだ形を保っている水魔法に追加で魔力を送り込むと、突き刺さっていただけのナイフが高速で回転し、岩を貫く。



「!すごいっ…」

「攻撃魔法の大事な点は、形状を変化させること。魔力の調整。…どれも防御魔法と変わらない事が大事だ」

「はい!」



元気よく返事をしたアレンは早速取り掛かる。

最初に時間をかけ魔力のコントロールを完璧にしたお陰か、形状変化も魔力の調整も問題なく行っている。



そう。



問題なく、出来てしまっているんだ。











■■





「…それの何が悪いのさ?」

「………。鈍い鈍いとお前に何度か言われたことがあるが、リーツ、お前こそ鈍いんじゃないか?」

「俺鈍くないんだけどー。で?何が悪いの?」

「アレンが真面目過ぎて、教えることがなくなってしまう」

「………へ?」

「アレンとの時間がなくなってしまうんだ」

「………」



これほどに絶望することが人生であるだろうか。

いや、ない。



はぁと大きな溜息を洩らすと、何故か前方で同じような溜息をもらす音が聞こえる。



「あのさ…、別に終わってもよくない?」

「なんだと!?」

「魔法の練習だけじゃないっしょ、会うための理由は。
まぁ団長に親近感を持ってもらうためにも魔法の練習っていう時間はいい理由だったと思うけどさ。
もう流石に距離は詰めたっしょ?ならさ、これからはデートに誘いなよ」

「で、…!……なにをすればいいのかわからない」



顔が熱くなるのを感じると、目の前にいるリーツが呆れを交えながら楽し気に笑う。

何とも器用なやつだ。



「ん~、…服をプレゼントするとかどう?身長伸びたとかいってたよね?」

「確かに…、服ならば嫌がられることもない、か」

「好みじゃないのは普通に嫌がられると思うけど、でも一緒に選ぶなら100%喜ぶよね!」

「そ、そうだな」



幼少期から女性という存在に興味はなく、また服装にもこだわりがない為果たして俺にアレンの服を選ぶということが出来るのかが不安ではあるが。

それでもアレンが喜んでくれるのならばと、決意する。



「…あれ、団長。通信入ってるよ」



ピカピカと光る通信具に手を伸ばすと、第一騎士団であるレドルド団長の映像が浮かび上がる。

通信具は直接魔道具に触れている者の姿を映し出すのだ。

第一騎士団長のレドルド側にも俺の姿が映し出されている筈だ。



「はい」

『今時間を取れるか?ドゥード地域にいる尋ね人のことだ』



そう口にするレドルド団長に対し、俺の答えは決まっているといってもいい。

リーツも先程までの緩んでいた顔を引き締め、副団長として相応しい顔つきに戻っていた。



「勿論です。お願いします」

『まず、フォンティーヌ団長が尋ねて欲しいといっていたことだが…尋ね人は“うさぎ”という言葉に明らかに反応を示した。
そして、ウサギという言葉に対して発していた人物に会いたいとも』



想像になってしまうが、聞き覚えのあるだろう単語に食いついた尋ね人の様子が浮かぶ。

もしかしたら、アレンにとって進歩のないことかもしれない。

何故なら尋ね人の反応については、客観的な感想だからだ。

少しずつ覚えているとはいっても言葉が通じていない尋ね人から、直接聞いたわけではないのだ。



尋ね人に会いに行くかどうか、それは俺が決めることではないと、返事を保留し通信具を切る。



「団長、返事、いいの?」

「ああ。…返事はアレンの言葉を聞いてからする」



この後すぐにでもアレンに、いやまずはアレンの両親になったフィーズ夫妻に先に話すべきかどうか悩みながら、まだ書類が山のように残っているリーツを置いてアレンのいるイート店に向かうことにしたのであった。















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