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なな ※エル視点
しおりを挟む■エルside
この日、俺は凄く緊張していた。
デシへの想いは割と早い段階で気付いた。
見ず知らずの俺を拾い、他の寝床なんてないのに献身的に看病してくれた彼女は、俺の体調が治っても態度を変えず、純粋な感情を真っすぐに向けてくれた。
そんな温かく接してくれる彼女を嫌うなどあり得なく、俺はすぐに…というわけではなかったが割と早く心を開いた。
あの日逃げるしかなかった魔物相手に、あっさりと勝利した彼女は、変わらない笑顔を俺に向けた。
森で一人で生きてきた彼女は、俺よりも格段に強い事は考えてみれば当たり前のことだ。
例え動物たちと親しくしていたとしても、守りもなにもない環境の中に身を置いていることは変わらないのだから。
なのに
”なにを守られているんだ”
彼女の笑顔を見て、俺はそう強く感じた。
速く感謝の気持ちを伝えなければ、そう思ってはいるのに、守られたことが恥ずかしくて、悔しくて、でも助かったことに安堵していて、ありがとうと伝えたいはずなのに、複雑な感情が溢れ出てきて俺はなにも言葉にできなかった。
『どうしたの?もしかして怪我した?』
俺の様子に不思議に思ったデシは駆け寄り、俺の体に怪我がないか確認する。
ふるふると首を振った俺に、デシは優しく微笑んで、抱きしめた。
まだデシより小さかった俺はすっぽりとデシの腕の中に収まったことも、悔しく感じ突き返したい衝動に駆られたが、それでもこの温かさを離したくなかった気持ちの方が大きかった。
『大丈夫。これからは私がエルを守ってあげるんだから、怖がらなくていいんだよ』
そう優しくいってくれたデシ。
でもそうじゃないんだ。
俺はデシに守られたことが恥ずかしくて……
_______そうか
(俺はデシに好意を抱いているんだ)
だからデシに保護されるだけの存在になりたくなく、デシに守られたことに対して、何故こんなに自分は弱いのかと自責の念に駆られているんだ。
まだ十歳だから。
でもそれがどうした。
正式な年齢は知らないが、デシだって俺とそんなに変わらない年齢の筈なんだ。
なのにデシはこんなに強い。
”日課だという森の見回り”とやらが、デシをここまで強くしているのだろうと、すぐに導き出した俺はデシを見上げた。
『次から俺もお前についていくからな!』
デシに守られることなく、それどころかデシを守れるようになるくらい強くなってやる。
そう意気込んでいた俺にデシはあっけらかんと拒否を口にした。
『え?ついてくって森の見回りに?』
『そうだ!』
『ダメだよ。エルは弱いし、走るのも遅いから』
『え』
『今日みたいに家にいても魔物が出て襲ってくるかもしれないけれど、ここには私と守りを任せられる仲良しな子が沢山いるの。
それに不思議なことに、家の周りには弱い魔物はあまり現れないから一番安全。
勿論どんな魔物でも倒せる自信はあるけど、私はエルだけじゃなく森の皆も大事なの。
エルを無傷のまま助けることが難しい可能性があるかもしれないからこそ、私はいつも一人で行動しているんだ』
そう言い切ったデシの足元で、自慢げに鼻を鳴らすライオンに、バサバサと羽を落とす勢いで羽ばたく鳥たち。
ライオンは俺を乗せて逃げたから自慢げにしているのだろうが、鳥たちはどうしたんだ。
まさか特別な鳴き声でデシに危険を知らせたとでもいうのか。
……いや、まさか。
いくらなんでも小さい脳みそをした鳥がそんな頭脳の高い事をするわけが……
『じゃあ、俺を強くしてくれ!強くなったらいいんだろ!?』
叫ぶように頼んだ俺に、デシは目を瞬き、少し考えてから頷いた。
『うん、わかったよ。お姉ちゃんが優しく教えてあげるからね!』
誰が誰の姉なんだという指摘はここではせず、俺はデシから教授される今後に意気込んだ。
それから三年。
この間で色々と変わったことがある。
まず一番初めにしたのは寝床を増やしたこと。
デシから学んだ魔法に使われる言語は、俺が今迄聞いたこともない言葉で、結局一つだけしか習得できなかったが、それでも想像したものを具現化できるという魔法は便利なもので、斧を成形し木を切り、釘をなるべく使用しない形を考えてベッドを作った。
流石に藁と布を挟んでいるとはいえ、草むらの上で寝るのは今までの経験から変えてしまいたいと感じていたからだ。
あと、最初は気にしなかったが、普通に好きな女に抱き枕状態でいるというのも、碌に寝れたもんじゃないというのも理由の一つ。
この時の俺は、自分の才能が恐ろしすぎて、本当に第二王子だったのかと思ったぐらい、完璧に近いベッドが出来ていた。
次に食器を作った。
デシは皿という概念がなかった。
採ってきたものはその場で食べるか、テーブルの上に直置き。
置く時に勢いがつくとそのままコロコロと転がり、地面に落ちる。
魚や肉に関しては、串代わりの木をぶっ差して焼いた後そのまま食べる。
まるでサバイバル生活だ。
他にも気になるところは手を加え、物だけではなくルールも決めた。
自分以外のベッドに勝手に潜り込まないこと。
昼過ぎまでに帰ってくること。
服はきちんと着ること。
他にも小さいことを思いつく度に決めていったが、この三つだけは最初に決め、すぐに守らせた。
昼過ぎまでにというのは、デシは出掛けると決まって魔物を狩ってくる。
今迄どうしていたんだと思うくらいに食に対して意識が薄く、ちゃんと血抜きをしたかった俺は早めに帰って来てくれとお願いした結果だ。
後の二つは、普通に求めたいことなのだが、それが守られず俺にとっては生き地獄。
<イケないこと……する?>
ふいにデシの言葉を思い出した俺は、家近くに流れている川に頭を突っ込むと、いくらか熱を持っていた頭が冷えるのを感じる。
「はぁ……」
胸がドキドキする。
まさか、デシから誘われるだなんて思ってもいなかった俺は、まだ明るい空を見上げた。
自分の歳を忘れて。
_ツンツン
「ん?」
なにか固いものに、手の甲をつつかれた感覚に視線を下すと、そこには一匹の亀がいた。
パクパクと口を動かしてはいるが、なにをいっているのかは俺にはわからない。
「すまない、俺はデシとは違いお前たちの言葉がわからないんだ」
そう口にすると、俺の言葉はわかるのか亀は首を振り、力みだす。
フルフルと震える体から、以前みたエルの手刀のように魔力があふれ出した。
その魔力は形を作り、文字となる。
「”き、た、い、す、る、な”…、期待するな?」
この亀は早朝の俺とデシのやり取りをみていたのか、そう俺に伝えた。
ツッコミどころは色々あったが、_何故魔力を扱えているのか、何故文字を知っているのか_俺は亀のその言葉に体からどっさりと力が抜けた。
「は、ハハハハ、だよな。デシのことだから、考えてるようなことじゃ、ない、よな…ハハハ」
自分で口にすると納得はするものの、どこか虚しい思いがこみ上げる。
亀はハァハァと息を荒くしただけだった。
もしかすると、魔力の具現化させて文字を作るということは、亀にとってとてもつらい事なのかもしれない。
それでもこうして伝えてくれたということは、後になって俺が落胆することがないようにという配慮なのか。
(どれほど浮かれていたように見えたんだ)
急に恥ずかしくなる。
「なぁ、なんでデシはこの森で一人でいるんだ?」
三年の間、一度だけデシに聞いたことがある。
けど、デシからの答えは「一人じゃなくて、皆も一緒だよ」というものだった。
そして「森の外には人が暮らす町や村があるが、森から出ることはしないのか?」に対して「シショーから絶対に森から出ちゃダメだっていわれたの。だから出ない」とも言われた。
その時のデシは固くなで、全く聞き入れてもらえない様子だったことを覚えている。
亀に目をやると、先ほど同様荒い息を繰り返しているだけで、先ほどのように教えてくれる様子はない。
「……疲れてるよな。教えてくれてありがとう」
感謝の言葉は今夜の事に対しての言葉である。
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