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はち ※エル視点
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「やっぱりな…」
亀からの忠告もあり、デシに限ってそんなことはないと思い続けてはいたが、それでもやっぱり落胆してしまうのは仕方がなかった。
食事の用意の為、デシが持ってきた大量の魔物を解体し、”皆”で食べ終わるころには陽が暮れ始めた。
そこから身を清めようとした俺に「また汚れちゃうよ?」といったのはデシ。
表情からはとても不思議そうな様子をうかがえた。
「なにが?」
「なんでもない。で、いけないことってなにするんだ?」
腕を組んで問いかけると、デシはこてんと首を傾げる。
くそ、今の仕草可愛いな…。
「夜に早く寝ないで夜更かしするんだから、イケないことでしょ?
そしてすることは、エルの実力を試させてもらおうと思ってね!」
こいつを育てたというシショーとやらは一体どんな教育をしたのか。
今時四つん這いの赤ん坊でしかそんなこと思わない。
俺らくらいの年頃になれば、性への興味が湧くんだからな。
デシは純粋すぎる。
「ほら!かかってきなよ!エル!」
指をくいくいと動かして、まるで俺を挑発するようなデシの仕草に、俺は具現化した剣を手に取った。
具現化した剣は凄い。
剣は一般的には鉄を使って成形される為、どうしても重量感が出てくる。
その重量感があるからこそ、威力や丈夫さがあるわけなのだが、この魔法の剣はまさに自由自在。
鞘に収めなくてもいい、重量感も調節出来、大きさも自由に変えられる。
これ以外の魔法が使えなかった俺は、それでも魔力の操作だけは出来た。
デシみたいに瞬間移動並みに早く動くことは出来なかったが、魔力を身に纏えばまるで鎧でもきているかのように防御することが出来る。
また腕に纏えば、力が増した。
俺はデシより長く伸びた足で距離を詰めると、剣を振る。
まるで持っていないかのように軽い剣を操り、何度も何度もデシへと剣を向けた。
だが俺がデシを攻撃していると思うと躊躇して、体が固まる。
顔や体を狙っている筈なのに、ズレる軌道にデシは眉をひそめた。
「エルってばなんでちゃんと狙わないの?さっきからズレてるよ!」
デシはその場からほぼ動いていない。
少し顔をずらしたり、体を動かすくらいで、全て避けているからだ。
「お前を攻撃できるわけがないだろ!」
「お姉ちゃんは無敵だから安心しなさい!」
「誰が姉だ!誰が!」
「わ・た・し!」
「………」
そうは言われても想い人を姉だと思うことはこの先一生ないだろうと考えた俺は、無言で返す。ちなみに目はきっと半開きになっているだろう。
デシはつまらなそうに頬を膨らませて、俺の剣を指でつかんだ。
「もう、やる気だしてよ。エルも森の見回りに同行させようと思ってるんだから」
「え……」
一瞬の間をおいて、俺は首を振った。
デシと共に行動したいといったのは強くなるため。
デシに守ってもらわなければならない保護対象としてではなく、男として意識して欲しいと、その気持ちからただ純粋に強くなりたいと思ったからこそ三年前の俺は口にした。
だけど今は違う。
勿論デシよりも強くなって、デシにカッコいいと思ってもらいたい気持ちはあったが、三年一緒に過ごしてふと頭をよぎったのは、自分の家族の事だ。
捨てられた当初は兄上に裏切られたと、その一心だったがはたして本当にそうなのか。
実際はあの女狐に兄上はいいように転がされていたのではないのか。
俺が倒れたとき見えたのは兄上の悲痛な表情であって、喜ぶ笑みではない。
例え兄上が関わっていようとも、全て兄上が仕組んだことではないことと今では思っている。
兄上はどうなったのか。
もしかしてあのまま女狐と籍をいれてしまったのか。
ちゃんと王太子として認められているのか。
体も成長し、強さも手に入れた今、戻ってもいいころ合いなのではないかと考えていたのだ。
だが、心残りはデシのこと。
デシも連れていきたい。
俺の想い人なのだと兄上にも両親にも紹介したい。
だが、何故デシがここにいるのか、森の見回りを日課にしているのか、守護神のように活動しているのか。
何故三年もの間、一度も森の外に出なかったのか。
なにもわからなかったからこそ、躊躇われた。
「デシ、真面目に教えてくれ。
お前なんでこの森にいるんだ?毎日のように森に異常がないか確認しているのは何故だ?まるで誰かに命令でもされているかのようだ」
以前尋ねた内容を変えて俺は質問した。
もう一度同じことを尋ねても、答えは同じままだろうからだ。
でも今回もきっと答えは返ってこない。
そう諦めかけた気持ちでいたときだった。
「この森にいるのは、ここを守れと命じられたからだよ」
「ッ、………め、いじられたって誰にだ?」
「わからない。その時私は寝ていたから。
でも眠い時だったからうるさくて、少し目を開けたんだけど、その時沢山の人間が話していたよ」
「顔は見たのか?」
「見えなかったよ。光が眩しくて、そのまままた寝たことしか覚えてない。
それに最近はなくなったけれど、森の中の異常を放置すると頭が痛くなるんだ。
だから、なるべく広く森の中を確認して異常があったら対応しているの。
今では皆も協力してくれるからね。二百年?三百…だったかな?その頃よりだいぶ楽になったよ」
「に、ひゃく…?」
ちょっと待て、今俺は何を聞いたんだ。
二百年前?三百年前?デシは何故そんな大昔の事を口にしているんだ。
「ちゃんとした年数はわからないけどね。でもアグマさんも言ってたよ。シショーが私を拾ってから早い事でもう三百年かって。
あ、じゃあ二百じゃなくて三百年前ってことだね」
「待て!待ってくれ!仮にデシが三百年生きてきたとしよう!
だがその頃王都に大きな災いがやってくると言われていた筈だ!その頃、そんな危険な頃にお前はここに一人でいたというのか!?」
「災い?…そんなの見たことないけど?
でも私がここに三百年ずっといたのは本当だよ。アグマさんは千年近く生きているからね」
俺は愕然とした。
十二~十五くらいかと思っていたデシは三百年の間森の中で生き続けていたという。
それに誰かの命令で森での生活を強要され、更には森で異常があった場合対応をさせられていたのだ。
デシは嘘は言わない。
だけど信じがたい話であることも事実。
だが、それが本当ならなんて酷い。
「ね、エル。その災いっていうのは結局どうなったの?」
「……今から約二百年前、災いは取り除かれたと宣言されたらしい」
詳細は不明だが、歴史を学ぶ上で聞かせられた内容だった。
昔はデシが使っているような魔法が一般的にもよく利用されていた。
その中には魔法を使って先を見通せる力、預言者という存在もいて、よく当たると評判だったその予言者は国で抱え込んでいたほどに重要な存在だったらしい。
ある日その予言者がこう告げた。
『この国に大きな災いが迫っている』
と。
その予言者を信じていた者たちはうろたえ、そして国を挙げて対応策を生み出した。
それがドラゴン撃退装置。
今では絵も残されていない為、どんな形をしているのかは不明だが、それでも成果はあったらしい。
災いが取り除かれたと宣言されて、一月の間お祭り騒ぎだったらしい。
そう教えられた。
そしてそれは真に起きたこと。
だからこそ、王都が陥落していないし今でも国が存在しているのだから。
「二百年前かー、やっぱりその災いってやつわかんないなー」
「わからなくていいだろ。もう絶滅したと聞いているんだから、この先みることもない」
「えー、なんだか勿体ないなー。そうだ!アグマさんなら知ってるかな!
アグマさーん!!」
ご飯を食べ終えその場でリラックスしていたのか、それとも俺とデシのことを見ていたのか、他の種別の動物たちと談話?している亀の元にデシは駆けていった。
俺は混乱している頭を押さえながら、デシの後についていく。
もう力試しはしないようだから。
「ね、ね、アグマさん!二百年前ってなにか大きなことあったかって覚えてる?」
亀はパクパクと口を開く。
相変わらず俺には聞こえなかった。
「えー、シショーが亡くなった頃なんだ……」
そう口にして落ち込むデシに、不可解な感覚を覚えた。
シショーという”人”がデシを拾って育て始めたのが、三百年前。
そのシショーが亡くなったのが二百年前。
つまりシショーは百年以上は余裕でいきていることになる。
点と点。
もう少しで紐解きそうな、もどかしい感覚。
「デシ、亀に…アグマに聞いてくれないか?
そのシショーってやつは、三百年前どこからかこの森にやってきたのか?それともずっとこの森にいたのか?」
「え?うん……、アグマさんどう?…うん、うん。
三百年前に起きたっていってるよ。それまではずっと寝ていたって」
シショーって寝るんだね!私あまり寝てるところみたことないのに!と笑うデシに、俺は更に問いかける。
「デシ、お前のシショーってもしかして…ドラゴンだったんじゃないか?」
俺の問いにデシはコテッと頭を横に動かしてから、にこやかな笑みを浮かべた。
まるで、自分の親や姉弟を自慢する時のように。
頬を少しだけ赤らませて、笑ったのだ。
「うん!シショーはドラゴンでね!とっても強くて、でもとっても優しかったの!
私シショーに沢山魔法とか教えてもらったし、森の見回りの事もシショーが生きてる時シショーと行ってたんだよ!
あと、私の為にね、あの家を作ってくれたのもシショーなの!」
頭がガツンと殴られたかのような衝撃を受けた。
つまりデシは本当に災い対策として作り出された存在。
一人で森に過ごしていたのも、まるで義務のように森の様子をチェックしていたのも、そのように命令がプログラムされていたから。
災いはドラゴンの事で。
そのドラゴンとは、デシを育ててくれたシショーというドラゴン。
何が預言者だ。
何が災いだ。
ドラゴンが周期的に長い睡眠から目覚めただけの事を騒ぎ立て、そして永遠に災いとやらを探し倒すために人造人間を作り出した。
デシとそのシショーとの関係も知らず、デシの育ての親でもあるドラゴンの死を喜んだ。
人間だったデシを、ドラゴン撃退装置として作り替えた。
「エル…、どうして泣いてるの?」
「泣いてなんかない…」
「嘘。目から沢山涙を流してるじゃない。
辛いことがあったの?もしかしてご飯足りなかった?私がエルの剣を簡単に受け止めたのがショックだった?」
「違う。違うんだ」
ただ、やるせなかった。
でもこれをデシにいうつもりはなかった。
「…なぁ、前に言ったよな。
この森から出てはいけないとシショーからいわれたって。理由、聞いたか?」
「ううん。ただ”お前を守るためだ”って」
「そうか」
やっぱり、デシはシショーという”親”に愛されていたんだと知った俺は、うっすらと笑った。
「俺、森を出るよ」
「どうして…?もう私といるの嫌になった?」
悲しそうに表情を歪めるデシの頬を、大きくなった手のひらで包み込む。
「調べたいことが出来た。でもこれは森の中にいては調べられない事なんだ。
だから森を出る。…いつか迎えに来るから、それまで待っててくれるか?」
■エルside終
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