呪いをかけられた王子は、人体実験の被験者に恋をする

あおくん

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きゅう

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エルが行ってしまった。

森に入る本当にギリギリのところまで、私はエルを見送りにやってきている。
勿論、この三年間でエルのことを好きになってくれた皆も一緒だ。

どんどん小さくなっていくエルの後姿を見ながら、ピーもライちゃんも私に体を擦りよせる。

きっと寂しいんだと思う。
寂しい心を埋めるように、温もりを求めているんだ。

エルはどうしてか、皆の言葉がわからなかった。
でもエルは、顔色…といえばいいのか、それとも仕草で判別しているのか、感情を読み解き、そしてうまく距離を詰めていった。
勿論言葉のわかる私が間に入ることもあった。
でも私がいなくても仲良く出来たエルだからこそ、言葉が通じなくても、いや言葉が通じないからこそ余計に好かれていた。

皆、皆エルが好きだからこそ、エルの姿が見えなくなるまで誰一人口を開かなかった。


『いっちゃったね』

「うん」

『寂しくなる』

「そうだね」

『だが、デシ、お前は準備をしなければならないぞ』


そう言葉を口にしたライちゃんに私は首を傾げた。


『どういうこと』


ピーちゃんも同じくわかっていないみたいだ。
仲間がいてほっとした。


『あやつは言っておっただろう。”迎え”に来ると』

「うん。だから”戻って”くるまで待ってるよ」

『違う。デシ、お前を”迎え”に来るんだ。
ここに”戻って”くるわけじゃない』


ライちゃんは真剣な目をしていってくる。
だけど、違いがわからない。


「戻ってくるの。エルは。そう約束した」

『違う。エルは確かにこの森に再びやってくるだろう。
だが、お前を連れて森を出るつもりだ。だからこそ”迎え”という言葉を口にした』

「シショーの言葉通り、私はここから離れることは出来ないんだよ。エルにだって伝えた。
そんな私をエルが森から連れ出そうとするわけがない」


シショーは亡くなる前、私に言った。
『絶対に森から出るな』と。
私に危険が及ぶ可能性があるからと、だからシショーは私に強制力の弱いお願いではなく命令を口にした。
シショーは凄い人なんだ。
先の事まで見通せるからこそ、私にそう告げたのだ。

それに私だって死ぬのが怖い。別れはもっと怖い。皆を巻き込んでしまう危険性があるのがとても怖い。
それに、もう出会ってしまったエルに、もう一度会いたい。
エルを待っているというエルとの約束を守りたい。
だから私はシショーからの命令を絶対に破らない。


『それは本当に出来ないことなのか?』

「わからないけど、なにかが起こってしまえばもう終わり。
シショーが忠告するほどなんだから」


少しの時間、ライちゃんが口を閉じる。
親分と呼ぶくらい、ライちゃんだってシショーのことを尊敬しているから。


『…もしエルが、デシが森から出ても問題ないということを証明したらどうする』

「シショーは嘘つかない」

『話を逸らすな。
それにエルの方こそお前を不幸にする嘘をつかないだろう』

「………」

『あいつはやる男だ。諦めが悪く、辛抱強い、だがとても優しい男だ』


エルの事は私が一番よくわかっている。
でも、私はなにも言えなくなった。
まるでシショーとエルのどちらを選ぶか、そんなことを聞かれているようだと、私は錯覚する。

エルのことは大好きだ。
なんでもしてあげたいと思うくらい大好きで、エルが笑ってくれるなら私はなんでも叶えたくなる。

だけど、それと同じ位シショーのことも好きだ。
けどもうシショーはいない。
亡くなってしまったから。
一緒にいた頃シショーは私にお願い事はしてきたことはもちろんある。
でも命令は、亡くなる直前のあの一つを除いてなかったのだ。
その命令を破ることで、シショーの存在を否定するような気持になりそうで、私は怖い。


『そう責めるでない』

「アグマさん…」


傍観に徹していたアグマさんが、どこから降ってきたのかライちゃんの背に落ちると私とライちゃんの言い合いに割って入る。
ちらりと上を見たところ、数羽の鳥の皆が木の枝にとまって羽を休めている。


『デシよ。お前の師匠はなにもお前をこの森に縛り付けようと思ったのではない。
お前に告げた言葉には、大事な意味が含まれている』

「…なに?」

『お前が幸せに暮らすことじゃ』

「幸せに暮らす?…なら、今だって私は幸せ」

『じゃがお前はエル坊と出会った』

「……」

『同族はいいじゃろう?
例えお前さんがワシらといくら親しくあろうが、同族以上にわかちあうことはない』

「そんなこと…!」

『なら何故三百年も一緒にいた我らよりも、三年しか共にいないあやつに対しての方が笑っておった?』

「ッ」


言葉に詰まる私をアグマさんだけではなく、皆が見た。
被害妄想かもしれない。
でも皆の視線がそうだと言っているように見えた。


『デシよ、お前さんも思ったことはあるだろう。
家族がいて羨ましいと。だからこそエル坊の存在は大きかったはずじゃ。
そしてワシが見る限り、お前はエル坊と共に過ごした方が幸せなのだと、わしは思う』

「私は、……エルがいなかった前も幸せだった」


思わず俯く私に、アグマさんが優しく諭すように言葉を続ける。


『…デシよ。例えここを離れようとも、それは永遠の別れではない。
この森が、ワシ等がいるこの森がお前さんの故郷になるだけじゃ』

「故郷…」

『お前さんの心から絶対に消えない、今まで生きてきた場所の事じゃ』


アグマさんの言葉を聞いて、少しだけ和らいだような気持ちになる。
それでもやっぱり、シショーの命令を破ろうとまでは思わなかった。

けど


「少し、……エルが来るまでに、考えてみる」


それだけ口にした。






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