呪いをかけられた王子は、人体実験の被験者に恋をする

あおくん

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じゅう

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「ふぁ…」


いつも通りの朝。
家に差し込む太陽の明かりと、皆が起き始める声と音で私は目を開ける。
エルが作ってくれたベッドの上で大きく伸びをして体をほぐす私は、隣のベッドへと顔を向けた。


「エル、朝だ…よ……。
…………そっか、昨日行っちゃったんだ」


「俺がいない間にカビが生えたら嫌だ」と、被せていた布をはぎ取り洗濯を済ませた藁布団は剥き出しの状態だ。
温もりもなにも残っていない様子に、私は胸がぽっかりと空いたような、そんな感覚が湧き出てくる。

この三年間で習慣づいてしまった行動に、私ははぁと息を吐き出した。
エルが来る前の日常に戻った筈なのに、とても寂しく感じる。
シショーが亡くなった時はここまでじゃなかった。
そりゃあ寂しかったけれど、あの時は皆がこれからも私と一緒にいてくれるって、そう思っていたから寂しくなかったと思う。

でも……


「ううん!だめだめ!エルは戻ってくるって言ってたんだから!」


エルはシショーのように死んでいない。
生きているからこそ、離れていることが余計に寂しく感じさせるのだろう。
でもエルは戻ってくると私に告げた。
くよくよと落ち込んでなんていられない。


(それに……)


私は約束した。
”考える”と。

エルが帰ってくるまでに、シショーの命令を守りたいという気持ちと、エルとこれからもずっと一緒に痛いという気持ちを整理しなくてはいけない。


(エルがまた森で一緒に暮らせるのなら、それで解決するんだけど………)


アグマさんとライちゃんの話では、それはないと強く断言していた。
だからこそ、私はちゃんと考えなければいけない。

私はベッドから降りて、シショーの魔石へと手を合わせる。


「行ってきます!」


外に出て両手を広げる。
うん!今日もいい天気だ!

森の中を歩くと沢山の声が聞こえる。
おはようだったり、私の名前を口にしたり、あえてうれしいと喜んでくれたりする中、私の後頭部目がけて突撃する一羽の鳥。


『デシ!デシ!!』

「ピー?なに?突然、痛いよ」

『そんなことどうでもいい!リープが子供生まれるって!一緒に行こう!』

「えええ!?」


衝撃の展開に慌ててピーと共に、リープのいる羊の群れのある所に向かった。

辿り着くと既に出産は始まっていて、とても苦しそうな表情を見せるリープに、旦那さんであるカーブが心配そうに顔を摺り寄せる。
ほっとした表情は一瞬で、リープは再び苦しそうにうめいた。


「り、リープ!頑張って!」

『頑張れ頑張れ!』


群れの皆が見守る中、そんな光景をみてしまった私たちは思わず駆け寄った。
そして声をかける。
私達に出来ることなんて声を出して応援する事しかない。
魔法で痛みを和らぐこともできるけれど、そうすると子供を上手に体外に出せず、子供は窒息死してしまうとシショーに教えられた。
こういう時こそ、何とかしてあげたいと思うのに。
心苦しく思っていると、リープから子供の体が胸部あたりまで出ていることに気付く。


「リープ!あとちょっとだよ!」

『頑張れ!頑張れ!』


そこから全身が出てくるまではあっという間だった。
カーブも安心したのか、嬉しそうに子を舐め、そしてリープに頬を摺りよせる。
二人の光景に、私とピーはホッと胸を撫で下ろした。


「ああ~、よかったねぇ、カーブ!リープお疲れ様!」

『ホントだよ!お疲れ、リープ!』


それからは周りで心配そうに見守っていた他の羊たちがわっとリープ達のもとへと寄ってきた。
アクターケアが大事なのか、棒立ちする私達にどいてどいてと鬼気迫る勢いで突進してきたために、私達は後で来ると告げてから急いで立ち去る。
あの血走った眼からは狂気まで感じられたからだ。

羊たちの群れから離れた私たちは、再び森の中を歩いていた。

他の羊たちの印象がとても強いが、心配する旦那の姿、そんな旦那の姿にほっと心を安らげたリープの姿も、子供を間に幸せそうにする二人の姿がとても印象に残った。
いいものを見させてもらったと、私はにまにまとほおを緩ませる。

こういう体験は意外とお目にかかれない。
三百年生きてきているが、タイミングが合わなかったりするのだ。
例えば森の逆側で見回りをしているとする。
出産するよと正反対の場所だよと教えられても、急いで駆け付けても一歩遅かったりするのだ。


『デシはエルが来たら子作りするんでしょ!子どもが生まれるとき教えて!』

「え!?」


突然言われた言葉に、思わず耳を疑った。
まさかピーから、こういう発言をきくとは思わなかったからだ。


「ピー、誤解してるよ。私とエルは姉弟だよ」

『それはデシがいってるだけ。エルのデシをみるめは恋する目だって、ライが言ってた!
だからピーは不思議。オスから求められているのに、デシはなんで受け入れないのか』

「え、ええーー」

『でもピーは納得した。エルは森から出ていった。
森から出ていくということは、その間デシとデシとの子を放置すること。
エルはちゃんと準備してからデシと子作りするんだって!』

「え、えーーー」


私は戸惑った。
まさかピーにそんなことを想われているのだと知らなかったからだ。
心なしか、顔が熱い。
風邪なんて引いたことなかったけど、遂にひいちゃったのかな。と頬を手で抑える。


『あ、でもデシはこの森から出ていくのか』

「え」

『出産時には間に合わないけど、子供は見せてね!
デシの子供とピーは仲良くなりたい!』


嬉しそうに羽を羽ばたくピーに、私は現実に戻った気分になる。


「ピーは、私が森から出ていっても平気、なの?」

『寂しいよ』

「だ、だよね!私も_」

『でもそれが独り立ち。ピーも子作りするときは親元から離れる。
でもそれが永遠の別れじゃない。だってピーのパパとママはこの森が家だから』


なんでもないように話すピーに、私の自分の意思とは関係なく口を開く。


「……、もし、私がこの森から出ていくことで、危険なことが起きたら、…どうするの…」


口にしてから、ピーに、なにを聞いているのだろうと、私は思った。
私が考えるべき事なのに、ピーを巻き込もうとしている。
ダメだと、私は思った。


「ごめん!今のなし!忘れて!」


慌てて発言を取り消そうとしても、ピーは首を傾げるだけで、そのまま質問に対して答えてくれる。


『デシがアグマとライが言ってた話。難しくてピーにはわからない。
でも、デシはピーたちを守って来てくれた。ありがたいし嬉しい。感謝しかない。
だけど、それが原因でデシが幸せじゃなくなるなら、ピーはいやだ。
森が危険に襲われるとか、そういうのは考えないで、デシが幸せになる為にはどうすればいいのかをピーは考えてほしい』

「ピー……」


ああ、やっぱり私は幸せだ。
ピーがいるから。
皆がいるから。
私は、幸せ。

本当に、そう思う。

でも、

朝起床時の時と同じように、家に帰ったときも、美味しいご飯を食べる時も、体の汚れを落とす時も、寝る時も。
いつだって探してしまうのは、つい昨日まで一緒にいたエルの姿。


_____寂しい。


まだ眠そうにするのも、美味しそうに肉にかぶりつく姿も、懐かしい。
一日いないだけなのに、エルの色んな姿を思い出す。


____寂しいよ。



一緒に水浴びをしようと誘えば照れたようにそっぽを向くエルが
魔物の毛皮を加工して布団にしようかなと考えこむ真面目な顔つきのエルが
寝ている私を起こさないように、静かに起きては剣を振って、頑張ってるエルが懐かしい。

いつの間にか家に戻ってきていた私は、暗くなった空に浮かぶ月を見て思った。

薄暗い月明かりに照らされるエルの姿、まるで夜の妖精のようだった。と。


『デシよ、泣いておるのか』

「泣いてるよ…」

『寂しいのか』

「寂しいよ…」

『アイツが恋しいか』

「恋しいよっ!」


まるでオウムのように答える私に、ライちゃんはふっと笑った。


「なに?」

『お前は素直だな。だが、鈍い』

「鈍い?どこが?」

『自分が今どう思っているのかをわかっているのに、自分がこれからどうしたいかをわかっていないから鈍いといっている』

「?」


首を傾げる私に、ライちゃんは今度は声をあげて笑う。


『アイツがいなくなって泣くほど寂しいのなら、もう離すべきではないということだ』

「でももしここから離れることになるなら、私は_」

『それがどうした』

「え」

『デシ、お前一人が森から出ただけで何が変わるというのだ』

「でも、私は皆を巻き込みたく_」

『お前がワシ等を守ってきたことは感謝する。
だがそれの所為で罪悪感を抱くのならば、ワシ等を強くしろ。エルにやったようにな』

「ライちゃんたちを、…強く?」

『ああ。ドラゴンの親分の魔力を少なからず浴びてきたワシらはもうただの動物ではない。だたの動物は百年以上もいきないからな。
そしてお前が協力してくれるのなら、いくらでも強くなろう。
お前がワシ等を心配などせぬようにな』


そうだろ!お前ら!と吠えたライちゃんの言葉をきっかけに、今まで姿を隠していたのか、沢山の動物たちが姿を現した。


『今まで守ってもらってきたからこそ、今度は俺たちがデシの幸せを手助けする!』
『そうだそうだー!』
『デシが悲しそうにするのは嫌だ!そのためには例え辛かろうと…!』
『あのちっさかったエル坊がやってこれたんだ!俺たちにも出来る!』
『そうだ!で、出来る!』
『あまりスパルタしないで欲しいけどーー!』
『お前それいうなよ!』
『デシには幸せになってほしいのーーー!』
『たまには帰って来てね!!』
『エルはいいオスだーーー!他のメスに取られる前にさっさと契りを結べーー!』


中にはスパルタ勘弁という言葉を口にした子もいたけれど、それでも皆私の事を思ってくれる言葉ばかりで、私の目にはどんどん涙が溢れ出す。
喉?ううん、鼻かな…?も、むずむずしてきて、でもすごく心が温かかった。


「ふふ、なに?他のメスに取られるって……。
……でも、そうだね。他の人に微笑むエルって想像したくないや」

『想像したくないのは、お前が男女の関係で、エルを好いているからだろうに』

「え?なにかいった?」


いまだに皆が声をあげている中だったから、一番近くにライちゃんがいたとしても、呟かれた言葉は上手く拾えなかった。
聞き取れなかった私に拗ねたのか、ライちゃんは少し間を置いてから答える。


『…あとで、その言葉をエルに伝えろ。
あいつ泣いて喜ぶだろう』

「ほんと?エルが喜ぶなら伝えるよ。ライちゃんも私が伝え忘れないよう覚えててね」


そう告げると、ライちゃんは意地悪そうな顔で私を見て笑った。





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