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じゅういち ※エル視点
しおりを挟む■エルside
森から出た俺は、デシと皆の熱い視線を感じながらひたすら町へと目指した。
肉眼でも町の存在を確認出来たことから比較的森から近く、俺は自分がどの場所にいたのかを三年ぶりに把握した。
王都から東の方角に、町二つを挟んだ場所から、最南端まで広がっている森があるのだが、その王都の二つ隣の町に俺はいた。
この町から王都までは徒歩だとかなりの日数がかかってしまうが、馬を借りればすぐだなと考えた俺は、この町を納めている領主の元を目指した。
今では魔法というものは廃れ、伝説と化しているが、昔は魔法が日常的だった時代があった。
そして魔力量が多いほど色素が濃いと言われている。
それは今現代も受け継いでおり、貴族以上の者からは色素が濃い者が生まれやすかったのだ。
その事から黒髪に黒目をしている俺は身分の高い者だと見受けられたし、そして第二王子は”行方不明”だと広まっていた為、すぐに第二王子であると理解してもらえた。
身なりを綺麗にし、領主から馬車を借りた。
王都にある王城を目指し、短いながらも旅が始まったのだ。
「少し、いいか」
活気がまるでない街の光景に、共に乗車していた領主の息子に声をかける。
嫡男ではない、向かい合わせで座っている領主の息子は騎士としてそれなりに活躍しているということで、護衛にと願われた為乗車を許した。
確か名前は、ジャン、といったか。
「はい。なんでもお尋ねください」
「何故ここまで活気がない。今は収穫の時期だろう」
平民にも直接かかわる収穫の時期は、一年の中も最も活気づくはずである。
なのにどうにも暗い雰囲気が漂っている為、理由を尋ねるとジャンは言いづらそうに口にした。
「三年前の第二王子の誘拐事件に続き、第一王子までもが病に伏せてしまわれました。
そしてつい先日にはその婚約者が息を引き取りましたことが、民への士気を下げることとなったと思われます」
”誘拐事件”という言葉がひっかかりながらも、その後の言葉の方が衝撃的だった俺は目を見開いて驚いた。
「兄上が、病に伏した?」
「はい。原因は不明だと、どんな医者でもお手上げだという噂がここまで広がってきています」
「………そして、兄上の婚約者が死んだ、と」
「はい。先月大きな葬式が開かれました」
「そうか」
婚約者の話には興味がなかった。
だが、兄上のことが引っ掛かった。
「あの女が、なにかしたのか…?」
「え?」
無意識に口に出していたのか、ボソリと呟いた言葉にジャンが戸惑う様子を見せる。
「いや、なんでもないんだ」
咄嗟に誤魔化してみせても、ジャンは眉尻を垂れ下げるばかりだ。
「……あの、不躾ながら殿下に伺いたいことがございます」
「なんだ?」
「殿下は、…その、第一王子の元婚約者に対して好意を抱いていたわけではない、のでしょうか?」
ちらちらと顔色を窺うように尋ねられ、俺は思わず眉をひそめた。
「何故そう思ったんだ?」
「あ、の……第一王子の元婚約者を”あの女”と呼んだこと、そして口に出した時の殿下の表情からそう思いました」
「そうか。だが、今後そう思ったとしても口に出すことは控えたほうがいい。
よからぬ思いを抱くものに利用されかねないからな。……それで、どうして俺に聞いた」
「それは………」
それからジャンから聞いた話は、耳を疑う話ばかりな内容のものだった。
証拠は何もない。当たり前だ。あれば証拠を使って叩きつけているだろう。
だがそうしないのは、証拠は何もないからだ。
だが、俺が死の境をさまよったのは明らかにあの女が原因だとは思っていたが、全ての事柄があの女の力だけでは覆い隠すことも出来ない事も確か。
だからジャンの話に耳を傾かせ、そして静かに考えを巡らせた。
◇
「エル!!ああ、エル!生きていてくれてよかった…、本当に…」
王城に着いた俺を出迎えていたのは父である王と、母である王妃を筆頭に、世話になった乳母に執事、そしてメイド達の数多くの者たちが迎えてくれた。
母上の抱擁は、成長した俺にとって随分力弱く感じたが、それでも変わらない温もりに安心感を覚えた。
「よく戻ってくれた」
決して流すことはしなかったが、それでも父から涙で潤んだ瞳で見つめられ、照れくさいような、むず痒い気持ちになる。
「お久しぶりです。父上、母上」
「そこの者は?」
「ここまで護衛と馬車を貸してくださいました、レルバックス侯爵の三男、ジャンといいます。
彼にはとてもお世話になりました。是非暫くの間ここで体を休めていただきたく思うのですが…」
「ああ、構わん。息子の恩人だ。ゆっくりと寛いでいってくれ」
父上の言葉に動き出した執事がジャンを伴い、この場から離れていく。
俺はこちらに目を向けるジャンに、こくりと頷いて見せた。
「それで、兄上の元に行きたいのですが」
「あ、…ああ、そうだな…」
歯切れの悪い物言いをしながら、躊躇う様子を見せる父上は、俺が何も知らないのだと思っているのだろう。
少しでも気を楽にさせるべく、ジャンから聞いたことを告げた。
「大丈夫ですよ。兄上の事はすでに知っていますから」
「そうか。移るものではないと聞いておる。こちらだ」
そうして案内されたのは兄上の私室。
これなら案内など必要ないのだが、何故父上は案内をしたのかとチラリと様子を窺った。
鍵もかけられていない扉を開けると、ベッドへ身を預けている兄上の姿と
「!?」
黒いもやもやした空気が兄上にまとわりついていた。
「兄上!!!」
俺は駆け寄り、必死で薄暗いもやを手で振り払う。
しかしこのもやは俺にしか見えていないのか、目を開けた兄上も、一緒に来た父上と母上も不思議そうな眼差しで俺を見つめていただけだった。
どういうことかと、眉を顰めていると寝ていた兄上の目が開く。
「…ああ、エル、”生きていてくれたか”」
げっそりとやせ細った兄上は、俺を見上げ、涙を流しながらそう言った。
「…何故、どうして兄上はこのように伏しているのですか。あの女になにかされたのですか…!?」
感情が高ぶる俺とは反対に、兄上は静寂だった。
そして静かに否定する。
「ちがう。ちがうのだ。
……父上と、母上はいるだろうか」
「何が違うと…、ええ、いますよ。二人とも」
「そうか。やっと私の罪を告白できる。
私は、エルに、危害を加えてしまいました」
息をのむ両親。俺自身も兄上の言葉に胸がズキンと痛んだ。
やはり、と。
「私が愚かだったのです。エルはずっと私を支えたいと、そう言ってくれていたのに。
そんなエルの言葉ではなく、周りの言葉を鵜呑みにし、頼ってはいけないものに手を伸ばしてしまった」
弱々しい声を出しながら、告白していく兄上は一度口を閉ざし、そして再び開く。
「エルが消えた後、急に痛みが体中に走るようになった。
きっとこれは神様からの罰なのだと、思いました
実の弟を信じ切ることが出来ない、愚かな兄への罰」
やはり、と思ったのは兄上に裏切られていたのだろうかと、心の何処かでそう思ったからだ。
デシに拾われた時、ピーと呼ばれた鳥が暫くの間騒いでいた。
『デシが命がけで守った』という言葉を後に_デシから_聞き出し、感謝もしない俺に怒っていたと知った。
謝罪と礼を告げると、鳥はやっと納得したのか、小さな羽でパシパシと頭を叩かれる。
恐らく肩を叩く行為をしたのだろう。
全く伝わらなかったが、「それでいいんだ」とでもいっているようなどや顔はわかった。
話を戻そう。
あのデシが命を掛けなければ助からないほどの重体に、俺はなっていたということだ。
そして、森を出ることを決めたとき、魔力で文字を作ることができる亀に、尋ねていた。
「俺はなんで倒れていたのだ」と。
亀は言った。呪いが俺を蝕んでいたのだと。
呪いを解くには術者を殺すか、もしくは……
「呪い返し……」
静寂な空気が流れる兄上の室内に、ぽつりと呟かれた言葉に俺は顔を上げる。
反応したのは俺だけではなく、父上もだった。
だが父上は信じられないと言う様子から、徐々に怒りを込み上げていく。
その様子に母上は体を強張らせた。
だが、母上の立てた仮説はあっている。
亀にはあれが呪いだと聞いていて、そして俺が治ったと思われるタイミングで兄上は病に倒れたのだから。
「呪い、だと!?
つまりお前は何者からか呪いの力を散りて、弟を呪ったと!?いったい誰が…!!!
そうか、あの娘か!お前と同様に倒れ、そして死んだあの娘がお前をたぶらかしたのだな!!」
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