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おまけ
しおりを挟むエルからの質問
「エル!危ない!!」
エルに向かって、鋭い爪を振りかざす魔物の姿に私は思わず魔法を展開させた。
<■■■■、■■■■■■>
◇
森から出て行ったエルが私を迎えに来てくれたあの日、私は森を出た。
寂しさはあった。
でも私も皆も笑顔で別れを告げた。
だってこれが最後の別れではないということはわかっているから。
『デシ、たまには顔を見せに来いよ』
『ピーは鳥だからいつでも会いに行くからね!』
『今度会うときは、俺様の爪がもっと迫力に満ちているだろう!』
『それをいうなら俺っちの牙のほうがすごいんじゃい!』
皆それぞれの言葉に思わず笑ってしまうと、皆は最後に声をそろえてこう言った。
『またな、デシ』
その言葉がうれしくて、堪えていた涙が零れ落ちた。
「もういいのか?」
皆のもとを離れ、エルに駆け寄った私が泣いているのを見てか、心配の色を浮かべたエルが私の顔を覗き込みながら尋ねる。
私は涙を拭いながら笑って答えた。
「うん。また会いに来るから。…それに」
「それに?」
「もう皆は私の手助けなんて必要ないくらい強くなったから」
「それは……」
「それは?」
なんとも言いずらそうにしながらも、答えるのを待っているとエルは観念して答える。
「複雑だ」
「なんで?」
「デシは、俺に強いっていったことがないから。
……俺だって強いって言われたい」
少し頬を染めながら、そう呟いたエルは尋常じゃないほどかわいかった。
そして思わずパチパチと瞬きをしてしまうくらい珍しいものを見た気がした。
「…ップ、アハハハハハハ!」
「なに笑ってんだ」
「だってエル、可愛いんだもん!」
「…可愛くなんてない」
「可愛いよ!」
「可愛くない!」
「アハハハハハハ!」
子供みたいなやり取りをしている私とエルの様子を見ていたエルの従者って人と目が合った私は「可愛いよね、エル」と話しかける。
すると、その人も思ったのか「はい」と微笑ましそうにしながら答えてくれた。
私は森を出るとき、皆を鍛えた。
といっても全ての動物たちだけではない。
中には生まれたての子や、戦闘に向かない子たちもいるため、その子たちには別のことを教えることにした。
遠くのものに連絡する術である。
戦えないものは殺されるしかない。だけど、助けを呼ぶことができれば、殺されなくて済むかもしれない。
そう思った私は、戦えない子にも頑張ってもらったのだ。
魔物はどこから生まれるのか、私にはわからない。
だけど、これだけはいえる。
魔物の頭はよくない。
魔物の特性を利用すれば、魔物の行動を誘導できるのだ。
そうすることで助けを呼んだ後も、逃げる時間を確保できる。
それでも皆に充てられた時間は決して多くはなかった。
『もし、勝ち目がなさそうな相手に遭遇した時は私を呼ぶか、森から追い出して。
そしたら私がやっつけてあげられるから!』
この考えにはエルにも賛同してくれた。
今まで三百年の間私がこの森を守ってきたのだ。
急に私がいなくなることで、大変なことになってしまうかもしれないとエルも承諾してくれた。
だから私が森から出てきてから、今まで現れなかったような魔物が現れるようになったと、嫌な表情でいわれるようになった。
そりゃあそうだと、私は思う。
だって今まで、私が森の中で倒してきたのだから。
それが今度からは、森の外で倒すようになった。
ただそれだけのことで、何を騒ぐことがあるのだろうと、私は首をかしげたものだ。
エルもそう思ってくれているのか、嫌な顔を浮かべていた人たちに私たちが魔物を倒している光景をみせると、否定的な声は上がらなくなった。
エルはすごいと思ったし、紹介されたエルのお兄さんも町の周りに壁を作って魔物から身を守れるようにしてくれた。
そして、森から出てきた私は、森の中とはあまり変わらない日々を過ごしていた。
教えられた場所に向かい魔物を倒す。
勿論エルも一緒に付き合ってくれたし、エルの部下?だと言っていた人たちも一緒に魔物を倒してくれた。
力の差は歴然だけど、その心構えがうれしかった。
まるで森の皆のような、一緒に行動してくれる、そんな感じ。
エルはその中でも、私を除くと一番強い。
もっと自慢してもいいくらい強いのに、エルはどうやら自信がないようだ。
どうしてだろうと考える。
魔物相手でも、エルは一対一なら負けない。
それくらい強くなったんだ。
だから、私もエルなら森の見回りに同行してもいいかもと思った。
でも多数が相手となると、エルは力を発揮することは難しかった。
何故ならば、相手がこちらの攻撃を待ってくれないから。
…ううん。もしかしてエルは周囲の状況把握ができていないのかもしれない。
今だって、真後ろに回り込んだ敵に反応が遅れていたから。
私の魔法で動きを封じられた、魔物をエルとエルの部下たちはバッサバサっと倒していく。
成長したエル。
だけど、まだ不十分だった。
まだまだ実践不足。
でも、実戦経験が多ければ多いほどよくなるだろう。
エルの今後がとても楽しみだと思いつつ、私も森から出てきた魔物を狩り続けた。
そして魔物を倒し終えると、エルはキリっとした表情のまま共に戦ってくれた部下たちに近寄り身を案じた。
エルのそういうところが好きだと、私は改めてそう思う。
「あ」
そういえば今回の魔物は動物型だ。
魔物の肉ちょっとわけてもらえないかな、と思った。
今度森に行ったとき、みんなにお土産として渡したいから。
◇
「エル、どうしたの?」
家に戻った途端、エルの表情が落ち込んだ。
さっきまでキリっとしていたのに、急に変わったエルの様子に私は首をかしげる。
「なんでもない」
「なんでもなくないよ。言ってみて。エルがそういう顔していることが、私は心配なの」
私がエルのためにできることならなんでもしてあげたい。
最初にエルに出会ったときから、その気持ちはずっと変わらないのだ。
「俺は……弱いままだ……」
「ん?」
「全然デシにいいところ、見せてあげられてない…。弱くて、頼りない…」
「んん??」
弱くて頼りない?あれ?これって誰の話をしてるんだっけ?、と本気で私は首をかしげる。
「それに不安になる。
俺はまだ未成年で…、来年辺境伯の爵位を授かることになるけど、でもデシにとって全然子供だ。
笑顔を俺以外に向けるデシをみると、取られてしまうかもしれないと、……不安になる」
未成年ってなんだろう?と思いつつも、きっと今口にすべきことはここじゃないよねと、疑問を口にすることを思いとどまらせる。
ちらりと悲しそうな眼をむけるエルに、私は口を開いた。
「エル。エルはかっこいいよ」
「え…」
「エルは凄く強くなった。魔法だって使える魔法は限られているけれど、応用をすごくきかせている。
その応用だって私が教えたわけじゃないし、エルが自分一人の力で身に着けたんだよ。すごいよ。
それに人を気遣うエルを子供だって思ってない。むしろエルのそういうところが私はかっこいいなって思ってる」
「デシ……」
「正直ね、私森から出て、人間って面倒くさいなって思ったの。
エルのお兄さんとかお母さん、お父さんと会ったときは感謝はされたけど、すごく周りの声がうるさかった。
あんな子供がーとか、よくわかんない言葉とかたくさんささやかれて、なんだかイラッてしちゃうくらい。
だからさ、私がエルを置いてほかの人のところに行くとかありえないよ」
「…じゃあ、笑顔を見せていたのは?」
「もしかして、肉をちょうだいっていってたあれ?
森にいる皆にもっていこうかなって思ったから、お願いしただけだよ」
そう答えると、エルは「なんだ、なんだ」と口にしながら安心したように笑った。
「元気になった?」
「ううん。まだ」
「ほかにも不安なことあるの?」
「あるよ」
「なに?」
私がエルの不安を取り除くことができるのならば、と身を乗り出すと、エルも私に顔を近づける。
動けば鼻がくっついてしまいそうな距離感に、私の頬が少しだけ熱くなった。
「デシは俺のことかっこいいって言ったよね?」
「え?う、うん。いったよ」
「もっと詳しく知りたい。どこがかっこいい?」
「え?だから頑張っているところとか、人を気遣えるところとか」
「じゃあ顔は?かっこいい?」
「顔!?え!?」
「じゃあ、好き?」
「す、好きだよ!大好き!エルのこと妖精さんみたいに思ったこともあるくらいだもん!」
「ふふ、なんだそれ……。
じゃあ、どれくらいかっこよくて好き?」
「え!?え、えっと……、す、すっごく!」
「ふはは、そっか。デシは俺のことすっごくかっこよくて好きって思ってるのか」
嬉しそうに笑うエルに、なんだかどんどん顔が熱くなっていく感じがして、なんだか不思議。
でも目をそらしたくない。
笑ったエルをもっと見たい。
だから私はエルの言葉を繰り返す。
「そうだよ!私は、エルのことすっごくすっごくカッコよくて、大好きだって思ってるんだから!!!」
見たかったエルの笑顔は、エルが私を抱きしめたことで見ることができなかった。
だけど、優しい声色で「俺も、デシのことがすっごくすっごく大好きだ」とささやかれて、思わず溶けそうになってしまったことは、皆には内緒にしとくんだ。
応援ありがとうございます!
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