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学園編~五学年~
9 部屋割り
しおりを挟む魔力供給は次の日からでいいよというヘルムートさんの言葉に、私とレルリラは宿舎へと向かった。
宿舎のある場所はお店がある街並みが場所から近いところにあり、そこまでいくとレロサーナ達とばったり行き会った。
お互いにどんな魔物と戦ったのかを話しながら、宿舎に向かうと私たちはそこでとんでもない事実に出くわしたのだった。
「え、男女一緒なのですか!?」
普段声を荒げることがないマリアが言った。
学園の寮でも建物は一緒だが、中が完全にわかれている造りだと問題ないのだろう、だけど魔法研究室の宿舎ではそうではなかったのだ。
すぐ隣に異性がいる。そんな事実が衝撃的だったのだろう。
ちなみに部屋は三人部屋らしい。
「魔法研究室では普通の事ですよ?」
目の下にくっきりと隈を付けた女性が首を傾げてそういった。
研究、実験が主な仕事場だとプライベートもおろそかになってしまうのだろうかと少し怖くなる。
だってこの様子だと疲労が溜まって、休みの日も寝て過ごすだけになりそうだからだ。
「しかも急に決まった事なんですね。部屋は五部屋らしいので、適当に決めてください。
私今日休日なので…もう眠い…」
紙をペラペラ捲り説明してくれた女性は眠そうにあくびをしながら立った状態で目を瞑る。
急に決まった事とはなんのことを言っているのかと思ったけど、そういえば魔法研究室にお世話になること自体が急な話だ。
きっとそのことを言っているのだろうと私は思いながら、レロサーナとエステルと同じ部屋でいい?と尋ねると勿論と返事が来る。
クラスの人数も多いわけでもないからあっという間にグループが出来たが、その結果に発狂する者がいた。
「無理ですううううううう!!!!」
「うわっ!」
縋りつくマリアに私は思わず声を上げる。
涙をいっぱいに溜めた目は瞬きをすると今にも流れ落ちそうだ。
「お願いよサラ!一生のお願い!私と変わって!このままだと私同衾というはしたない事をしてしまうわ!」
「いや、寝具はさすがに別でしょ。部屋が一緒なだけだから同衾っていわないんじゃない?」
「それでも婚約者でもない男性と一緒の部屋で一夜を過ごすだなんて!!!!」
「一夜じゃなくて半年だよ」
「余計に悪いわ!私このままだとお父様に怒られてしまう!」
「マリアがわるいわけじゃないじゃん。魔法研究室の方針がそうなだけで」
「だから変わってってお願いしているの!」
マリアが必死なのには部屋割りが納得いかないからだ。
男子が八人、女子が七人の合わせて十五人が魔法科Aクラスの人数だ。
三人部屋が五部屋だけを考えると丁度割り切れる人数で一見問題ないように思えるが、男女の性別が問題だった。
七人の女子はどうしても一人余るし、八人の男子では二人が余る。そして余った者同士が一つの部屋で寝泊まりすることになる。
私は親友とも思っているレロサーナとエステルと早々に「同じ部屋になろ」と誘ったので、溢れなかったというわけだ。
だけどそんな私に一人溢れてしまったマリアが縋りつく。
(まぁマリアは貴族だし……)
しょうがないか、と私は変わってあげることにした。
これで婚約者がみつからないと後で文句を言われてもと思ったのもある。
そんなわけで、男子と一緒の部屋になることになった私は相手は誰だと確認するために視線を向けると、そこにはマルコの襟首を掴んでいるレルリラがいた。
まるで猫を捕まえているような光景だが、男子も男子できっとマリアみたいに事情があったのかもしれない。
「そっちは決まった?」
私が尋ねると返事をしたのはキアだ。
少し楽しそうに笑っていたけど、いったい何があったのか。
「サラと一緒の部屋になるのはマルコとレルリラだ」
「え?レルリラ?大丈夫なの?」
私は純粋に疑問に思った。
マリアが必死なほどに拒否していたのだから、貴族にとって異性との関わり合いはきっと慎重にならないといけないはずだろう。
それなのに女子と一緒の部屋でいいのか?公爵家だろレルリラはと私は思ったのだ。
だけどレルリラは私の疑問が伝わっていないのか、それともレルリラの公爵家ではそんな大きな問題にならないのか、「嫌なのか?」と聞いてきた。
「嫌じゃないよ。けど、私と一緒の部屋になるのは同じ平民同士なんじゃないかと思っただけよ」
勿論もう一人がマルコということは、余った貴族の誰かがマルコに頼み込んだのだろう。
だって平民男子は三人だからね。
三人部屋なら平民同士固まったほうがなにかと都合がいいに決まっている。
「ならいい」
レルリラはそういって私から顔を背けた。
なんだろうと思ったが、目を瞑っていた女性が私達に間取り図のようなものを渡して去っていく。
(まぁ休日とかいってたしね)
部屋の場所は最上階の一番奥らしい。
◇
部屋に辿り着き、中を確認してみると本当に寝泊り的なものを想定しているのか、歩ける幅くらいのスペースを開けてベッドが三つ並べられ、そのベッドの足元側には長い木の板に三脚椅子が設置されていた。
まるでこれが机だよといっているような感じだけど、横のスペースはあっても奥行きはないし、勉強机には向かなそうだ。
他に扉があったがトイレとシャワールーム、そして洗面台があるくらい。
本当に寝泊りだけを想定しているような印象を受ける宿舎だ。
でもペーパーなどの消耗品が補充されているから、ちゃんと私たちの為に用意してくれたらしい。
これなら買い物も後回しでいいわねと私はベッドに腰を下ろす。
「これ寝間着かな?」
「そうなんじゃないか?」
ベッドの上にはくるぶしまではありそうな丈の長い白いワンピースタイプの服が畳まれている。
布生地もしっかりとしていて、これ一枚でよさそうだ。
男子も一緒なのかなとマルコの方を見てみると、どうやら一緒のようだ。
サイズも一緒っぽいから、私よりもデカくなったマルコとレルリラは七分丈から六分丈くらいになりそうだ。
体に寝間着のワンピースを当てて「似合う?」と意外と楽しんでいるマルコに「似合う似合う」と私は笑う。
「そういえばシャワーはどうする?順番」
「俺はいつでもいいぞ」
「レルリラは?」
「俺は………」
「レルリラ?」
何故か急に顔を赤く染めて黙り込むレルリラに私は首を傾げた。
そんなレルリラの態度にマルコは訳を知っているのかしらないのか、私の名を呼ぶ。
「なに?」
「お前他の部屋でシャワー浴びてこい」
「え、なんで?」
「俺のトラウマなんだ」
「トラウマ?」
マルコは真剣な顔で頷いた。
「俺の母ちゃん、湯上りには足を開いて股にタオルを当てるんだ。勢いよく。その音を思い出す」
「それ、レルリラには関係ないんじゃ…。しかも私もしないから問題ないでしょ」
「俺が女子が入ってるって思っただけで思い出すんだよ。いいからシャワー借りてこいって」
何故か腕を掴まれ、ぐいぐいと押されるように部屋から追い出される。
え、本当にどういうこと?
パタンと閉められた扉を呆然と見ているとガチャリと鍵がかかる音が聞こえた。
え、本当に締め出されたの?私
■
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